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「ただの経費削減ですが?」〜銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです〜  作者: 架木 空
転移と勘違いと不本意な出世

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第1話 宇宙戦争と無駄になったポイント

「前方に(おびただ)しい数の、銀河連邦軍の敵艦が出現しました! ご指示をお願いします!」


 狼狽(うろた)えるレーダーオペレーターの声が、宇宙戦艦クラウザーム・ヴァイロン号のブリッジに響き渡る。

 その声に、副艦長のヘルディナンド・ボイルが喚声(かんせい)を上げた。


「アストラ艦長! ありったけのミサイルを撃ち込んで、我らクロス・ヴァーン帝国軍の強さを思い知らせてやりましょう!」


「…………」


 俺は、星野明日虎。32歳。

 このクラウザーム・ヴァイロン号のブリッジで、中世ヨーロッパの騎士がかぶっているようなデザインのヘルメットをかぶったまま頭を抱えていた。


 目の前に浮かぶ巨大なスクリーンでは、敵艦を示す無数の赤い点が点滅を繰り返している。

 敵艦が多すぎる。確かにミサイルを撃てば、何隻かは倒せるだろう。

 だが、ヘルディナンドよ。そんな行為になんの意味がある?

 それに、あの対艦ミサイルは高いんだ。一発で俺の年収の10年分だぞ? 日本円にしたら、およそ4000万円だ。社長の年収だって消し飛ばしてお釣りがくるレベルだぞ! それを、全弾撃ち込む? 正気かよ。

 その稟議は誰が通すんだよ! 絶対に怒られるやつだ、俺は申請せんぞ!


 よし、もったいないから動力を切って、少し考えよう。アイドリングストップってやつだ。


「……動力を停止させろ。照明も全て消してくれ」


「は、はい? どうしてそんなことを――」


「いいから指示通りにしろ、ヘルディナンド。……考えがある(電気代がもったいない)」


「ア、アイアイサー! 動力停止! 照明も全て消せ! 艦長の深遠なるお考えだ!」


 俺は、暗闇の中で目を閉じると、どうしたら良いか考え始めた。


 やっべぇ。なっんにも思いつかん。

 当たり前だろ。俺は宇宙なんて知らないんだよ!

 俺は11年間総務一筋でやってきたんだ!


 俺が脳内で焦っていたとき、レーダーオペレーターが叫びだした。


「艦長! 大変です! 彗星がこちらに向かって来ています! このままでは、本艦の船首に衝突する可能性があります!」


 まったく……次から次へと問題ばかり起こりやがる。安っぽい昼ドラかよ!

 俺は、目を閉じたまま指示を出した。


「動力を入れて後退しろ」


 その指示を聞いた、ヘルディナンドが大声で伝達した。


「アイアイサー! 動力を入れて、フル出力で後退しろ!」


「おい待て、ヘルディナンド。フル出力にしないとぶつかるのか?」


「いえ、ギリギリ回避できるかと……」


「では、最低限の出力で、ギリギリ回避しろ」


 フル出力なんてとんでもない! もったいないだろ。急発進と急ブレーキは燃費に直結するんだ、常識だろ。


「ア、アイアイサー!」


 ズッ、ズズッ、ズン。

 

 クラウザーム・ヴァイロン号の動力は、最低限の出力でその巨体を少しずつ後退させていく。

 彗星が船首をかすめて通り過ぎようとしたときだった。


 カッ!!!


 老朽化によるスイッチの故障か、クラウザーム・ヴァイロン号のヘッドライト(?)が突然点いた。

 そして、氷の塊である彗星に、ヘッドライトが乱反射したのである。

 おいおい! 眩しいんだよ! っていうか、ライトを点けろとは指示してないぞ! もったいないだろ! 早く消せ!


 俺が電気代の心配をしているとき、レーダーオペレーターが慌て始めた。


「艦長! 敵艦隊が撤退していきます! 敵艦の無線を傍受したので流します!」


 ブリッジに雑音混じりの傍受無線が流れ始めた。


『ジッ!……あの光を見ろ! 巨大な敵要塞が出現したぞ!……ザザッ! 勝ち目がない! 全軍撤退――』


 その無線を聞いたヘルディナンドが、歓声を上げた。


「おぉ! ミサイルを一発も使うことなく、あの数の敵を追い払うとは! 全力で後退させなかったのも、彗星との距離を離さないための艦長の計画の内でしたか! 敵の目を欺く見事な作戦、いつもながら素晴らしい手腕であります!」


「あ、あぁ……」


 節約しようとしただけだったんだけど……。


 クラウザーム・ヴァイロン号のブリッジは乗組員たちの歓声で包まれた。


「さすが艦長! お見事です!」

「素晴らしい作戦でした! 艦長の頭脳に勝てるものなどおりませんよ!」

「艦長なら、この銀河を支配することも容易ですな!」


 違う! 俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんだ!


