緑竜ケツアルカトル
あるところに
エライアスという国に
盲目の姫君がいた。
エレオノールという姫がいた。
先王は未来を予見する
不思議な力を有していた。
愛娘である姫君も
同じ力を授かっていたが
閣僚たちは無視していた。
先王が健在のときには
王の力に依存していながら
亡くなるとすぐに
掌を返したように
未来を予見するなど
嘘八百も大概にしろと言い
盲目の姫君を
厳重に守ると言いつつ
塔の上に閉じ込めた。
閉じ込められたとき
姫は無闇に騒がなかった。
閉じ込められることを
予見していたからだ。
閉じ込められた姫君は
幾つもの予言をした。
竜を使い民を虐げる者が出ること。
国で飼われている竜が毒を吐くこと。
竜を殺す者が出ること。
閣僚たちは初めの二つは
なかったものと無視できた。
そもそも悪臣ごときには
治めることと虐げること
二つの区別が付けられない。
竜の毒は兼ねてから
隠蔽を重ねてきたことであり
今更指摘されたところで
ハナから取り合う意志すらない。
竜を殺す者というのが
なかなか出てこないので
暫くは安穏としていた。
それみたことか
予見などは嘘だった。
偶然の一致以上のことは
何も起きないではないか。
竜殺しなど幻想だと
言っていられるうちは良かったが
やがて予見は真実となった。