表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

幼馴染と海デートして花火見るお話。

作者: 橿原 瀬名

 八月の中ごろ。炎天下の昼下がり。

 焦げ付きそうなほどの日差しから逃れて、俺たちはカフェで休んでいた。

 俺は出かけるのも喋るのも好きじゃないが、幼馴染のカナは違う。


 次はどこに遊びに行こうかと、まくし立てるように話してくる。



「せっかく夏なんだからさ、海に行こうよ!」



 なんともまあ、カナらしい無邪気な提案である。

 けれど、俺としてはそんなところに遊びに行くつもりはない。



「行くわけないだろ。こんなクソ熱い中、どうして外で遊ばきゃいけないんだ」

「大丈夫だよ! だって海だもん!」

「どういう理屈だそれは」



 思わず苦笑してしまった。

 彼女の弾けるような笑顔は魅力的だ。無邪気で明るいのもいいと思う。

 けれど、ノリと勢いだけでモノを考えすぎだと感じる。



「ゆう君は海に行きたくないの?」

「行きたくない」

「あたしの水着が見れるって言われても?」

「……興味ないね」

「あー! 今ちょっと迷ったでしょ! ゆう君のエッチ!」

「やかましいッ! 人をおちょっくってるとグーでぶちのめすぞッ!」



 棒読みで「きゃー」といいながら、冗談めかして怖がるカナ。

 いかんや、からかわれたのが癪で、つい言葉が過激になってしまった。

 むろん本気ではないし、向こうもそう受け取ってくれたのは助かる。

 けれど、何をそんなにムキになっているのだろうか。


 我ながら良く分からん。



「真面目な話さ……。ゆう君って本気で見たいの。私の水着……」



 カナは頬を染め、うつむきながら聞いてきた。

 ……なんだその、こっちを意識したようなリアクションは。



「……まあ、似合うんじゃないか。スタイルいいし、可愛いし」

「そうなんだ。どこを見て、スタイル良いって思ったの?」

「………………言えない」

「ふーん、言えないようなところを見て、言えないような気持ちになったってこと?」

「いや、そうじゃなくて……」

「ヘンタイ」



 咎めるようなカナの声に、今度は何も言い返せなかった。



「なんか複雑。あたしも知らないわけじゃないからね。クラスの男子が、そういう噂してるの」



 確かに、カナはクラスでも目立つ存在で、男子の視線を集めている。 

 胸が大きいだの尻がエロいだのと、そんな話も聞いた。


 なぜかは知らんが、そんな話を聞かされると無性に腹が立つ。

 なんなら今も、少し思い出してイライラしてた。



「お前、まさか俺とアイツらを一緒にしてないよな」



 想像より、ドスの効いた声が出た。

 肩をビクッと震わせるカナを見て、思わず正気に戻る。



「……怖がらせて悪い。ごめん」



 バツが悪くなって、俺はカナから目を逸らした。



「ホントだよ! ヘンタイなのは一緒なんだから、そんな怒んないでよね!」

「返す言葉もない」

「まあ、ゆう君ならいいけどね……。それしか見てないってことはないだろうし」

「当たり前だろ。そこまで終わった変態じゃねぇよ」

「ヘンタイなのは認めるんだ……」



 この流れで認めなかったら人格に問題があるだろ。

 とは言えなかった。たぶんあんな怒り方をした時点で問題があるから。



「で、ヘンタイさんはあたしにどんな水着を着せたいんですか?」

「この流れで、それ言わせようとしないでくれるか?」

「まあ、言うだけ言ってよ。聞くだけ聞くから」

「……真面目に答えると、さすがに考えたことない。色だけ言うなら、白とか似合いそうだなとは思う」



