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始めてのおつかいは波乱万丈

「いい天気ー!!」


晴れ渡った青空と、暖かい日差しに思わず感嘆の声をあげる。すると後ろから空気をぶち壊すような声が聞こえてきた。


「ま、春だしな。当たり前だろ。」


後ろを振り返りながら唇を尖らせ、文句を言おうと口を開いたとき。


「ほら、口開いてるぞ。何しに来たんだよ。速く買い出し行くぞ。」


「……そうだね。」


その声に従って、喉元まで出掛けた文句を飲み込んで、私は先を歩くラインを追って歩き出した。




「良い野菜だよー!」


「取れ立てだ!うちが一番うまい魚だぜ!」


むせかえるような熱気に思わず息を飲む。


「凄い暑いんだけど……」


今春だったよね?とラインに確認する。黙って頷いたカインは彼も暑いらしく、目を手で覆った。


「速く買って帰ろうぜ……」


うんライン残念だったね。私はこのお祭りムードを見過ごせるほど大人じゃないんだな。じわじわと上がっていくテンションを感じながら、走り出した。


「冗談でしょ!?なるべく遊んで帰ろう!」


「あっ、おい、……カリン!!」



そのまま並んでいるお店を除き混みながら歩く。お店は屋台のような形式で、どれも取れたて、新鮮で美味しそうだ。よくわからない物ばかりだけど!うわ何あれ、生首!?


私たちは、今日城下で開かれる市場に、メイド長のアリアさんの言いつけで買い出しに来ていた。子供の私に、きっと楽しいだろうから、と言っておこずかいまで持たせてくれたのだ。

何故か王子は渋ったが、必ずラインと一緒にいることを条件に、渋々許可してくれた。

そしてクリアさんからはどこにいても持ち主のところに帰る魔宝石を2つくれた。1つはお財布と荷物につけて、もう1つは紐に通して首から下げる。これで迷子にならないそうだ。あれ、これって始めてのおつかい……

ううん!そんな事ないよ!私はメイドとして!お買い物に来ただけだから!!


「そうだよね、ライン!」


同意を求めて、勢いよくぐるっと振り返る。


「あれ?ライン……?」


いない。まったくあいつどこに行ったんだ。


「いなくなったのはっお前だろうがっ!」


「ぎゃっ!」


いた。それにしてもなぜ私の心の声が聞こえたのか。ラインは息を切らせながら怒鳴る。


「まったくガキみてーに走り出しやがって!探しただろうが!」


マジですか。てってへぺろ。


「えっと、ごめんなさい……?」


てへぺろは通じなさそうだったため、恐る恐る謝る。もしかして、走り回って探してくれたんだろうか。もう帰るとか言わないよね?大丈夫だよね?


「ったく……しょうがねぇな。俺のそばから離れるな。絶対にだぞ。」


そんな私の気持ちが伝わったのだろう。ラインは溜め息一つついて、困ったように笑った。


「っ……!うん!」


許してくれたようだ。まぁこれからははしゃぎすぎないように注意せねば。


それからはのんびりと二人で歩く。えっと、頼まれたものは……


「ガリアと、ラチイとサーリだって。知ってる?」


聞いたことのない名前ばっかりだ。ラインを窺うと、無言で頷いた。


「ああ。ガリアは魚、ラチイは果物、サーリは貝だ。」



へー。という顔をして頷く。


「ほら、あれだよ。」


ちょうど先のお店で売っていたため、足を運ぶ。お店の下は、日陰になっていて少し涼しい。


「これ。」


ラインが一つの果物を指差す。これがラチイか。赤くて、柔らかい。甘いのかな?


「一つで良いのかい?」


「は」


「ラチイ、2つ下さい。」


頷こうと私を遮って、ラインが店主さんに告げる。


「ライン……?」


一つで良いんだよ、と買い物メモを見せるとラインは分かってる、というように頷いた。


「始めて見るんだろ。食ってみれば。」


「っ、うん!」


有りがたく奢られておこう。にしても、ラインが優しいなんて違和感だなぁ。

お会計を済まして、立ち去ろうとすると店主さんに止められた。

何故か彼女はによによとしながらラインを見上げる。


「よっ、色男。ちゃんとアピールしとかないと大変だもんね?」


それを聞いたラインは、何だか複雑そうな顔をしたあと頷いた。


「彼女可愛いねぇ。視線が集まりまくりじゃないか。」


あれ、この場合彼女って私の事かな。まぁ二人だしそう見えるのかそうかそうか。


「ってえぇ!?かっ彼女じゃないです!違います!」


それを聞いた店主さんは目をパチクリさせたあとラインに向かってクスクスと笑いだした。


「いやあそっちの色男、大変だね。とびきりいい顔してるのに通じてないじゃないか。」


「俺たちはそういう関係じゃ無いんだよ。何を期待したのか知らんけどな。」


「そうかい?おや、二人とも鈍感無自覚ときた。こりゃ~波乱万丈だね!

