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「ただの経費削減ですが?」〜銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです〜  作者: 架木 空
転移と勘違いと不本意な出世

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第4話 汚れた宇宙船と洗車の効果

 錆びた鉄と油の匂いが漂う補給倉庫内は、俺がほぼ一人で頑張ったおかげで、大分片付いた。


 俺は、バケツと雑巾を片手に、倉庫内を歩いていた。目的は片付けてる時に見つけたアレだ。


「よぉし、お前を綺麗にしてやるからな!」


 俺は目の前の小型の宇宙船に向かってそう言うと、宇宙船を洗車し始めた。「洗車」という表現が正しいのか分からないが、とにかく洗った。


 こうなった全てのきっかけは、昨日のことだった……。


 ◇


(お前ちゃんと働け……)


 俺は、工具を取り出しては眺め、また取り出しては眺めてを、延々と繰り返しているザッツに疑問をぶつけた。


「なぁ、ザッツさん。さっきリストの中に、【廃棄処分】と書かれている小型の宇宙船を見つけたんだけど、見に行ったらまだ使えそうなんだが……」


「あぁ、あれはな、帝国の皇子からの命令で、廃棄処分することになっているんだ」


「廃棄処分? まだ乗れそうに見えたが……。壊れてて直らないんじゃ仕方ないな」


「いや? 壊れてないぞ? 3年前に買ったんだが、フルモデルチェンジしたから、新型に乗り換えたんだ。古い型だから、恥ずかしくてもう乗れないんだと」


「待て待て待て待て! もったいないだろ! せめて下取りに出せよ!」


 なんだその、金持ちが初回の車検切れ間近に新車に乗り換えるノリは!? あれ、いくらすると思ってるんだよ! 日本円にして3億円だぞ! 都内にタワマンが買えるんだぞ!


 その時、近くで聞いていたエライアが、俺の心の叫びに同調した。


 「その通りですわ、ザッツさん! もったいなさ過ぎますわよ!」


(おっ! 皇子と違って、姫は正常なのか! クロス・ヴァーン帝国は安泰だな)


 俺が姫の経済観念に感心していると、エライアが恍惚とした表情に変わった。


 「オイルを抜いて湯船に満たし、解体した鉄板はベッドにして、鉄の冷たさを毎晩肌で直に感じられるようにいたしませんと!」


(お前もう喋るな! お前の『もったいない』は方向性がバグってるんだよ!)


「もういい! 俺がピッカピカに洗車して、捨てたくないと思わせてやる!」


「無駄だと思うぞ。型落ちだし」


「うるせぇ! 思い知らせてやる!」


 ◇


「おいおい。ドリンクホルダーの底がベタついてるじゃないか……。ジュースこぼしたまま放置しやがったな……。床にポテトを落としたら拾っとけよ! まったく……。よし! これで、内側は完璧だ。次はボディだな」


 まず、シートとダッシュボード、床マットの掃除を終えた俺は、ボディの掃除に取り掛かった。

 構造が地球の車と似ているので、勝手が分かって助かる。


「まずは、屋根から掃除するのが定石だ!」


 俺は、屋根から始めて、フロントガラス→ドアと、徐々に下に進んで行った。

 機体側面にデカデカとマジックのようなもので【廃棄処分】と書かれているのはいただけないが、消せないので、そこには目を瞑ろう。


 最後に、駆動系から排気系の掃除をしようとした、その時だった。雑巾を握りしめた俺の手が、機体下部の何かに触れた。


 カチリッ!


「ん? なんか押した気がする」


 女性の合成音声が流れる。


『ピロンッ! オートパイロットモードを起動します――』


「やっべ! なんで外側にそんなボタンがあるんだよ! 誤作動防止カバーとか無いのか!? えーっと、解除は……? 解除ボタンはどこだ?」


 俺が解除ボタンを探し始めた時、再度アナウンスが聞こえた。


『発射までの秒読みを開始します。2秒前――』


「待て待て待て!!! カウントダウン早すぎるだろうがぁ!!」


 小型機は、音もなくスッと浮き上がり、ハッチに向かって進み始めた。


「待て! 止まれ! どこに行くんだよ!」


 追いかける俺を無視して、小型機がハッチの前に到着すると、ハッチが轟音を轟かせながら開き、二重ハッチの外側の扉が見えた。


 ギギイィィィ!! ゴゴゴゴオォォォォォンン!!


「なんだこの音は!? 油切れか!? 整備不良だろ! キィキィうるさいんだよ!」


 小型機が、エアロック内へと吸い込まれるように入って行ったかと思うと、ハッチが閉まって行った。


 「行くな、行かないでくれ! せめて行き先だけでも教えてくれよ!」


 ギギギギイィィィ!! ゴゴオン! バタン!!


「あぁ! 3億円がぁぁ!!」


 意気消沈した俺は、ザッツの所へ戻り謝ろうとした。

 洗いたての3億円を、どこかへ飛ばしましたなんて言ったら、給料天引きどころでは済まないかもしれない……。


「なぁ、ザッツ。あのさ、あの小型機なんだけど――」


 俺がそう言いかけた時、倉庫内にけたたましいアラートが鳴り響いた。


 ビュイィーン!! ビュイィーン!!


「敵機出現! 敵機出現! 総員ただちに迎撃態勢をとれ! 現在、主力艦クラウザーム・ヴァイロン号が応戦に向かっている!!」


 初めてのことに、どう対応すればいいか悩んでいる俺の方を向いて、ザッツが静かに言った。


「アストラさん。俺たちはここで待機だ。依頼が来たら動くだけの簡単なお仕事だ」


(そんな……。指示待ちの典型じゃないか! 業務効率悪すぎだろ! 質の悪いAIかよ! 自分で考えて動け!)


「さぁ! トランプでもやるか! それか、工具談義を……」


「どっちもやらねぇよ!」


 俺はクロス・ヴァーン帝国の将来に不安を抱くのであった。

 

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