 普通に考えて、幼馴染の水着姿を妄想したことなんてないからな。

 こいつとは、まるで双子みたいに同じ時間を過ごしてきた。


 兄妹のように過ごしてきて、最近は女らしくなったかとか、可愛くなったとは思うけど、それだけだ。 


 そうでなくとも、考えたことあったらまずいだろ。



「……ゆう君って清楚系が好きなんだね」

「それ、自分のこと清楚系って自称してるようなもんだぞ」 

「言われてみれば、確かにそうかも」



 話が変な方向に行きつつある。仕方ない。こうなりゃヤケだ。



「わかった! 海には行ってやる! 水着は一人で勝手に決めろ!」

「オッケー。ゆう君もオシャレしてきてよね。じゃないと怒るよ」

「……善処する」



 ゆう君『も』ねぇ。

 こいつも気合い入れてオシャレして、俺もそうして、そんで二人で海に行く、かぁ。


 ……なんだかおかしな方向に着地してないか、これ?


 きっと、カナが夏休みで変なテンションになっているせいだ。そうに違いない。



「まったく、お前はどうしてそんなに夏が好きなんだ……」

「なんかエモいじゃん。景色が全部、鮮やかでさ。日差しが強くて、明るいせいかな?」



 思わず独り言のように言ってしまった言葉に、カナは真面目に答えてくれた。



「俺には分かんないよ、その感覚。なんなら夏は大嫌いだ」

「そうなの?」

「そうだよ。クソ暑いし、セミはうるさいし、空が鮮やかすぎて目がチカチカする」

「えー……、あの空がいいのにさ」


 

 俺たちはとことん、価値観が真逆のようだ。

 けれど、別に良い。空の色について語り合える友達なんて、こいつしかいないしな。


 なんだかんだ、それが大事だと思っている。



━━━━━━

━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━



 立てたパラソルの下で、俺はカナを待っていた。

 いかにもバカンスなイスとブルーシートを用意して、近くには浮き輪も置いてる。


 海水浴場に来るまでは一緒だったんだが、水着をサプライズで見せたいとかで、わざと遅めに着替えてるらしい。


 どんな水着で来るつもりなんだろうか?


 生まれて始めて想像したカナの水着姿は、なんかフリフリでワンピースタイプで……露出の少ないやつだ。


 けれど、俺の予想は裏切られることとなった。



「お待たせー、似合ってる〜?」



 フリフリなのは想像通りだった。

 しかし、まさかあの時の会話で俺が似合うと言った、白の水着で来るなんて思ってなかった。


 それに、もう1つ予想外なことがある。


 まさかカナが、ビキニを着てくるくらい大胆とは思わなかった。

 


「どう? 似合う?」

「……ああ、綺麗だ」

「なにそれ〜! せっかくリクエストに答えたんだから、もっと喜んでよ〜!」

「人聞きの悪いことを言うな! 誰がビキニなんて要求したよ!」



 悔しいが、弾けるような笑顔で微笑む彼女は、夏の妖精のようだった。

 大嫌いな夏の景色が全て、カナの魅力を引き出すための舞台装置に思えた。


 目がチカチカするような、極彩色の青空も。

 雪のように白い砂浜も、空を映す鏡のような海も。


 すべてが、彼女によく似合っていた。



「それにしても、こんな穴場の海水浴場があるとはな。静かで悪くないぞ」

「でしょ〜。お父さんに教えて貰ったんだよね。今日は向こう岸で花火大会があるから、これでも多い方なんだよ?」

「そうなのか? それにしては少ないな」

「もっといい場所が他にあるせいだね〜。例えば、神坂タワーとか」


 

