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精霊の愛し子ですが、追放してよろしいのですね?  作者: 雨沢雫@3/5「つまらない女」発売


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21.囚われのリゼ(2)


「お前はこのままでは死罪となる」


 ルーファウスはまっすぐにリゼを見つめ、そう言った。


 リゼは視線を逸らさなかった。彼の瞳には一切の敵意がなく、恐怖を感じなかったのだ。


「わかっています」


「反論しないのだな。それでは罪を認めているようなものだぞ?」


「私がいま何を言おうと、聞き入れてはもらえないでしょう」


 リゼの心は凪いでいた。今置かれている状況に対して、なんの悲観もしていない。


 リゼの落ち着いた様子に、ルーファウスは怪訝そうに尋ねる。


「死罪を受け入れるつもりか?」


「いいえ、私は死罪にはなりません」


 リゼははっきりとそう言い切った。ルーファウスは解せないとばかりに目を眇める。


「どういう意味だ?」


「きっと、無実だと証明されるでしょうから」


「まるで、今回の主犯が誰か、わかっているような口ぶりだな」


 ルーファウスの言葉に、リゼはわずかに逡巡してから、小さくうなずいた。すると彼は口角を上げ、楽しそうにニヤリと笑う。


「申してみよ」


 ルーファウスに促され、リゼは「主犯かどうかはわかりませんが」と前置きし、自分の推理を話した。


 今回の事件に間違いなく関わっているであろう人物。それは、リゼを発見した近衛兵だ。


 彼はリゼを見つけたあとすぐに、『まさか、リゼ妃殿下が陛下を……!?』と言った。昨夜は新月。空も曇っていた。真っ暗な闇の中で、彼のランタンが照らしていたのはリゼの顔だけ。地面に倒れているルーファウスとサイラスには、光が当たっていなかった。


 それなのに近衛兵は、まるでルーファウスがこの場にいるかのような発言をした。彼は最初から、ルーファウスがそこに倒れているとわかっていたのだ。恐らくは、捜索隊がたどり着く前に、ルーファウスが確実に死んでいるか確認しに来たのだろう。


 思いがけずリゼに遭遇してしまった近衛兵は、全ての罪をリゼに擦り付けることにした。そのために大声で捜索隊を呼び、リゼが言い逃れできない状況を作った――。


 以上がリゼの推理だ。


 リゼは捕まる直前、ヴェンヌに(くだん)の近衛兵を探るよう伝えた。今はヴェンヌとフェンリルの眷属が、証拠集めを行ってくれている。先ほどのヴェンヌからの報告によれば、調査の首尾は上々らしい。だからこそ、リゼは落ち着いていられた。


 最後にリゼは、「自分があの場にいたのは、陛下の旅程が漏れているという情報を事前に得ていたからだ」とルーファウスに伝えた。どこまで信じてもらえるかはわからないが、他にうまい言い訳が見つからなかった。


「リゼの推理は正しいのだろう。俺もお前が主犯だとは思っていない。頭の回るお前なら、俺を殺すにしてももっとうまくやるはずだ」


 ルーファウスがそんなことを言うので、リゼは目を丸くした。


 すんなり推理を受け入れてもらえるとは思っていなかったことに加え、頭が回ると評価されたことにも驚く。そういえば、宮廷晩餐会の日にも頭がいいと言われたなと、リゼは思い出した。


 リゼは確かに博識であった。加えて、論理的な思考も得意である。それは、母が様々な知識をリゼに授けたからに他ならない。


「だが、俺に傷を負わせたのは、その近衛兵ではない」


 ルーファウスは忌々しげに顔をゆがめた。何者かに(おく)れを取った悔しさも混ざっているようだ。


「私もそれは疑問に思っていました。陛下に傷を負わせるなど、相当な手練れのはず」


「大抵の賊は弱かった。だが一人、別格の者がいた。不意打ちとはいえ傷を負わされるとは、完全に俺の落ち度だ」


「その人物に心当たりは?」


「それは……」


 ルーファウスは何か答えかけたが、なぜか口をつぐんでしまった。不思議に思って「陛下?」と声をかけると、彼はすぐに言葉を返してくる。


「相手はローブをまとっていて顔が見えなかった。だが――」


 ルーファウスは目を眇め、いびつに口角を上げた。狩りの時にも見た、歪んだ笑みだった。


「必ず捕らえ、この手で殺してみせる」


 冷たい殺気が部屋に満ちる。ルーファウスの姿が、表情が、なぜかとても悲しく思えた。


「……ルーファウス様は、誰と戦っていらっしゃるのですか?」


 そんな疑問が自然と口をついて出た。ルーファウスは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに顔から感情を消してしまう。


「お前が知る必要のないことだ」


 彼はそう言って立ち上がると、部屋を出ていこうとする。リゼも立ち上がり、彼を見送ることにした。


 すると、扉の前でルーファウスが振り返る。


「リゼ。こちらを見よ」


 リゼは言われたとおりにルーファウスを見上げる。彼は金色の瞳でこちらをまっすぐに見ていた。先ほどまでの冷たさは消え去り、温かく穏やかな視線だ。


「賊を倒し、俺やサイラスを治療したのはお前か?」


 リゼは一瞬呼吸が止まった。


 賊を倒したとき、リゼは確かに茂みの中に隠れていた。誰にも見られていない自信がある。その上、昨夜はルーファウスもサイラスも、確かに意識がなかった。リゼが治癒魔法をかけたことなど、絶対に知りえないはずだ。


 それなのに事実を言い当てられ、リゼはうまくごまかせなかった。


「な……んのことでしょう……」


 消え入るような声で答えたリゼに、ルーファウスはフッと笑みをこぼす。仕方ないな、という優しい笑みだった。


「まあいい。お前は秘密が多いな。なぜあの場にいたのかは、不問にしてやる」


(や、やっぱり信じてもらえてない……)


 昨夜リゼがルーファウスの元にいた理由は、なかなかごまかすのが難しい。それはリゼもよく理解していたが、先ほど伝えた理由が嘘だとすんなり見抜かれてしまったようだ。


 しかし、彼はそのことについてリゼを責めるつもりはないらしい。


「部下の命を救ってくれたこと、心から感謝している。お前がここから出られるよう尽力しよう」


 ルーファウスはそう言い残し、部屋から出て行った。


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