第9話 怒りのフェイスとアストラのブリーフィング
「これは一体どういう事だ! オレの小型機が、一機しかない!? しかも、残されているのは、一番古い機体ではないか!」
フェイスが自分専用の格納庫で、驚きと怒りが混じった怒声を上げた。
「おい、グロウム! 貴様! オレの大切な、超絶エレガント専用機をどこへやった!」
グロウムは、フェイス専属のメカニックだ。
独善的で冷酷なフェイスを怒らせたら、なにをされるか分からない。処刑された前任者は数知れないのである。
グロウムは、恐怖により瞳孔を開ききらせたまま、慌てて床に跪いた。
「は! こ、皇帝陛下のご命令により、売却いたしました! フェイス殿下もご存知かと……」
「なんだと!? オレはそんなこと聞いていないぞ!」
「申し訳ございません! 『殿下の威光を示すため』とのことです」
「なるほど。……ところでグロウム。貴様、旅行は好きか?」
「……は? 旅行でございますか?」
突然話を変えたフェイスの顔を見て、グロウムは唖然とする。彼は「助かった」と思った。
「そ、そうでございますね。長いこと旅行には行っておりませんが、好きな方ではあります」
「ほぅ。では、望み通り1人で宇宙旅行をさせてやろう。おい、誰か! こいつを宇宙に放流しろ!」
近くにいた兵士が、グロウムの両腕をがっしりと掴んだ。
「も、申し訳ございません、殿下! どうか……どうかお慈悲を!」
「うるさい。お前の顔は二度と見たくない。早くその男を連れて行け!」
「は!」
兵士が、絶叫しているグロウムを引きずり出していくと、フェイスは、転移装置で皇帝のいる宮殿へ向かった。
◇
その頃。
俺、星野明日虎は、帝国軍司令部に来ていた。
これから始まる戦闘の戦術へのアドバイスをするため、ヘルディナンドに呼ばれたのだ。
正直荷が重い。戦術って……。素人の俺にアドバイスを求められても困る。
司令室は真夏の砂浜のように、天井の全面照明がさんさんと照りつけていた。
さらに、全員がデスクライトを使い、手元を照らしている。
「なぁ、ヘルディナンドさん。なんでこんなに明るくしてるんだ?」
俺は疑問をぶつけた。明るすぎる。映画とかでみる司令室って、もっと薄暗かったよな?
なにか、素人の俺には分からない軍事的な戦略があるのか?
俺の言葉に振り向いたヘルディナンドを見て、俺は言葉を失った。
「……おまえ。なんで、サングラスしてるんだよ!」
「え? なにを言ってるんですか、アストラ顧問? 眩しければサングラスをするのは当たり前でしょう?」
「司令室においては当たり前じゃないんだよ! 照明の明るさを落とせないのか!?」
俺の、その魂の叫びを聞いたヘルディナンドが、目を見開いた。
「な、なんと! 思いもよりませんでした! さすが知将! すぐに暗くします!」
(知将じゃない! もっと早く気付け! 電気を無駄遣いすんなよ!)
俺が内心でツッコミを入れている時、ヘルディナンドが、偉そうに司令部全体に命令を出した。
「アストラ顧問から、素晴らしいアドバイスをいただいたぞ! 照明を暗くしろ! そして、総員サングラスを外せ!」
(お前ら全員、サングラスなのかよ!)
司令室が暗くなると、そこかしこから感嘆の声が漏れ始めた。
「おぉ! 画面に光が反射していない!? 画面が見やすいぞ!」
「今まで見逃していた敵の位置も、これなら見える!」
「これなら目を細める必要も無いぞ!」
(……お前ら。全員ポンコツかよ)
司令室が薄暗くなると、ヘルディナンドが呆れ返っている俺の方を向いた。
「では、気を取り直して、こちらへどうぞ」
ヘルディナンドが案内した場所。それは、ブリーフィングルームだった。
丸いデスクの上に、周辺の星の位置がホログラムで表示されている。
どうやらこれから作戦会議が始まるらしい。
ヘルディナンドと、俺が横並びで座り、デスクの周りを数人の将校が取り囲んでいた。
俺は、不安を隠すために、両肘をデスクに乗せ、顔の前で両手の指をがっちり組んで、目一杯に顧問っぽく座った。ただの虚勢だが仕方あるまい。
「これからブリーフィングを始める。皆も知っていると思うが、この方がクラウス・クロス将軍の子孫。知将のアストラ戦術顧問だ」
ヘルディナンドが俺を紹介すると、将校たちの目が、心なしか――いや、間違いなく憧れの有名人を見るかのように輝き始めた。
(……もうマジでやめて。これ以上ハードルを上げないで……)
「現在この地点に、敵艦が8隻配置されている。はい!」
(『はい!』って? 何の掛け声だ?)
俺の頭の上に〝?〟が浮かんだ。すると、俺の向かい側に座っていた将校が、おもむろに胸ポケットからハサミを取り出した。
そして、上半身を前後左右に揺らしながら、蛇腹折りにした黒い紙を切り始める。
(……なに? なにが始まったんだ?)
皆、その将校の動きを無言で見つめ、待ち続けている。
「……」
「……」
「……」
1分ほど経っただろうか。その将校が、紙を切っていた手を止めると、ハサミを置いて叫んだ。
「できました!」
その将校がパラッと黒紙を広げる。そこに宇宙船の8隻が一列につながった、見事な切り絵が現れた。敵艦の砲台一本一本まで完璧に再現された、芸術作品だ。
パチパチパチパチッ!
周りから拍手が起こる。
(……え? ちょっ、お前ら何やってんの?)
その出来上がった8隻の宇宙船(切り絵)は、ヘルディナンドが指し示した位置に置かれた。
ヘルディナンドが説明を続ける。
「いつもながら大した腕前だ。 そして、こちらの地点に我々の船が5隻だ。はい!」
(おい! ちょっと待て――)
「5隻っすかぁ……奇数って難しいんっすよねぇ」
将校がまたハサミで紙を切り始めた。今度は赤い紙だ。
(待て待て待て待て! お前らこの調子でずっとやってきたのか!? 1分1秒を争う戦場で!?)
俺のツッコミも虚しく、約1分の沈黙の後に、「できましたぁ!!」と叫ぶ将校。
黒い紙でできた8隻の敵艦と、赤い紙でできた5隻の自軍艦を使い、本格的(?)なブリーフィングが続けられるのであった。
その頃、フェイスが皇帝に会いに行っていることも知らずに……。




