第2話 倉庫管理の達人とスプレッドシートの悲劇
「まずは種類ごとに分けないとな……全く、この倉庫の管理は、いったいどうなってるんだよ。絶対棚卸ししてないだろ」
俺は、補給倉庫の整理を始めた。
耳が尖っていないことがバレたら、どうなるか分からないので、ヘルメットは被ったままだ。
なんだかよく分からない、プロパンガスボンベのような鉄製の円筒形の物体が、あちこちにバラバラに転がっている。
「同じものは同じ場所にしまうのが鉄則だろ! ……仕方ない。一旦まとめて端に置いとこう……」
総務で培った備品管理の血が騒ぐ。俺は、結構重いその物体をまとめ始めた。
ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
鉄同士がぶつかる鈍い音が倉庫に響く。
最後の一つを持ち上げ、ラフに放り投げたとき、倉庫の管理者ザッツ・ハウゼンがやって来た。
「いい音させてるじゃないか、アストラ。その弾頭気を付けろよ。強い衝撃を与えると爆発するぞ」
「…………え? マジ? もうガンガン衝撃与えたんだけど?」
「爆発してないから平気だろ?」
「いや……『平気だろ?』じゃない! なんでこんな危険物転がしとくんだよ! 労災案件だぞ!」
「だって……すぐ使うし」
「すぐ使うって言って出しっぱなしにしておくのが、散らかる原因なんだ!」
「なるほど……お前片付け得意そうだな」
(お前もう『ザッツ・ハウゼン』から、片付けができない『雑然野郎ザッツゼーン』に改名しろぉ!)
「ダメだ……どこに危険物が埋まっているか分からん。危なすぎる……。なぁザッツさん、この倉庫の物品リストはあるか?」
「ん? あぁ、データを送ってやろう。そのヘルメットのアドレスは?」
「アドレス? そんなのあるのか?」
「お前、自分の装備品のアドレスくらいちゃんと覚えておけよ」
(自分の装備品? お前……倉庫内のもの、全然把握出来てないくせに……)
俺がザッツの絶望的な管理能力に呆れていると、ザッツが俺の後ろ側に回り込み、俺の後頭部をのぞき込んだ。
「ちょっと見せてみろ、こういうのは大体後ろ側に識別コードが……お、あった……よし、送ったぞ」
「あ、ありがとうございます」
ヴンッ
俺がヘルメットのボタンを押すと、低く短い起動音が聞こえたあと、ARディスプレイが表示された。
右下に表示されている通知アイコンを指で押すと、ザッツから送られてきたファイルが展開される。目の前に巨大なスプレッドシートが現れた。
「どれどれ? ……なんだこのリストは!?」
俺は自分の目を疑った。
そのリストからは管理する気が微塵も感じられない。狂気すら感じる。
「このリストはあんたが作ったのか?」
ザッツが大きな声で答えた。その声はどこか誇らしげだった。
「ん? あぁ、すごいだろ!? レイアウトにはこだわったんだ! ワッハッハ!」
確かにすごい。悪い意味で。
一つの品目に何行も使い、無意味なセルの結合までしてやがる……。
列も多過ぎる。なんで、セルの横幅を1文字サイズにしてるんだ! これじゃ『エクセル方眼紙』じゃないか! ここは日本の役所か?
しかもこれ……数量が『全角の漢数字』で入力されてるだと……?
これじゃ計算式が組めないだろ! 全てが無茶苦茶だ。
ありえない……表計算というものを全く理解していないヤツの所業だ。
こんなの石板に刻んだほうがまだ管理しやすいだろうが!
「まぁ、ある意味芸術的っすね……あ! このミサイル、使用期限間近だぞ?」
「本当だな。気づかなかった」
「気づかなかったじゃないでしょうが! 新しいやつから先に使ってるじゃねぇか! こっちの古いのから先に使えよ! 先入れ先出しは、在庫管理の基本中の基本だぞ!」
あまりの管理の雑さに、俺はつい叫んでしまった。
しまった。ザッツがぷるぷると震えだした。
(あっ、ヤバい……。こいつ仮にも上司だった……言い過ぎた、不敬罪とかで処刑される!?)
俺がそう思った時、ザッツが顔をパァッと輝かせた。
「アストラさん! あんたすごいな! その溢れる知識で、この倉庫を綺麗にして下さい!」
(……基本的なことしか言ってないんだが?)
そのやりとりをコンテナの隙間から、熱っぽい視線で見つめている一人の女に、俺はまだ気づいていなかった。




