第26話 ヘルディナンドの報告と豆腐と醤油
ヘルディナンドが、皇帝の前で興奮しながら報告をしていた。
報告します!
アストラ艦長が、単独で連邦軍の主力艦サイクロン・ドログリーを退けました!
は! 詳しくご説明いたします!
我々はいつものようにアンドロイドを操作しながら、敵艦隊との戦闘に臨もうとしておりました。
ところが、敵の新兵器によりアンドロイドとの通信が遮断されたのです。
しかし、アストラ艦長はその敵艦の動きを、事前に予測していたのです。
艦長は我々に心配をさせまいと、自らもアンドロイドだと嘘をつき、単独かつ生身の姿で搭艦しておりました。
いえ、私がそのことを知ったのは、アンドロイドとの通信を遮断されたあとでございます。
ブリーフィングのときに、アストラ艦長が、次のようにおっしゃったのです。
「敵の数は多い。しかし、敵艦は〝絹ごし豆腐〟のように脆弱だ。我々帝国軍は数こそ少ないが、〝木綿豆腐〟のように強靭なつながりを持っている。数よりも質が大事なのだ」と。
その言葉に、我々全員が勇気づけられました。
アストラ艦長は、我々全員のアンドロイドが動けなくなったあとに、お一人でクラウザーム・ヴァイロンを操縦するつもりでいたのでしょう。
事前にクラウザーム・ヴァイロンが率いる2隻を、オートパイロットで追随するよう、指示を出されました。
それは、数で劣る我々の戦力を集中させ、一点突破するための戦略でした。
そして、我々が全員動けなくなったところで、クラウザーム・ヴァイロンを自ら操縦し、敵艦の一番弱い部分――側面に向け、自艦の一番硬い舳先で体当たり攻撃を敢行したのです。
残念ながら、すんでのところで攻撃は避けられてしまいましたが、敵艦隊は即座に撤退を余儀なくされました。
全てはアストラ艦長の手のひらの上で転がされていたのです。
そのヘルディナンドの報告に、皇帝は感激の涙をその目に浮かべていた。
「なるほど……。さすがはアストラ君だ。わしが見込んだだけのことはある。素晴らしい働きだな」
◇
コンビニ『ノレーソン』で見つけた絹ごし豆腐3丁を大事に抱え、補給倉庫に帰り着いた俺をエライアが出迎えてくれた。
エライアは相変わらずオイルまみれだが、俺は気にしないことにした。というより慣れた。
「あ、アストラ様! おかえりなさい!」
「エライア、お前もうすっかりここが自宅みたいになっているじゃないか」
近くにいたザッツが、俺が下げているエコバッグに気づき、声をかけてきた。
「アストラ、何を買ってきたんだ?」
「絹ごし豆腐だよ」
「な!? あんな栄養バランスが悪くて、味がないものどうするつもりだ!?」
ふざけんな。お前らが食べている段ボールみたいなプロテインブロックと比べたら、100万倍うまいわ!
「ザッツ。お前知らないのか? 豆腐は醤油をかけるだけでうまいんだぞ」
「ショウユ? ショウユってなんだ?」
マジかよ!? やっぱり醤油ないのか!? どおりで、コンビニを探してもないはずだ……。
「エライアも醤油は知らないか?」
そう聞かれたエライアは首をかしげながら、俺を見つめた。
「ショウユですの? それはどういうものですの?」
「醤油は、香ばしくてしょっぱい黒い色の液体調味料だ」
「それでしたらここにありますわよ!」
エライアが満面の笑顔で、黒い液体が入った瓶を俺に差し出した。
「おぉ! でかしたエライア! 素晴らしいぞ……。って、これ廃オイルじゃねぇか!?」
「え? アストラ様の言っているものと全く同じじゃありませんの!」
「同じじゃねぇわ!」
だが、確かに見た目は似ている。いや、見た目だけは同じだ。
どうする? 試しにかけてみるか? いや。それはさすがに……。
俺がそう考えているとき、エライアが俺に質問した。
「すごく似てるじゃありませんか! わたくし、オイルをかけて食べてみてもいいですの!?」
「すごく、かは……いいよ」
こいつ正気か? まぁ止めはしないが……。
俺のその言葉を聞いて、エライアの顔が急に赤くなった。
どうした? 急に熱でも出たか?
「き、急にそんな!『すごくかわいいよ』なんて言われても!? わ、わたくし、心の準備が!?」
「そんなこと言っていないけど?」
「いいえ! 言いましたわ! 確かに言いました! ね? ザッツさんも聞いていましたわよね!?」
ザッツは、豆腐を夢中でプルプルさせながら、適当に答えた。
「あ? あぁ。言ったな」
「やっぱり! 言いましたわよね!」
俺は、騒いでいるエライアを無視しながら、塩を探すのであった。
倉庫の入り口付近で、拳を握り締めながらその様子を窺っている人影に、俺は気づく由もなかった。




