第18話 絵のオークションの行方
俺は、エライアと一緒に、倉庫のパソコンで絵の出品準備を進めていた。
「まずは、この絵のタイトルを決めないとな」
「『お兄様の落書き:おさかな』というのはどうですの?」
「それはさすがにないな。もっと大人っぽくしたほうがいいだろう。『フェイス皇子直筆の前衛芸術:謎フィッシュ』というのはどうだろう?」
「それは良いですわね! それでは、これで出品いたしましょう」
俺は、エライアが、〝出品ボタン〟をクリックしようとする手を、ガッと押さえた。
「いや、待て。どうせなら、ついでに他の3枚も出品してしまおう」
「え? でも、わたくしが汚してしまいましたわよ?」
「いや、ものは考えようだ。汚れも含めて芸術作品ということにしてしまえばいい。芸術とは言ったもん勝ちなんだ」
俺は、まず、〝潰れたカエルの絵〟の出品作業に取り掛かる。
「えーっと……。『カエルを追いかけるエライア姫:フェイス皇子が描く、芸術的なカエルが表現するのは〝焦燥感〟。その〝焦燥感〟と、エライア姫の足跡(素足)の〝疾走感〟を合わせることで、現代の人類が不安に感じている〝時代の変化の速さ〟を表現した作品です』。と、まぁこんな感じだろう」
次は、〝ひしゃげたメガネ〟の番だ。俺は勢いでキーボードを叩き続ける。
エライアはその間ずっと、俺のヘルメットを撫で回しているが、俺は気にしないことにした。
「『こわれたメガネを掴むエライア姫:フェイス皇子とエライア姫の合作。壊れたメガネが持つ〝悲壮感〟と、エライア姫の手形が表現する〝開放感〟を融合することで、〝人生とはなにか〟を問いかける作品です』。適当だけど、こんな感じが妥当じゃないか?」
エライアは、ヘルメットを撫で回す手を止め、両手をパチリと合わせた。
「素晴らしいですわ!」
最後は、〝食べかけのドーナツ〟。――すなわちエライアの顔拓だ。
「どうしようかな……。『エライア姫のドーナツ:ドーナツを食べているエライア姫の肖像画(実物の顔拓)。ドーナツの穴が意味する〝虚無感〟を、いつも明るいエライア姫の顔拓で塗りつぶす事により、〝充足感〟を感じられる作品です』。よし、これで完成だ」
「なんかどれも素晴らしい作品に見えてきますわね! 顔拓はちょっと恥ずかしいですけれど売れそうですわね!」
「まぁ、こんなでまかせで売れることはないだろうが、やらないよりはましだな。これで出品しよう」
俺は、〝出品ボタン〟をカチリとクリックした。
◇
【銀河の掃き溜め掲示板 実況スレッド】
1028:名無しのエイリアン
おまえら。ノヴァオクの新着見てみろ。やばいの出品されてるぞ!
1029:名無しの彗星
マジだ……。ってか、これマジでエライアたんの顔拓?
1030:名無しのスタートルーパー
エライアたん公式WooTuvaの画像から抽出した指紋と、手形の指紋を照合スキャンしたら本物だった
1031:名無しのエイリアン
特定はやwww
1032:名無しの皇帝
≫1030 有能。通報しまスター。そして入札してきまスター
1033:名無しのエイリアン
≫1032 速すぎ。ワームホールwww
1034:名無しのスタートルーパー
本物のエライアたんのなら欲しい、と思って見てみたら、もう手が届かない値段まで上がってるんだが?
1035:名無しのメカニック
≫1034 マジだった。高額すぎて、まじでカシオペア見える
1036:名無しの司令官
それにしても、絵ヘタすぎん?
絵はゴミレベルに見えるんだが、これって本当に芸術作品なのか?
1037:名無しのスタートルーパー
≫1036 あ、バカ……。お前、特定されて抹消されるぞ!
1038:名無しの司令官
え? マジで?
1039:名無しエイリアン
≫1036 終わったな。本人が見ていないことを祈るしかない
◇
次の日。
ノヴァオクの管理画面を見た俺の心臓が撥ねた。手は震え、瞳孔は開きっぱなしだ。
「な……な、んだ! これはぁぁぁ!」
俺の叫声を聞いたエライアが目の前の画面を覗き込むと同時に、顔をほころばせた。
「あら! 売れているではありませんの!」
「お、お前……。なんで驚かないんだ?」
「驚く? 何で驚く必要があるんですの?」
「そ、そうか。もういい……」
そうだ。こいつは帝国の姫だ。このくらいの金額には動じないように教育されているのだろう。それか、単純に金銭感覚が絶望的に狂っているか。おそらく後者だ。
画面には、〝落札金額合計:2368億ヌール〟と表示されていた。
落札者の項目を見ていた俺は、あることに気がついた。
「なぁエライア……。これ、全部同じ人が落札してい――」
俺がエライアに話しかけようとした瞬間、パソコンから間の抜けた音が鳴り響いた。
ポロリンッ!
「メールですわね?」
パソコンでメールを開いた俺は、思わず目を疑った。
「あっ。落札者からだぞ。なになに? 『近くなので、後で取りに行きます』だと? なんでここが特定されてるんだよ。怖すぎる!」
俺は、とりあえずエライアに額装を頼んで、梱包用の箱を探すのであった。




