第13話 フェイスの睨みと、戦闘の行方
「やっと見つけたぞ」
司令室に突如現れた男が、俺を睨みつけている。
え? 初対面だけど? 誰ですかあなた?
身につけているものを見ると、テラテラと光る、やたらと高級そうな生地が使われていることだけは分かった。
あんな服、クリーニングに出すだけで何千円もかかるぞ。
俺が困惑していると、俺の隣に立っていたヘルディナンドが、慌てた様子でその男に話しかけた。
「フェイス殿下、どうされたのですか? 普段は入口から入ってこられるのに」
「うるさい! 口を挟むんじゃない、ヘルディナンド! 貴様は黙っていろ!」
フェイス殿下? そうか、この男はフェイス・ヴァーン第一皇子か……。なんか怒っているような? まてよ?
俺の脳裏に、先日、皇帝へ行った進言が浮かんだ。
『プレミアが付いていて一番価値のある古い小型機のみを残して、全て売却したいと考えています――』
あれか。まずいな。まさか乗り込んでくるとは。
俺は脳をフル回転させて、言い訳という名の対処法を考え出した。その時、進軍中の艦隊無線からの轟音が司令室内に響き渡った。
ドッゴォォォォンンン!
『大変です! 敵艦に気づかれました! ミサイルを撃ち込まれています! こちらもミサイルを発――』
無線から聞こえたその言葉を遮って、俺が指令を出した。経費削減が第一優先だ。フェイスに構っている時間などない!
ミサイルは高いんだ! そう簡単に撃たせてなるものか!
「待て! 発射するミサイルを指定する!」
俺はそう叫びながら、ヘルメットのARを起動し、在庫品リストを開いた。
目的は、そう――〝できる限り古いミサイル〟を探すためだ。
俺は在庫品リストを高速スクロールさせながら、製造年月日と、使用期限の項目に目を走らせる。
「ア、アストラ殿が、ものすごいスピードで戦況を分析し始めたぞ!?」
「もしや、この表のような四角は、エリアを表しているのか!?」
外野がうるさい。しかし、俺の手が止まることはない。定時間近の仕事の速さには自信があるのだ。早く帰りたいからな。
ダメだ、見づらい。俺は、使用期限順にソート(並び替え)をかけた。
見つけた! なんで使用期限切れのミサイルがこんなにあるんだよ!
管理が雑すぎる! よし、この使用期限切れの14発を撃とう! これなら廃棄と一緒でノーコスト! むしろ、廃棄処分時の収集・運搬料金とリサイクル料金が浮く。実質プラスだ!
俺は、わかりやすいように、セルを赤く塗りつぶした。
「おぉ! 戦況がガラリと変わったぞ!」
「あの赤いエリア! あれは敵の地点だな! 血祭りに上げてやるということか!」
俺が、艦隊に指令を出す。
「これから指示するシリアル番号が刻まれているミサイルを発射しろ! 1号機はA10221からA10224の4発! 2号機はD11928からD11929の2発! 3号機はG13182からG13184の3発! 4号機はW16224からW16225の2発! そして、クラウザーム・ヴァイロン号はQ00132からQ00134の3発だ! 各艦シリアルに間違えがないよう、ダブルチェックして発射せよ!」
『ア、アイアイサー!』
これでよし。ミサイルの在庫処分は終わった。あとは、敵艦に肉薄して、近接戦闘距離にしてしまえば、高価なミサイルを撃つ必要がなくなるだろう。
「全艦敵に向かって全速前進! ミサイルを撃ち込むと同時に肉薄せよ!」
フェイスは、指示を出している俺を見て、呆気にとられていた。
ホログラムディスプレイに、赤い点が表示された。ミサイルの位置だ。その赤い点が、切り絵で作られた黒い敵艦に向かっていく。
俺達は、その赤い点を固唾を飲んで見つめていた。
その時、フェイスの後ろで再度壁が強い光を放ったが、そのことに気づくものは誰一人いなかった。
赤い点が、敵艦の直前で、フッと消失した。
『駄目です! 敵艦に当たる前に全弾暴発しました!』
◇
そのとき、敵艦の中では、敵の司令官。ムワルグが絶叫していた。
「な、なんだ、あのミサイルの不規則な動きは! 着弾地点が計算できないぞ! 総員回避! なんとしてでも回避しろ!」
ブリッジ内が騒がしくなる。全てのクルーが対応に追われる中、ミサイルが空中分解し、到達する前に突如爆発した。
「お、驚かせやがって……。反撃だ! 全弾発射しろ!」
そうムワルグが叫んだとき、レーダーオペレーターの悲鳴がブリッジに響き渡った。
「ムワルグ司令! 駄目です! 敵のミサイルから、なにかベタベタしたものが飛び散って、本艦にこびりつきました! 全ての計器が異常値を示しています! 戦闘継続不能! 直ちに修理が必要です!」
「……くっ。仕方ない! 全艦撤退! 基地に帰還しろ!」
◇
(……。 やっぱり使用期限切れはダメか)
俺がそう思ったときに、再度無線が入った。
『敵艦が撤退していきます! 無線を傍受したところ、我々のミサイルが粘着質のものを撒き散らして敵の計器を破壊したようです!』
まじか。加水分解されたプラスチックかな? 古いスニーカーとか、輪ゴムとか、劣化したゴムやプラスチックがベタベタとこびりついて、取れないんだよなあれ。
まぁ、結果オーライってことで。
俺が、ほっと胸を撫で下ろしていると、フェイスが俺の胸ぐらを掴んだ。
「おい! 貴様! オレの超絶エレガントな機体を売り払うように父上に進言したそうだな!」
あ、やべっ。この人のこと忘れてた。
「あ、あぁ。そのことですか……」
俺が口ごもっていると、フェイスは残忍そうな笑みを浮かべながら、モニターを指さしながら脅し文句を続けた。
「しかも、貴様……。あの、クラウザーム・ヴァイロン号に乗っているのは、オレが処刑しようとしたグロウムではないか! ことごとくオレの邪魔をしやがって――」
そのとき、フェイスの肩を後ろから、指でちょんちょんとつつく人物がいた。
いつの間にか転移してきていた皇帝エグゼウスだ。
フェイスが振り返りもせず、怒声を上げる。
「なんだ! 邪魔をするんじゃない!」
そして、そのままさっきの続きを始めた。
「アストラ! 貴様! オレを怒らせたらどうなるか分かっているだろうな! あのグロウムと同じように、宇宙に――」
皇帝が再度、フェイスの肩をつついた。
「邪魔をするなと言っているだろうが! お前も宇宙に放流されたいの――」
そう叫びながら振り向いたフェイスの顔が、見るみる間に血色を失っていく。
「あ、あれ? ち、父上ではありませんか……。なぜこのようなところへ?」
「なぁに。アストラ君の働きぶりを、この目で見ようと思ってな。ところでお前は何をしているのだ?」
そうフェイスに言う皇帝の顔は、一見笑っているように見えるが、目はまったく笑っていなかった。
「い、いや。アストラ君に……。その、お礼を言っていたところなんですよ。色々とお世話になったので……。ハハハッ」
フェイスの苦しい言い訳に、皇帝は表情を一切変えない。
「フェイス。お前はいますぐここから出ていけ」
フェイスは俺の耳元で「覚えておけよ」と、つぶやきながら、司令部を出ていくのであった。