 神坂タワー。この神坂市でもっとも高い建造物。

 たしかに、花火を観たいだけなら、ここよりいい場所は山ほどある。

 それに、向こう岸まではかなり遠いからな。


 大玉の花火以外は、少し小さく見えるだろう。

 ……その問題が解決する、ラストスパートが本番、と言ったところか。



「それにしてもさ〜、こーんなオシャレな水着で、ゆう君をドキドキさせてさ。夜には花火を見る約束もしてさ。なんかデートみたいだと思わない?」



 いたずらっぽく笑いながら、カナはそう言った。



「……薄々、カナはそのつもりだろうと思ってたよ」

「そこは確信して欲しかったな〜」

「仕方ないだろ。二人で出かけるなんていつものことだ」



 幸いにも、あんまり冷やかしてくる友達もいなかったし、カナは軽く流してたからな。

 ……今にして思えば、あれはカナなりに、周りの女子への牽制だったのかもしれない。



「で、ゆう君からは、いつ気持ちを伝えてくれるの?」



 カナは俺の想像より自信家なようだ。返事はもうわかってるという前提で話を進めている。

 だが、俺も答えないわけにはいかない。



「……今日まで、ずっと考えてた。なんでカナを、他の男が変な目で見るのが、いやなんだろうって。普通に不快なのもあったけど、きっとそれだけじゃない」

「……うん」

「独り占めしたかったんだと思う。他のやつに、カナを見られるのが、イヤだ」

「……そっか。うれしいけど、独占欲が強いんだね!」

「うるさいよ……」



 しかしカナは、どうして自分ですら分からない俺の気持ちが分かったんだ?

 いや、もしかして、自分が分かりやすすぎるだけか……?



「……なぁ、カナ。俺ってそんなに分かりやすかったか?」

「うん。あたしが意識してますよオーラを出した途端、ゆう君も分かりやすく同じオーラ出してた」

「まじかよ……」



 自分が想像より単純な人間だったことに、俺はショックを受ける。



「それでさ、ゆう君。ちゃんと言葉で伝えて欲しいんだけど」

「……いや、悪いけど、口で言うのは恥ずい」

「えー!? この期に及んで、バカじゃないの!?」

「し、仕方ねーだろ! けどさ、その、今日は花火を見るんだろ……」

「……そうだけど?」 

「だからその、キスでいいか。大きい花火、見ながらさ」



 我ながら言ってることが恥ずかしすぎて、カナの顔を見れなかった。



「ゆう君はさ……その、乙女だね……」

「だまれ」

「まっ、おかげでアプローチした甲斐があったなって思えたよ。ヘタ踏むと今の関係が壊れちゃいそうで……怖かったしね」



 その後、俺たちは海でとことん遊んだ。

 日が暮れるまで、夢中になって。


 いや、やっぱり取り消す。夢中になってたのはカナだけだ。

 俺は、お互いに好きだって分かった後なせいか、カナの水着姿を変に意識していた。


 カナが無邪気に飛び跳ねるたびに、揺れる膨らみに、目が吸い寄せられた。

 それに気づかれて、「ヘンタイ」と咎められたとき、気まずくてたまらない気分になった。



━━━━━━

━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━



「花火、綺麗だね〜」

「ああ、そうだな」


 

 ガチガチに緊張しながら、俺はカナと手を繋いでいた。

 正直、花火が綺麗なんてまったくわからなかった。


 そんな余裕がない。けれど、カナはすごく満たされたような、愛おしげな顔でたまにこちらを見る。


 どうやら彼女には、このロマンチックなシチュエーションを楽しむ余裕があるらしい。

 なんだか腹立たしい話だ。俺だけが、こんなに緊張しているなんて。


 ……いや、カナからしたら、俺にアプローチしているとき、内心はそうだったのかもしれない。



「花火、おっきくなったね」

「あっ、うん……。そう、だな……」



 ラストスパートの大玉の花火。

 ここからでも、カナの白い肌と水着が、光に照らされ七色に染まった。



 ……ダメだ。すごく緊張する。そもそもキスってどうやるんた?

 ただ口と口をくっつけるだけでいいんだよな?


 無理だ……失敗したくない……。



「ゆう君は律儀だね〜」

「え?」

「あたしだって、ストレートに告白はしてないのにさ」

「……なにがいいたいんだよ。俺だって、できるなら――」



 その時、何を言いかけたのだろうか。 

 唇の感触が、あまりに衝撃的で、忘れてしまった。



「ゆう君! 好きだよ!」

「……俺もだよ」



 次は、俺の方から、ちゃんとできた。

 なんどもなんども、うわ言のように気持ちを伝えながら、キスは続けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