第6話 軍の捜索と小型機の正体
「情報を集めろ! なんとしてでもあの小型機の正体を突き止めるのだ!」
クロス・ヴァーン帝国軍本部の司令室で、黒髪をクルーカットにし、軍帽をかぶった中年男性が叫んでいた。クロス・ヴァーン帝国軍参謀のヘルディナンド・ボイルだ。
先程の戦闘で、主力艦クラウザーム・ヴァイロン号をアシストした、謎の友軍機の報告を受けた皇帝より、ヘルディナンドへ、〝英雄の小型機〟捜索の勅命が下っていたのだった。
その時、捜索にあたっていた一人のレーダーオペレーターが司令室へ入ってきた。
「報告します! 小型機は、敵機を混乱に陥れたあとで、撃墜されていました! 飛行軌道を分析した結果、オートパイロットだった可能性が高いことが判明!」
「何だと!? それでは、どこから現れたのかだけでも探せ!」
(手がかりはこの映像だけだ……)
ヘルディナンドは奥歯をギリッと噛み締め、眼の前の巨大スクリーンに映る、【廃棄処分】と書かれた小型機を睨みつけた。
その時、司令部の入口付近が騒がしくなった。
「フェイス殿下、入室されます! 総員、起立!」
〝フェイス殿下〟は、クロス・ヴァーン帝国の第一皇子であり、軍の司令官だ。司令官と言っても名前だけのお飾りである。
金色の長髪をなびかせながらフェイス・ヴァーンが司令室に入ってきた。
ヘルディナンドが丁重に出迎える。
「これはこれは、フェイス様。ご機嫌麗しく。本日はどのようなご用事であらせられますか?」
フェイスは、周りをゆっくり見回した。
「お前たちがしっかり働いているか確かめに来たのだ。給料分の働きをしてもらわなければ困るからな」
(一番働いていないのは貴方様ですが?)
ヘルディナンドは頭の中で毒づきながら、笑顔を取り繕った。
「殿下がわざわざお出向きにならなくても、この軍にはサボるものなどおりませぬ。ご安心ください」
「そんなこと、この目で直に見んとわからんだろう!」
フェイスはそう言うと、画面に映る小型機に目を止めた。
「あれは? なんだ?」
「あれは、先程の戦闘で現れた小型機の映像でございます」
ヘルディナンドのその言葉に、フェイスが声を荒げた。
「戯言を抜かすな! あれはこのオレが捨てた、型落ちの小型機ではないか! やはり貴様たちは見張っていないと、簡単な仕事すらできないようだな!」
「は? ……捨てた? 申し訳ございません! すぐに本物を探させます!」
フェイスは、ヘルディナンドがそう言い終わらないうちに、踵を返すと、司令室を出ていった。
若い将校が、慌ててヘルディナンドのそばに走り寄って来る。
「殿下はあのようにおっしゃられていましたが、あの映像は本物です!」
「あぁ。分かっている。殿下が型落ち機を処分するときは、いつも補給倉庫経由だ。場所は割れた! すぐに向かうぞ」
「はっ! 直ちに準備させます!」
◇
倉庫の棚卸し履歴を確認していた俺は、思わず自分の目を疑った。
毎月、リスト全体の10パーセントくらいしか棚卸ししていないのだ。
まさか……。そんなはずはない。
棚卸しは、1円単位まで、すべてがクリアになるまで追求するのが常識だろ。
「なぁ、ザッツさん。なんでこれ10パーセントくらいしかやってないんだ?」
「え? だって『段取り8分、仕事2分』って言うだろ? 合わせて1割ちゃんとやっているじゃないか?」
「意味が違う! 8分は8パーセントじゃなくて、80パーセントのことなんだよ! 棚卸しは100パーセントやるものなんだ!」
何なんだこの帝国は! こんなザルな会計処理で、国が許すというのか!?
いや、帝国は国か……。国家機関なら、雑な会計処理でいいというのか!?
そう言えば、日本政府もちょっと雑だよな。使途不明金とかあるし……。
いや、諦めてはダメだ! 〝健全な会計には健全な心が宿る〟のだ!
「よし、今月からは俺が棚卸しを取り仕切ろう。差異をゼロにするまで帰さんからな」
俺がそう言ったとき、倉庫の入口がバンッと勢いよく開いた。
そこには、軍服を着た中年男性が立っていた。
「おい! ザッツは居るか! 聞きたいことがある!」
「おっ! ヘルディナンドじゃないか! 久しぶりだな!」
「無駄話している暇はないんだ、ザッツ」
「おいおい、そんなに慌ててどうしたっていうんだ」
ヘルディナンドと呼ばれたその男は、忌々しげに言った。
「皇帝の勅命により、ある小型機を探しているんだ。機体側面に【廃棄処分】と書かれた小型機だ。何か知らないか?」
雲行きが怪しくなってきたことを察した俺は、近くのコンテナに隠れることにした。これは3億円の件で怒られるやつだ。いや、3億円どころか軍法会議ものかもしれない。
「フェイス様の機体だな。もうここにはないぞ」
「そんなことは分かっている! あれが戦場に来た経緯を知りたい」
「あぁ。それならここに居る、クラウス・クロス将軍の子孫――」
ザッツが俺がいた場所を見るが、俺は当然そこにはいないのである。
「クラウス・クロス将軍の子孫!? 将軍は子供を残さなかったという史実があるだろう!」
「いや。証拠があるんだ」
(証拠なんかねぇよ! お前の勘違いだ!)
その時、コンテナの奥から音がした。
ガコォォンッ!
俺は後ろを振り返ったが、暗くて何も見えなかった。
だが、もう終わりだということだけはわかる。今の音でここにいることがバレてしまっただろう。
コンテナの扉が表から開けられた。ザッツだ。おまえ、こういうときだけいい仕事すんなよ。
「こんなところにいたのか」
「あぁ。ちょっと片付けていたんだ」
ヘルディナンドが俺に向かって言った。
「一緒に来てもらおうか」
(終わった……。3億円の責任を取らされて処刑される)
俺がそう思ったとき、ヘルディナンドが大きく目を見開いた。その視線は俺の後ろに注がれている。
「エライア様!? なぜこんなところにおられるのですか!?」
俺が恐る恐る後ろを振り返ると、廃オイルで満たされたドラム缶の中から、エライアがザバァと出てきていたのである。
「あぁ! 良いオイルでしたわぁ!」
その体からは真っ黒なオイルがぼたぼたと滴り落ちている。
(音の正体はお前かよ! 廃オイルを温泉代わりにするな! この変態姫が!)
呆気にとられる俺と、満足げなエライアは、ヘルディナンドの手により強制的にどこかへドナドナされていくのであった。




