第10話 フェイスと皇帝と高度な戦術
「父上! いったいどういうことですか!」
フェイスの、怒気を含む大きな声が玉座前の広間に響き渡った。だが皇帝エグゼウスは、そのようなフェイスの言動に慣れているのだろう。落ち着いて我が子をたしなめた。
「フェイスよ。そのように取り乱すでない。我々のように民の上に立つ者は、いかなる時でも威厳を失ってはいかんのだ」
周囲の衛兵達が、一斉に「あんたが言うな」とでも言いたげな表情を浮かべるが、決して口にすることはない。
「それで? いったい、どうしたというのだ?」
「私の『超絶エレガント専用機』を売却させるとは! 納得できる理由をお聞かせください!」
「あぁ。そんなことか。進言があったのだ。〝新しいものは陳腐なので、お前にふさわしくない〟とな」
「なんですと!? どこのどいつがそのような戯言を!?」
「戦術顧問の知将、アストラ・アエット君。あの伝説のクラウス・クロス将軍の子孫で、エライアちゃんの想い人だ。彼は、優秀だぞ。お前の〝威光〟を民に示す為に、最善の方法を考えてくれたのだ」
「なるほど……その者には礼を言わねばなりませんね。どこに居るかお分かりですか?」
「今どこにいるかまでは分からんが、彼が普段いるのは補給倉庫だ。彼に会ったらよろしく言っておいてくれ」
「……承知しました」
フェイスは奥歯が割れんばかりに強く噛み締めると、踵を返し、荒々しい足取りで宮殿を後にした。
◇
「銀河連邦のこの8隻に向かって、我々の5隻が――」
ヘルディナンドが、5隻の戦艦が繋がった赤い紙を動かしていく。それは紙を蛇腹に折ってから切ることで作られる、いわゆる『紙人形』の宇宙船版だ。5隻が仲良く横並びに連結されている。
「このように、ブゥーンと正面から突っ込んで行く――」
いや、擬音を使うな! ミニカーで遊んでる子供かよ! 待て、落ち着け俺。まずはこいつを止めよう。
「ちょっと待て、その作戦は本当に最適なのか?」
「……? と、いいますと?」
「5隻で一斉に突っ込んで行くのが最適なのかと、聞いているんだ。バカ正直に全機で正面から行く必要はあるのか?」
ヘルディナンドが、少し呆れたような表情をした。
「よく見てください。この5隻は繋がっているのです。分けられませんよ」
それは、切り絵の話だろうが! アホか! 切り絵を基準に戦術を立てるんじゃない!
俺は冷静を装いながら、さらに質問を続けることにした。大声とか出すと、パワハラで訴えられかねない現代の処世術だ。
「敵はどうなんだ? 敵は戦力を分散してこないのか?」
「そう! そこなんですよ! こっちはちゃんとルールを遵守して5隻一緒に行動してるのに――」
ヘルディナンドはそこまで言って、忌々しげに拳をギュッと強く握りしめ、デスクをドンッと叩いた。
「あいつらは卑怯なことに、散開して取り囲んできたりするんだ!」
こいつらはもうダメだ。5歳児だと思おう。俺は、自ら実践してみせることにした。対話と実践を通じて成長を促す。OJTっていうやつだ。
「それが、〝戦術〟というものだ。お前たちは、自らが作り出したルール(切り絵)に縛られているようだな。ちょっとそれを貸してみろ」
俺は、赤い紙で作られた戦艦の切り絵を手に取り、5隻を千切っていく。
ビリッ。ビリッ。ビリッ。ビリッ。
それを見たヘルディナンドと切り絵将校が取り乱し始める。
「な、なにをするのです! アストラ殿! おやめください! ご乱心を!」
「あぁ! せっかく作ったのにぃ!」
「落ち着いてよく見ろ。これでもバカ正直に5隻まとめて突っ込んで行くのか?」
俺は、千切った5隻をバラバラに配置して見せた。
その場にいる全ての将校が、はっと目を見開いた。
「「「おぉ!! これなら分かれて動けるぞ!」」」
「これが、高度な戦術というものか!」
「やっと分かってくれたようだな。そちらの黒い紙も、千切ってくれ。……ところで、戦艦はホログラムで出せないのか?」
「え? あぁ、出すには出せるのですが、3Dデータの作成に1週間かかりますよ?」
「なるほど……」
工数の無駄だな。どれだけ精密にモデリングするつもりなのか……。とりあえず切り絵で済ませよう。




