竜殺しのガブゼット 序章2
毎夕の楽しみのために
様子を見ていた町の主は
母親の魂の叫びを
鼓のように肥え太った
腹を抱えて笑っていた。
そうか
そう考えるか。
あまりに惨めな境遇から
現実から逃げるために
魂が死ぬのを避けるため
自らを騙しにかかったか。
とはいえ
妙案であるとも思った。
町の主は絶対的な
揺るぎない権力を持っていたが
一つだけ恐れていた。
人々が反旗を翻し
革命を起こすことを。
反乱があった場合
負けたら命が無いのは当然。
勝ったとしても
大事な奴隷を多量に失う。
勝手も負けても身の破滅。
反乱を起こさせず
いかにして国を守るか
町の主は頭を捻っていた。
母親の嘘は
天啓にも近かった。
竜というのは力の象徴。
強く大きな竜を持つほど
偉大な頭首として認められる。
今はそんな世の中だが
支配しやすい世の中だが
いつまでもつかはわからない。
竜が神として崇められ
竜に喰われる死ぬことが
神と一体になることを示すならば
そんな信仰が席巻したなら
体制の権力自体が
神に肯定されたものになる。
経済格差が生んだ力が
神の名を語ることができる。
畜民に都合のいい
逃げ道も与えられる。
悪党ですら思いつかなかった
悪魔の知恵にも等しい考え
まさか庶民が与えてくれるか
実によく出来た奴隷だと
悪魔は口元を綻ばせた。
さてさて母親のアイデアを
世間に広める法はないかと
太った悪魔は思索に耽った。