第21話 初の戦地とサブスクリプション
(とうとう乗り込む羽目になってしまった……)
俺は、クラウザーム・ヴァイロン号のブリッジに設置されている艦長席で、ふんぞり返って――いると見せかけて、頭を抱えていた。
艦長だから乗るのは当たり前なんだが、実際に戦地に赴くとなると、前回の司令室とは全く別物の緊張感がある。
今回は、司令室からの命令はないらしい。戦術顧問であり艦長であるこの俺が乗り込んでいるから、作戦は全て俺に委ねられているらしい。
いや、素人の俺に委ねられても困るんだが? 相手は巨大な銀河連邦軍だぞ? 帝国軍とは規模が違うだろう!
というか、これだけテクノロジーが発達してるんだ。全部アンドロイド兵とかにすればいいじゃないか。
そうだ! そうだよ! 無駄に人命を危険に晒す必要なんて無い!
いや待て、アンドロイドはコストが高そうだ。そうか! もういっその事、チェスとか将棋で勝敗を決めればいいじゃないか! そうすれば死人は出ないぞ!
俺は、戦地へ赴くプレッシャーに耐えきれず、ゲームでの決戦を皇帝に提言しようと硬く決意したその時、隣で呑気に欠伸をしていたヘルディナンドが、突然右手で自分の左手首をグイッと引っ張った。
ヘルディナンドの左袖がどんどん捲れていく――いや逆だ、袖から腕が出て来る。
驚愕した俺が、目を見開いて見つめていると。
ヘルディナンドの肘から先が、赤や青のカラフルなコードで繋がったまま、ぶらりとぶら下がった。
「ヘルディナンド……。お前、アンドロイドだったのか!?」
「え? 戦場に行くのに、アンドロイドを身代わりにするのは当たり前じゃないですか。本体はちゃんと家のリビングでゲーミングチェアに座っていますので、ご安心ください」
ヘルディナンドは、そのまま、取り外した腕の肘辺りを持って、襟元から背中に突っ込んだ。
「あぁ痒……」
自分の腕を孫の手代わりにするんじゃねぇ! なんでアンドロイドなのに、背中が痒くなるんだ! クソっ! 生身で来てるの俺だけか!?
「アストラ艦長の本体はどこに居られるのですか?」
くそっ! 俺は生身だよ! 悪いか!?
……とは言えん。貧乏だと思われる。
俺は精一杯見栄を張った。
「あぁ。俺の本体はホテルのコンドミニアムで、ロマネコンティの1945年ものを傾けてるのさ」
「コンドミニアム・デ・ロマネ……コンティ? そ、それはまさか! 先日開発された生物兵器ではありませんか!? あんなものの容器を傾けて中身が漏れ出したらただではすみませんよ!」
あ、ヤベ。こいつ宇宙人だから、ロマネコンティとか分かるわけないじゃないか。何を言ってるんだ俺は!
「ま、まぁな。そのスリルがたまらないんだ」
俺は、その時どうしても気になってしまったことを、ストレートに聞いた。
「ところで、お前のアンドロイドはいくらするんだ?」
「私のは、軍が契約しているサブスクですよ。月にいくらかはわかりませんね。軍のポータルサイトに契約書が載っているはずですよ? アストラ艦長は違うんですか?」
「え? ……あ、あぁ。俺のはちょっと特別製(生身)でな……」
俺は、ARディスプレイを起動し、サブスクの契約書を確認した。
なになに、一人当たり月5万ヌールだと!? 田舎なら家が借りられるじゃないか! でも、まぁ命には変えられないか……。
故障時は無償保証か。月5万なだけあって、保証はちゃんとしているな。
でも、全員分月に5万掛かっているってことは、全軍で5000億か、年間で6兆ヌール。高すぎるだろ……。
国家予算レベルだぞ。牛丼何杯食べられると思ってるんだよ!
嘆いていても仕方ない。俺は、作戦を練ることにした。
「おい、ヘルディナンド。これから作戦会議をするぞ。幹部を招集しろ。それと、ホログラムディスプレイと、あの切り絵の戦艦を用意してくれ」
俺のその言葉を聞いたヘルディナンドは、まるでシンバルのような乾いた大きな声で、俺の目を見つめながら説明した。
「アストラ艦長! もう切り絵など必要ないのです! ホログラムディスプレイに投影する3Dモデルの準備は整っています!」
「そうか! 素晴らしい! それではブリーフィングを始めるぞ!」
俺とヘルディナンドは、ホログラムディスプレイが設置してある艦内のブリーフィングルームへ向かうのであった。




