謝罪と気持ち
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「きっ、緊張する……」
生まれて初めて男の人の部屋に訪ねてきた私は、地味に緊張していた。
しょうがない。だって元々中学生!頻繁に男の人の部屋を訪問していたらそれはそれでアレだろう。
で、私が今来ているのはクリアさんの部屋の前だ。ここまで来ちゃったけどやっぱり帰ろうかな。なんかアレでアレな事情で日を改めた方がいいと思うんだ。
そんなへタレな事を考えていたのを察したのか、ご丁寧にも内側から扉が開いた。
「うわっ」
「うぎゃっ」
似たような悲鳴が二つ廊下に響く。どっちが私の悲鳴かは察してほしい。
「あれ?君は……」
「……こんにちは。」
「……」
「……」
なにこの沈黙。どうしよう。
「……とりあえず、入る?」
そんな気まずい空気を破ったのはクリアさんの方だった。
「はい!」
とりあえず、この空気から逃れられるならなんでもいい。
そしてそのまま案内されたクリアさんの部屋は、意外にも綺麗だった。
魔法に関する文献に溢れていて、魔法が好きなんだなぁって感じさせる部屋だった。
「……ふっ」
私がキョロキョロと見回していたのがおかしかったのか小さく吹き出したラインさんを見ると、
「いや、ごめんね。可愛かったから、つい。」
と言った。
「可愛いなんて簡単に言っちゃいけませんよ。誤解を生みますよ。」
そう。上部だけのお世辞がどんな結末を迎えるか、私はよく知ってる。
そんな私の言葉に驚いたのかクリアさんは、目を丸くして、こう言った。
「あれ?可愛いなんて言われなれてると思ったけど。違う?」
嫌なところついてくるな、この人。
「別に、そんなことありませんよ。」
にっこり笑い、そう言いきった私を見て、クリアさんは不審そうな顔をしたがそれ以上突っ込んでくることはなかった。
「ふーん。まぁそんなことはどうでもいいんだけどさ。どうしたの?アレン様に何か言われたの?」
どうやらこの人は勘が鋭い人らしい。
「そうです。」
「あぁやっぱり……僕はね、君に話があったんだ。」
とりあえず、座ってよ。そんな言葉に頷き、手で示されたソファーに座る。わ、ふわふわ。
「僕はね、君に謝りたかったんだ。」
私はただ黙っている。なんて言えばいいのか言葉がわからないから。
「言い訳になっちゃうんだけどね。俺は君を召喚する気はなかったのは本当なんだ。
あの魔方陣はただの雨をよぶ魔方陣だったはずなんだけど……暴走してしまった。
原因も、君を帰す方法も必死で探してる。こんな事を言うのは卑怯だと思うんだけどね。言わせてもらってもいいかな?」
「……はい。」
「本当に、ごめんね。君を、子供を親から引き離すなんて残酷なことをしてしまった。本当にすまなかった。友達もいただろう?家族もいただろう?悪かった。許してくれとは、言わない。ただ、謝りたかった。」
「……」
私は無言でいる。
それから、二人とも何も言わず、重い沈黙がその場を支配した。
もういいです、なんていい子なことは正直言えない。この人の責任じゃないことは分かってる。分かってるけど、苦しい。
それでも。
「もう、いいです。貴方が悪い訳じゃないでしょう?気にしないで下さい。」
こう言うしかないじゃないか。この人も苦しんでる。どうしようもないことで、苦しんでる。その苦しみを延長させても誰も得しないし、私も嬉しくなんてない。
「君は……優しいね。」
そんなことないよ。私は、自分が人を苦しめてるって事実から逃げたかっただけなんだよ。
「じゃあ、私は帰りますね。」
「あ、うん。」
そのまま帰ろうとした私を見て、クリアさんはこう言った。
「俺にできることがあったら何でも言ってね。君のために、僕は何でもするから。」
ここで、私は初めて笑うことができたんだ。
「ありがとうございます。」
ありがとう。その言葉を偽りたくはないから。
私はこの世界を受け入れよう。この世界で、変える方法を探しながら、足掻いてみようと、思った。