竜殺しのガブゼット 序章①
久々の更新です。
時折、更新が途絶えるかと思いますが
気に入っていただけたら見てやってくださいませ。
そこは、生贄の町だった。
とある資産家の町だった。
資産家は竜を飼っていた。
身の丈が家屋ほどもある
百年生きた黒い竜。
日に一人の子宝を
餌に喰らう暴食の竜。
町は竜のために作られた。
食い詰め者を寄せ集め
虫けらのように働かせ
一日に誰かの子供が
贄のために殺される。
大人たちは逆らえない。
他に生きる場所がないから。
逃げれば捕縛されるから。
子供さえ差し出せば
生きていけると知ってしまったから。
家畜として生きることに慣れ過ぎて
人間であったことなんてとっくのとうの昔に忘れ去ってしまったから。
その日も一人の子供が
十の誕生日を迎えたばかりの子が
街の広場に置き捨てられた。
子供の母親は泣き叫んだが
昨日の夜から咽び泣いたが
やがて大人しく黙り込んだ。
冷静になって考えてみれば
彼女は人ではなかったから。
彼女は竜の主に飼われる
家畜に過ぎなかったのだから。
これから起こることは
残虐な人殺しなどではなく
ただ鶏が絞められるだけ
仔羊が屠殺場に連れられただけ
家畜がいつか肉になるのは
当然のことなのだから。
だから
物見のように集ってくる
街の人々も残酷じゃない。
むしろこれは誇らしいこと。
わたしの育てたあの子供は
神にも等しい力を持つ
竜の血肉になるのだから
竜の一部になるのだから。
みなさん、あれはわたしの子です。
わたしの可愛い可愛い子です。
立派に育てた我が子です。
あの子は務めを果たすのです。
この町に住まう人々に
平等に与えられた権利として
竜になることを許されたのです。
皆様、あの子を祝福してください!
母親は狂ったように叫び出した。
街の人々は一瞬だけ静まり返って
やがて暖かい拍手を浴びせた。
母親はホッと溜め息をついた。
もしかしたらわたしの考えは
おかしいものなのかもしれない。
かられた不安は払拭された。
母親は恍惚の表情となった。
まるで祭りの主役のように。
祝福を受ける子の母のように
今日を最後に
子供とは会えなくことが
すっかり抜け落ちているかのように。