とある日常
リト達と出会ってからは毎日が風のように過ぎて行った。本当は一泊だけさせてもらった後すぐに出て行く予定だったのだがリトに行かないでとしがみつかれてしまい、ならば後一日だけとのばし。そして次の日もまた、しがみつかれて後一日。そしてそのまた次の日も…と繰り返しているうちに、かなりの日数がたっている。そしてここは獣人の住む国。当然ながら獣人の住む村だ。人間である私がよく思われるはずがない。本来ならば足を踏み入れた時点で、焼き殺されてもおかしくないのだが、どうやらリンさんが祈り子であり、歴代の祈り子の中でも飛び抜けた力を持っていて何度も村を守っているらしく、そのリンさんを助けたとして、なんとか無事にこの村に滞在出来ているというわけだ。まぁ、その祈り子がなんなのかは私は知らないが。
「はぁ」と、ため息をつく。あの親子は笑顔を向けてくれるが、他の者の視線はとても冷たいものだった。居心地の悪さは半端なものじゃない。それでもリトがしがみついてくるからと理由をつけてここに残るのはあの二人といると心が温かくなるからだろう。
「セレネちゃん。」柔らかい声に呼ばれ私は声の主であるリンさんの元へ向かった。「これから村の外へ木の実を拾いに行くんだけど、着いてきてくれない?」「また村の外へ出るんですか?」リンさんの言葉に驚きながら言葉を返した。その言葉に驚いたのは、村の外で魔物に襲われているリンさん達を助けたのが、私達が出会ったきっかけだったからだ。
「そう。今のように魔物がたくさん出てくる前は、この時期になると木の実でいろいろなお菓子を作って、夜遅くまでみんなでお腹いっぱい食べるという行事があったの。その木の実は村から少し離れた森の木にしかならなくてね、今ではそう頻繁に通う事は出来ないのだけれど。でも子ども達にもどうしても同じように楽しませてあげたくて…。貴方に護衛をさせるようで申し訳ないけど、お願い出来ないかしら?」本当に申し訳なさそうに頼むリンさんに私は「いいですよ。リンさんにはいろいろお世話になっていますから」と笑って答えた。リンさんはパッと顔を明るくさせ、「ありがとう、セレネちゃん」と、嬉しそうに笑った。