第12話 震える心と先延ばし戦略
恒星でのエネルギー補給を終えた、我がクロス・ヴァーン帝国軍。スンダ―ザルツ銀河に誇る宇宙戦艦クラウザーム・ヴァイロン号を先頭に、5隻の艦隊が進軍していた。
200パーセントポイント還元に目が眩んだ俺の命令によるものだ。
俺は、ブリーフィング開始時と同じポーズ――両肘をデスクに乗せて、目の前で両手の指をがっしりと組んだポーズで、司令室のモニターを見つめていた。
だが、先程のように虚勢を張ってポーズを取っているわけではない。
もう間もなく戦闘が始まる。その初戦闘へのプレッシャーで、戦艦に乗り込んでいるわけでもないのに、ブルブルと震える指と体を物理的に固定して誤魔化すため。ただそれだけだ。
その時、不意にクラウザーム・ヴァイロン号から無線が入った。
『10時の方向に、宇宙服を着た人間が漂っています! 着ている宇宙服はクロス・ヴァーン帝国のものです! 生死は不明――』
「なんだと!? なぜこの様な所に!?」
驚くヘルディナンド。そして、微動だに出来ない俺。
俺は、眉一つ動かさずに(内心では「戦闘開始が遅れるぞ!」と歓喜しながら)指示を出した。
「すぐに回収しろ……」
人命救助は戦闘回避の言い訳……いや、人としての務めだ。救助活動をすれば、戦闘開始が少し遅れる。
若干遠回りになるが、エネルギー補充はしたばかりだし、何も問題はない。いや、むしろできるだけ先延ばししたいのだ。あわよくば、エネルギーを使い過ぎて、もう一度補給に戻るなんてことになればなお良い。
微動だにしない俺を、ヘルディナンドが、不思議そうに見ているが、気にしないことにした。
だって、動いたら震えてるのバレちゃうもん。
しばらくすると、クラウザーム・ヴァイロン号から再度無線が入った。
『生存を確認しました! 漂っていた人物は、グロウム氏です!』
「なんだと!? なぜグロウム氏がこんな所で宇宙空間を漂っているんだ!」
また驚くヘルディナンド。そして、また動けない俺。
グロウム? 誰だそれは? 有名人? まぁ良い。誰であろうと、助けることには変わりない。時間稼ぎになる。
俺は、指一本動かさず(動かせず)に指示を出した。
「すぐにクラウザーム・ヴァイロンで保護しろ」
俺のその様子を見ていたヘルディナンドが、ハッとした顔をして俺に近づいてくる。
(ヤバい……震えてるの気づかれたか?)
俺が内心で冷や汗をかいていると、ヘルディナンドが俺に畏怖の念を含んだ疑問を投げかけてきた。
「アストラ殿。先ほどから全く驚くことなく淡々と命令を出していますが、もしや、あのグロウム氏――帝国随一の天才メカニックが、この宙域にいることを知っていたのですか!?」
違う。そんなわけないだろ! 緊張で動けないだけだ。グロウムって名前も初めて聞いたんだが?
俺は、とりあえずはぐらかすことにした。
「あ、あぁ。まぁな」
俺がそう答えた時、モニターに救助されるグロウムの映像が流れてきた。
彼は憔悴しきった表情で涙を流した。
『あぁぁ……。ありがとうございます! 空気が切れる寸前で、もう諦めていたんです! あと数分遅かったら……。この恩は必ず返します!』
その言葉を聞いた瞬間、ヘルディナンドは、雷に打たれたような顔をして、俺の方を向いた。
「そうか! アストラ殿が、あえて遠回りになる『エネルギー補給ルート』を選んだのは、全て計算された計画だったのですね!」
「え?」
「全ては彼を救うため! このタイミングでここを通らなければ彼を救うことは出来なかった! 彼の技術は、我が艦隊の力となり、銀河連邦を打ち倒す礎となるでしょう! さすがはクラウス・クロス将軍の子孫だ。先読み能力が高すぎる! もはや予知能力の領域!」
ヘルディナンドが盛大なる勘違いをしているが、訂正するのも面倒くさいので無視することにした。何より俺はまだ動けないのだ。
時間稼ぎもしたし、早く戦闘が終われば、全てうやむやにできるかもしれない。
「グロウムを安全な個室に案内したら、すぐに総攻撃開始だ!」
俺がそう指示を出した時、司令室の壁がカッと強い光を放った。コンビニからこの銀河に転送されて来た時と同じ、それは転移装置の光だった。
その光の中から一人の男が現れ、怒気をはらんだ声で静かに言った。
「やっと見つけたぞ」




