ナマズとカマス
「おいおい、こりゃあうまくいきすぎじゃねーか?」
「カマス、あんまり騒ぐな」
「そうしけたこと言うなよナマズ、二階級特進ものの大成功だぜ?」
「それは少なくとも死んだ側の言うことだろうが」
真夜中の住宅街。明かりが外に漏れないよう隙間なくカーテンの引かれたリビングで、ふたりの男が話していた。彼らの足元には、胸元に深々とナイフの刺さった死体がひとつ。傷口から流れ出る血が、真っ白なブラウスを鮮やかに染め上げていた。
「はいはい。にしてもこの女、死んじまってもえれー美人だな」カマスと呼ばれた男が仰向けに転がる死体の傍らにしゃがみこむ。細長い身体を器用に折り曲げ、ぎょろりとした目で女性の身体に舐めるように視線を走らせた。
「その顔が災いして、仏さんになっちまったわけだけどな」抜け目なく室内の様子を観察しながらナマズが言う。太くずっしりとした体型がカマスとは対照的な男だ。
ナマズとカマス、正反対なふたりの殺し屋がペアを組んで、初めての仕事だった。
ナマズは元々別の男と共に殺し屋家業を営んでいた。サケと呼ばれるその男は、寡黙な性格で仕事は正確、ナマズはその相方のことを気に入っていた。
だが、不幸は突然転がり込んできた。常日頃赤の他人に不幸をばらまいているのだから、不幸のひとつやふたつに文句を言えた口ではないが。
先日、依頼のために階段の多い街を訪れた時のことだ。標的を始末しその死体を運び出そうという段で、サケが標的の家の前の階段で足を踏み外し、100段はあろうかという階段をころころころ、おにぎりころりという具合に転がり落ちてしまったのだ。幸いにも一命はとりとめたが、入院を余儀なくされた。数十人は殺している男が一命をとりとめるとは、この世に神はいない、病院のベッドで眠る相方を見下ろしながらナマズはそんな思いを新たにした。
しかし、そんなナマズたちの状況などお構いなしというように、次々と仕事は舞い込んでくる。この国では、人の恨みを買う人間があまりに多いらしい。そこで、ナマズは臨時の相方を探すことにした。闇サイトに殺し屋募集の投稿をしたのだ。
ただ、昨今の殺し屋業界はナフサ不足以上に深刻な人手不足。選り好みはできない。ようやく見つかったのが、自分とはまるで正反対な性格のカマスだった。
「ぞっとした時に血の気が引くなんて言うけどよ、女って死んじまうとほんとーに血の気が引いて、透き通るように白くなるんだよな」カマスが女の顔を眺めて舌なめずりをしながらそう言った。その目には嗜虐の色が宿っている。
「カマス、ふざけたこと考えてないで仕事をしろ」ナマズの心中に苛立ちが込み上げてくる。不幸が転がり込んできたのはあいつではなく俺かもしれない、階段を転げ落ちる相方の姿を思い出しながらナマズはそう思った。こんな阿呆と組まなければならないとは。
「るせーな。あーだめだ、キレイな顔見てたらムズムズしてきちまった」おもむろに女の胸のふくらみに手を這わせる。「ひひっ、なあ片付ける前に一発やらせてくれよ。いーだろ減るもんじゃねえし」
死体に覆いかぶさろうとするカマスを見て、ナマズは言葉を探すより前にため息が漏れた。怒りが頂点を超えた。コイツは浮かれ過ぎだ。
殺すか。片付けるものがひとつからふたつに増えるだけだ。仕事の痕跡は、むしろ少なく済むかもしれん。
ナマズはそう冷静に判断し、恍惚感にその身を震わせるカマスへ向け、一歩足を踏み出した。




