第16話 ヘルディナンドの訪問と設計図
「今回の計画について、アストラ艦長のご意見を頂戴したいと思いまして――」
補給倉庫で、備品が入った段ボールを棚に片付けていると、俺の耳に聞き覚えのある声が届いた。
俺がその声の方向に目をやると、円筒状のデカい図面ケースを幾つも首から下げた、ヘルディナンドがそこに突っ立っていた。
「ちょっと待て。俺は今忙しいんだ」
俺の前には、数十箱の段ボールが無造作に積まれている。これから、この段ボールを全て棚に片付けなければならないのだ。
その俺の様子を見たにも関わらず、ヘルディナンドの野郎は、手伝おうとする素振りも見せない。あろうことか、持っていた一枚の図面を作業台の上に広げ始めた。
「あの……。これをご覧頂きたいのですが――」
「だからちょっと待てって。まず、これを片付けるから、少し手伝ってくれよ」
「は! 承知いたしました!」
俺の指示を聞いた途端、ヘルディナンドは慌てて段ボールを片付け始めた。
こいつ……。マジで指示待ちの典型じゃないか。お前、仮にも参謀長だろ? 管理職の自覚を持てよ。
まずはこいつからしっかりと教育してやらないといけないな。そして、こいつから組織全体に、〝考えて動く〟文化を根付かせてやる。
俺がそんな事を考えながら、二人で作業している内に、段ボールは綺麗さっぱり片付いた。
俺は、ヘルディナンドが広げた紙を確認するために、作業台に向かった。
「で? 何の意見を貰いたいって?」
「はい、この設計図なんですが――」
「ん? 設計図?」
俺がその紙に目をやると、そこには設計図とは思えない、幼児が描いた魚のような落書きが描いてあった。
「これは……。サバ? いや、サメ……かな?」
「あ、いえ。これはドラフトというか、まだ途中でして……。デザインが決まったらAIに清書させますので」
「お前……。ドラフトにしたって、もう少しまともな絵を描かないと、なにも判断出来ないだろうが。他のも見せてみろ」
俺は、すぐそこにおいてある図面を広げて見た。全て、ミミズがのた打ち回った様な線で絵が描いてある。
「……これは、なかなか……。見ごたえのあるアート作品だな。潰れたカエルに、ひしゃげたメガネ。そして、食べかけのドーナツか」
「いえ、全て戦艦の絵です」
「戦艦? これが? 一体どんなデザイナーに描かせたんだよ。絶望的に下手だぞ?」
「これは、全てフェイス殿下が描かれたものです」
フェイス……。またあいつか。
あのポンコツサディスト皇子。まさか、こんなに画伯だったとは……。
「で? これは一体何のドラフトなんだ?」
「クラウザーム・ヴァイロン号の、替わりとなる新しい戦艦を作るプロジェクトが、フェイス殿下主導で動いていまして――」
「却下」
俺は間髪入れずに全否定した。当然だ。
「え? いまなんと?」
「却下だ! クラウザーム・ヴァイロンは、完成してからまだ5年しか経ってないだろ! あと20年は使えるわ! それとも何か画期的な新技術でも開発されたのか!?」
「いえ。技術的な部分は何も変わりません。デザインが陳腐化したという判断であります」
「デザイン……。戦闘に一切関係ないだろうが。で? ここに書いてある数字は何だ? まさか、予算とか言わないよな?」
俺は、嫌な予感がしながらも、一応念のために聞いてみた。5の後ろにゼロが11個。すなわち5千億だ。
「さすがアストラ艦長ですね! その通り。建造費です」
ふざけんな! どんだけ無駄遣いするつもりだ! あのバカ皇子!
俺は、冷静を装いながら、さらに質問を続ける。どうしてもこれだけは聞いて置かなければならない。
「そうか。では、その下に描いてある100億という数字は何だ?」
「あぁ、そちらは設計料ですね」
「設計料? AIに設計させる為の電気代って事か?」
「いえ。フェイス殿下に支払うデザインの手数料です」
……。え? マジ? この絵で?
ほぼ税金の着服じゃねぇか。
「よし。その絵は見なかったことにするぞ」
俺は、フェイスが描いた落書きをコンテナの奥底に封印するのであった。




