竜殺しのガブゼット 序章3
柵に囲まれた広場で
資産家の屋敷へと繋がる
坑道の入り口に似た
暗闇の奥から声がした。
地の底から響くような
低く大きな唸り声
やがて姿を現した
黒い鱗を光らせる
子供の住まう家より大きな
巨体を揺るがす怪物が
子供の前で舌なめずり。
子供は既に、諦念にかられていた。
子供ながらに理解していた。
母親は正しいことを。
自分たちは人ではない。
家畜の餌に過ぎないのだと。
母親が我が子を贄にするのも
それをまるで祭りのように
見物する大人たちも
主催する資産家も
全てが世の摂理に従っている
ただそれだけのことなのだ。
だから自分も抗ってはいけない。
泣き叫びたいほど恐ろしかったが
間違ったことをしてはいけない
世の摂理に抗ってはいけない。
子供は泣くことも
暴れることもしなかった。
それは荘厳な儀式のようだった。
いつもは酒を酌み交わし
絶叫する贄の声を肴に
騒いでばかりの野次馬たちさえ
静まり返って広場を見ていた。
いつもは断末魔をあげる生贄が
今日は静かに座り込むだけ
美しい……
町の主は意識せずに
思わず呟いてしまった。
生贄の儀式とは
権力の象徴たる
竜の力を誇示するため。
竜が神格化されたなら
秩序はより厳密な力を持つ
力で負けるから仕方がないのと
正しく抗うべきではないのでは
得られる権威は格段に違う。
広めることは出来ないか
町の主は大真面目に
思案に暮れ始めていた。