村の守護者、祈り子
その日はとても賑やかだった。リンさんが焼いた木の実のパイは、村の子ども達によって、またたく間になくなった。そしてパイがなくなった後も村の者たちは夜遅くまで歌って踊っていた。「セレネちゃんは外へ出ないの?」ふと後ろから声がかかる。「私は人間ですよ。獣人の祭に人間が紛れ込んだらそれこそ血祭りに上げられます」私は後ろを向かずに答えた。リンさんは微笑みながら私の隣に座った。
「今日は星が綺麗ね」空を見上げてリンさんがつぶやく。私はそれには答えずに、前から疑問に思っていたことを聞いてみる。「私がこの村にいられるのはリンさんが祈り子だからですよね。祈り子ってなんなんですか?」
リンさんは少し考えるように首を傾げ、口を開く。「風読みの力を持つ者のことを祈り子というの。風読みというのはね、風の強さや、風向きや、湿度、そしてこれが出来る者は少ないのだけれど色を読むことが出来る力をさすの」「強さや風向きなどは分かりますが色、ですか…」「色よ。祈り子は狐の獣人の一族の家系にしか産まれなくてね。私がお母様から聞いた話では、私のアルフォート一族。ケリティア一族。そして家名は忘れてしまったのだけれど後一つの一族。合計で三つの一族が祈り子の血を持つのよ。先祖の中には古の種族である竜より神格を授かった者もいるらしいわ」「竜から神格を⁉︎」「えぇ。5代目の方。ちなみに私は14代目よ。そしてその5代目の言葉が残っているのだけど、どうやら強さ、風向き、湿度は身体に流れている血が読んでいるらしいんだけれど色はその者の心が読んでいるらしいわ。読むというから分からないのかしら。ねぇ、あなたは朝の風と昼の風が同じだと感じる?」「…いえ、はっきりとは言えませんが、朝より昼の方が暖かい色のように感じます」「そうでしょう?つまりはそういうことなの。そうして読んだ情報を合わせて天気や魔物の襲来を予測し、村人を守るのが祈り子の役目。だから私は攻撃系の魔法はすてた。その代わり防御魔法はかなりのものよ」「魔物の襲来まで予測出来るんですか⁉︎ていうかそれだけ防御魔法が凄いんだったらあの時も、普通に村へもどれたのでは…」私が言うあの時とはもちろん私達が出会ったあの日である。「あら、それは無理よ。私の防御魔法は村一つを守ることは出来ても個人を守ることにはむいてないの。魔法といっても万能なわけではないでしょう。それにあの魔法の発動には時間がかかるのよ?その時の気候に合わせて変えるんだもの。だからこそ強力なのよ」「難しいですね。でもリンさんの色なら分かります。リンさんは温かなオレンジ色をしている。太陽のような人です。一緒にいると安心します」そう言うとリンさんは一瞬驚いた後に「あら、セレネちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわ。あなたは、そうね…。深い碧色に見えるわ。冷たい色なのだけど温かい色でもある。深く吸い込まれそうな神秘的な色ね」と、微笑む。「深い碧…………」「自分ではよく分からないものよ。でも私のは説明できるわね。あのね、今はもう死んでしまっていないのだけど。私にはもう一人子供がいたのよ。生きていればあなたの3つ上の女の子。その子の名はセルリア。雰囲気は全く違うのだけど外見はあなたに似ていたのよ。お祖父様からの遺伝である、あなたと同じ銀色の髪が足首まであって、とても可愛らしい娘だった。村を、そして村の者達をとても愛していた。村の物達も娘を愛してくれていた。けれどある日、森へ出かけたまま帰ってこなくてね。村の者と探しに出かけたら、左腕と右足がなくなった状態で発見されたの。あの娘は獣達との意思疎通が出来たから、おそらくは魔物に食いちぎられたのでしょう。彼女がいなくなってからは本当に色のない世界になった。どうしても風の色だけが読めなくなったのよ。でも村の者達が支えになってくれた。私は祈り子であるくせに、村の守護者であるくせに、娘を守れなかった。けれどある時、ずっと支えてくれた村の者だけは必ず守り抜こうと、娘の愛していたこの村を守ろうと、そうしたら娘も喜ぶだろうと、そう思ったのよ。そして何年か経った後リトが産まれた。あの子にもセルリアの話をしたことがあるから、あなたに姉の面影をかさねているのかしらね。そしてね。私はあなたを初めて見たときもう一度セルに会えた気がしてとても嬉しかったの。もちろん全くの別人だとは分かっていた。性格も全然違う。あの娘が太陽だとすればあなたは月のような人。けど外見が似てるからか、私はあなたを実の娘のように思って接していたの。だからあなたが感じていたのは母性だと思うわ」なるほど。その事を聞いて少し納得した。リトが私の事をいきなりセル姉と読んだのも、セルリアの話を聞いていたからか。「そうですか。母親というものはこんなにも温かなものなんですね」「あなたのお母様は?」「私が3歳の時に亡くなったと聞きました」「そう。なら記憶はあまりないのね。でもあなたは母の温かさを、優しさを知っているはず。母親は子どもが産まれたなら必ず腕に抱くもの。そしてあなたは他人をあまり好きではないようだし、あなたに対する目も冷たいものばかりだけど、あなたは優しい。それは誰かに優しくされたことがあるからよ。優しさを知らない者は誰かに優しくすることはできないもの」その言葉に頷きながらふと思った。
ならばあの夢に出てきたあの優しく温かな女はもしかしたら……。