懐かしい人
村に帰ると予想通り抱きついてくるリト。「セル姉、おかえり!」嬉しそうに笑うリトにこちらも嬉しくなりながら「ただいま」と答えた。答えながら私は少し前のことを思い出す。家に帰ったらおかえりと出迎えてくれる人は一人もいなかったな、と。そして、誰かにただいまと、言うこともなかった。
「あらあら。リト、セレネちゃんには抱きついてママにはなし?」リンさんの言葉に我に返ると同時にリトは私から離れ、リンさんに抱きついた。「んーん。ママも。おかえり!」「ただいま」リンさんも抱き返しながら答えていた。
そしてその日の夜からリンさんは木の実でお菓子を作りはじめた。私にも一緒に作らないかと聞かれたけれど。人間も一緒に作ったとなれば誰も食べる気はしないだろうから、丁寧に断りベッドに入った。
「ママ、なんでじゅうじんとにんげんはけんかするの?」
「それはね、昔、人間が獣人に酷いことをしたからよ」
「ひどいことってなあに?」
「そうね。…もしもママがあなたのことを大嫌いだと言って、いっぱいたたいたりしたらどう思う?」
「…そんなの、やだよぅ」
「あらあら。泣かないで。ママはあなたのこと大好きよ。だからもしもの話。ね?泣いちゃうくらい嫌でしょう?つまり人間は獣人が嫌だと思うことをいっぱいしたの。だから獣人は人間に仕返ししようと、そして人間はもう一度獣人に酷いことをしようとしてけんかしてるのよ」
「どうしてにんげんはじゅうじんにひどいことするの?」
「これはママの考えなんだけどね。人間は弱いから、獣人に酷いことをすると思うの。そうする事で、自分達のほうが強いんだと思いたいのね。だからけんかする。もしかしたらこの先もずっと。でも。ねえ、もし人間と獣人が仲良く暮らせる世界がくるのなら、その世界はきっと楽しいと、そう思うの。」
「なかよく?」
「そう。ふふっ、あなたには少し早いかしら?人間がもう少し強くなれたのなら、その世界はいつかやってくるかもしれないわね」
「じゃあ、わたしつよくなる。いっぱいれんしゅうして、けんも、まほうもたくさんつかえるようになるよ!そしたらなかよくできるんでしょ?そしたらママはうれしいよね?」
「そうね。仲良くできたのならママはとっても嬉しい。でもね、ようく覚えておいて?ママが言ってる強さは、剣が使えたり魔法が使えることじゃないの。力じゃなくて心なのよ」
「よく、わからないよ」
「まだ難しかったかしらね。でも、これだけはようく覚えておいて?本当の強さ。それはね……」
暖かな日差しを感じ、瞼をあげる。
「セル姉!起きてる?朝ごはんだよっ!」リトが勢い良く扉をあけ部屋にはいってきた。「おはよってあれ?セル姉どうしたの?泣いてる。怖い夢でもみたの?」「泣いて…?」リトの言葉に自分が涙を流していることに気がつく。夢の中に出てきた長く黒い髪の女性。顔は影になって見えなかったあの女性。柔らかな声をするあの女性。あんな人は知らない。けれど知っている。あの人は…。「セル姉?」リトの心配そうな声に引き戻され、私は慌てて笑顔をつくる。「おはよう。大丈夫だ。朝ごはんだっけ?さぁ、リンさんのところへ行こう」夢のことを無理やり頭から追い出し、まだ心配だ、というような顔のリトの手を引いた。