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プロローグ

 アパートのリビングで俺と彼女はソファーに並んで座り、彼女の好きな映画を鑑賞していた。家での映画鑑賞は雰囲気作りが命というポリシーの彼女は部屋の電気を消して、カーテンを閉め切る。


 ──俺はむしろその逆だった。照明を落としたことで視界がさえぎられ、映画よりも隣にいる彼女を意識してしまう。特にかすかに触れる手の暖かさや衣服がすれる感覚は心臓の鼓動を一気に早める。


 一方、彼女の方は本当に映画に夢中になっている様子でそんなことは意識もしていない。ちょっと悔しい。


 やがて感動的なシーンの後、エンドロールが流れ、部屋に静けさが戻る。


 彼女は伸びをしてからソファの近くに置いてあるスマホを手に取ってイヤホンの片方をこちらへ差し出す。


「映画の余韻にひたろうよ香坂くん」


 パジャマ姿の彼女は首を少しかたむけて上目遣いでこちらを見て言った。学校では絶対に見せない仕草や表情だがこれで好意をもたれていると思うのは気が早い。


「毎回思うんだが、映画の主題歌を聴き直すのにイヤホンを共有する必要があるのか?」


「せっかくなら一緒にひたりたいでしょ、それに私はスピーカー派じゃないし。ほら」


 結局言われるがままにイヤホンを受け取り、片方の耳に付ける。


 しばらく曲を聞いていると俺の肩に彼女が体重を預けて規則正しい寝息を立てていた。時刻は深夜の一時をまわっていて本来の彼女の就寝時間を大幅に過ぎているので寝てしまうのも無理はない。


 肩に感じる確かな重みと鼻をかすめる甘い香りに彼女の存在を今まで以上に意識させられる。


 この無防備な寝顔や態度のあどけなさは学校での彼女しか知らない人間からしたら到底想像できないものだろう。


 俺、香坂天音も少し前までその一人だった。隣で寝息を立てる藤野涼香とは距離の遠い幼馴染でいつも人に囲まれている彼女に思いをよせつつも、しょせんは高嶺の花で離れた距離が近づくことはないと思っていた。


 でも今はこの距離が俺たちの距離感だ。少なくともアパートの中だけでは。


 どうしてそんな幼馴染が隣で肩を預けるくらい近い存在になったのか、それは高校二年の春先に突然親からかかってきた一通の連絡から始まったことだった──。

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