嬢ちゃん、面白いもん見してくれたお礼にこれも持ってきなよ。東洋から仕入れたとびっきり珍しい果実さ。じわじわくるよ~」


何が?ちょっと怪しいけど、喜んで頂く事にした。


「わぁ、ありがとうございます!どんな味がするんですか!?」


「甘くて美味しいよ。ただ、一人で食べるのは、お勧めしないねぇ。」


何でだろうか。それ以来、聞いても聞いても店主さんは答えてくれなかった。



「不思議だねー。」


お店を出て、今度はのんびりと歩きながらラインと話す。


「どーせ大したもんじゃねぇだろ。」


ただで貰えるものなんて。そんな事を言うカインに私は眉を下げ緩く微笑んだ。


「まぁね。ただが一番高いってよく言うもんね?」


「なんだそりゃ」


「えー知らないの?」


こっちの世界にはないんだろうか。


まあ話している内容はそんなどうでもいい話なのだが、こんなポカポカした日だとそれだけでも心が弾むなぁ。


「うわあっ!」


ふと、男性の声が聞こえた。なんだろうか、何かに襲われたような声に心臓が跳ねる音がした。


「ねぇ、カイン……」


カインを見上げながらそう言うと、彼は面倒くさそうに告げる。


「ったく……いいな。これはこの世界ではよくある事だ。これからは一回一回助けてやれるほど暇じゃない。わかったな。 ほら、行くぞ。」


見捨てるっていうの。そんな私の声にならない声を敏感に聞き取ったカインは、再び頭を掻いた。


「お前、偽善でなんでもできるなんて思うなよ。助けてほしいやつなんて、この世界には山ほどいるんだ。お前はそいつら全部助けて回れるのか?」


俯いて唇を噛み締める。視界に入る自分の足は、この国の人とは比べ物にならないほど細く、また脆弱だった。

私だってできないよ。そんなの。それでも。


「あっ、カリン!ったく、カリン!!」


ラインの声を降りきって走りだす。目の前にいる人ぐらい、助けられるんだったら助けたい。それが偽善だと言われても、手を伸ばしたい。


無我夢中で走る。声はどの辺りから聞こえたんだろうか。


「やめろ!っ、うっ!」


段々声が近付いてくる。どこにいる、こっちなの?袋小路に飛び込んだ。


「おい、何ぐずぐずしてるんだ。早くしろ。」


同時に、犯人らしき男の声も聞こえてきた。

後少しっ……!


「っ、止めなさい!」


間に合った。


「あ?おい、可愛いお嬢ちゃんが来たよ。」


「おーっ上玉じゃねえか!おい、嬢ちゃん、俺たちと一緒に来いよ。」


そんな下卑た声を完全に無視して、床に転がる男性に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


男性は、息悶えながら私の方を向いた。


「おい、なんで……来ちまったんだよ……」


「聞こえちゃったんだからしょうがないじゃないですか。」


後ろの暴漢そっちのけで、淡々と男性の体を見る。見える限り大きな怪我はないようだ。ほっと息をつく。


「おいおい……そんなやつ、ほっとけよ。俺と遊ぼうぜ?」



後から肩を掴んできた暴漢Aを振り払う。


「私に、触らないで。」


静かなその声に、暴漢は一瞬たじろいだが、すぐに額に青筋を浮かべて私を睨み付けてきた。


「あんだと……?てめぇ、優しくしておけば付け上がりやがって……」


そんなテンプレな台詞を吐く暴漢を見ながら私は心のなかでふと、思った。こんなやつ、弾けてしまえばいいのに。


「え?」


すると、次の瞬間文字通り、人が弾けとび、辺りに肉片と血が飛び散った。


「うわぁっ……!」


辺りに男性と、暴漢Bの声がひきつった悲鳴が響く。え、今私何をした?


「えっ……嘘。私……?」


私がやったんだろうか。そんなわけない。私は頭のなかで念じただけだ。そんな事あり得ない。あり得ないこともない?だってこの世界は魔法がある世界だ、人が弾ける魔法があっても不思議じゃない。でも私が?

非常にパニックになりながらも、一つの仮説にたどり着く。

もしも、今これをやったのが私なら。


もう一度、今度は逆の事ができないかな。


頭のなかで念じる。元通りになれ。元通りの人間に……。


なった。


「え?俺……。」


みるみると再構築されていく。

青ざめる処じゃない、紙のように白くなった暴漢A、Bの顔を見つめながら、自分でも驚くほど冷静、冷淡に告げる。


「もう一度同じ目にあいたくなかったら去りなさい。」


もし、こいつらがもう一度向かってきたら、もしあれをやったのが私なんだとしたら、私は躊躇いもなくもう一度同じことをするだろう。

走り去った暴漢達の後ろ姿を見詰めながら、すっかりその存在を忘れていた男性に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


男性は、暫く焦点の合わない虚ろな目をしていたが、自分のなかで錯覚だったと折り合いをつけたらしく急に現実に戻ってきた。


「ありがとう。礼を言う。あっ、俺はサハンっていうんだ。」


「いえ、全然。大したことしてませんよ。無事で良かった……。」


微笑んで、男性、サハンを見る。サハンも私を見てにっこりと笑い返してくれた。

なにこのほんわりとした空気。



そしてその後、私は迎えに来たラインにこってり絞られ、その後帰ってからも王子に絞られ、また日常に戻っていった。あの非、日常の事を忘れたように振る舞って。






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