天使様かむひあ ①
一定のリズムで間延びした鐘の音が、校内に響き渡る。時刻は16時。このタイミングで鳴り響く鐘の音は、一日の終わりを意味している。
それまで無機質な椅子と机に縛り付けられていた生徒達は、チャイムと同時に一斉に動き出す。教室内は一気にざわめき出した。
鐘の音は、救済の福音だ。
それはまるで、石化した善良な一般市民を封印から解放してくれるような。とてもありがたい、神様からの贈り物なのだ。
少なくとも、学生である俺。
秋城 裕司にとってはそう思えた。
その大いなる力で、悲しむ民を無条件で救う存在、神。
なんともボランティア精神に溢れている。到底、俺には真似出来ないだろう。頭が下がる。
その証拠に、俺はボランティアどころか献血にすら行ったこともない。募金をするにしても十円以上はしたことがない。
何故なら、俺は見返りが欲しいからだ。
社会的にも、資産的にも余裕のない学生風情の俺には、他人を救いたいと思う心の余裕がない。
でも、俺以外にも同じような人間が大多数いるから、俺は安心して人間をやっていられる。そのたくさんの仲間のおかげで、自分は間違っていないと確認出来る。