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竜殺しのガブゼット 序章5
たとえ神が許そうと
ガブゼットは許さぬぞ。
剣士は大いに息巻いて
聴衆を煽っている。
招かれざる客が来た。
名誉欲にかられた馬鹿が
秩序を乱しに現れた。
町の主は太った肉体を
椅子を軋ませながら立ったが
すぐに気を落ち着かせ
再び椅子を軋ませた。
慌てることなど一つもない。
人が竜を退治など
絵空事にも程がある。
人の力で倒せないから
竜は力の象徴たるのだ。
儀式に余興が一つ増えた。
たかがそれだけのことだ。
勇者を語るただの馬鹿が
竜の餌になる姿を見れば
謀叛を企む輩も消える。
都合の悪いことなど
何一つありはしない。
玉座に座り悠然と待てば
事態は良い方向に転がる。
軋む椅子が限界を迎え
三つに割れて壊れたせいで
豚は決定的な瞬間を
見逃してしまった。
ガブゼットと名乗った男は
大きな剣を振りかぶり
竜の背中に突き立てた。
しかし竜の鱗といえば
武器と防具の材料として
最高級と称される
鋼も凌ぐ固いもの。
鉄の剣が刺さるわけもなく
突き立ったまま固まった。