 これは、地球から遠く離れたこの銀河で、この俺が節約に節約を重ね、平穏な暮らしを目指す物語である。


 ◇


 俺は、会社帰りに行きつけのコンビニ『ルーソン』のレジに並んでいた。

 買い物カゴには、半額シールが貼られた幕の内弁当とPBプライベートブランドの烏龍茶、そして10円チョコが3つ。


 今日は『コンタ』ポイントのキャンペーンで、500円以上買うとポイント5倍なのだ。

 チョコによる値段調整で、きっかり508円。完璧な計画だ。


「合計508円です。ポイントはどうされますか?」

「あ、これでお願いします」


 よし! これで25ポイントゲット。実質25円の利益確定だ。

 このポイント集めが、俺の唯一の癒し。

 会社では毎日「無駄なコピーをとるな」と部下を叱り、上司には「残業が多すぎる」「経費削減案を出せ」と詰められる。

 疲れ切った心を満たせるのは、このポイント集めで得られる、ささやかな充足感だけだ。


「……あっしたー(ありがとうございました)」


 やる気が感じられない店員の声を聞きながら、自動ドアをくぐった。冬の冷たい空気が身にしみる――はずだった。


 突如正面から強い光を当てられた俺は、ぼそりと悪態をついた。


「まぶしいな、ヘッドライトを消せよ。絶対にハイビームにしてるだろこれ……」


 その光が徐々に弱まっていくと、そこに信じられない光景が現れた。


「…………は?」


 蒸し暑い湿った空気に包まれた。そして、鼻を突く錆びた鉄とオイルの臭い。


「なん、だ……? これは?」

 

 コンビニ前にあるはずの道路や電柱は、全て消え失せ、そこにあるのは見渡す限りのコンテナの山。

  そして、見たことがないデザインの小型の船のようなものが置いてある。

 

 はるか上にある天井は、全面が青白く無機質な光を放つ、見たことがない発光体で出来ていて、部屋全体をぼんやりと薄暗く照らしていた。


 眩しい光は、正面に置かれたプロジェクターのようなものから発せられていた。そしてその光は消える寸前だった。


「新手のドッキリ……にしては大規模すぎるな……」


 そう思いながら、後ろを振り返ると、光の中にコンビニが見えた。


「何が起こってるんだよ!」


 俺がそう叫ぶと同時に光は消え、コンビニの姿が完全に消え失せた。


「嘘だろ……何なんだこの状況は!? 何だ今の光は! そしてここはどこだ!?」

 

 俺が、驚きながら辺りを見回すと、冷たい鉄の床に、得体のしれない機械が無数に転がっているのが見えた。

 自分の置かれた状況などそっちのけで、本能的に仕事の血が騒いだ。職業病ってやつだ。


「……この雑然とした感じ、整理整頓が絶望的に下手だ。動線も確保できていないじゃないか。我慢できないな」


 俺は、足元に転がっていたフルフェイスのヘルメットをなんとなく手に取る。

 こめかみの辺りにあるスイッチを押してみると、ヘルメットの中が光り始めた。


「ん? なんだこれ?」


 その光がなんなのか確認しようと、ヘルメットを被ると、目の前の空間に文字が表示されていた。

 

「おぉ! ARか! スマートグラス試してみたかったんだよな」


 その時、後ろから怒声が聞こえた。


「誰だ貴様! どうしてここにいる!?」


 俺は、ビクッと肩を震わせると、ゆっくりと振り返った。そこには、耳の尖った大男が立っていた。


「お前もしかしてバイト希望者か? 名を名乗れ」


「俺は、明日虎、あ、えっと……星野です……」


『明日虎、ア、エット』。その言葉を聞いた男の表情が和らいだ。


「おぉ、君がアエット君か! クロス・ヴァーン星から連絡が来ていたよ。俺はこの補給倉庫の管理者。ザッツ・ハウゼンだ。君は確か住み込み希望だったな! 早速今日から働いてもらうぞ!」


「ちょっ、ちょっと待ってください! ちょっと聞きたいことが……」


 俺は、先ほど光を発していた、プロジェクターのような機械を指差した。


「あれってなんですか?」


「ん? お前なにを冗談言ってるんだ? 見たことないわけないだろ? 転移装置じゃないか?」


「え? あ、あぁそうですよね。俺が知ってるのとちょっと形が違ったので」


(転移装置……。こいつの容貌を見る限り、ここはおそらく地球じゃないな……)


「あの転移装置って、もう一回起動出来ますか?」


「もう一回? もう一回もなにも、壊れてるから起動なんてできないぞ?」


(やべぇ……。詰んだ……)


 俺はしばらく地球に帰れそうもないことを察した。

 仕事はこの際どうでもいい! 俺の! 俺のポイントはどうなる!

 いや、待て。ほかの転移装置を見つければまだ可能性がある! 俺のポイントを取り戻すんだ!


「あ、とりあえず、この倉庫を片付けても構いませんか?」


「おっ。仕事熱心だな。じゃあ頼むよ」


 俺は、貯めていたコンタポイントに想いを馳せながら、倉庫を片付け始めるのであった。


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