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転生

「至ってシンプルな提案だ。橙里、異世界に転生するつもりはないか?」


 その提案を聞いた橙里は先ほど抱いた疑問を確信へと変えた。


(やっぱりこの人は一般死人じゃない。するといったいなんだ?一体何者になったんだ?目的は一体…。)


「お?なんだ?何とか言えよ~、あ、さては驚きすぎて声も出ない感じか?そりゃぁ突然こんなこと言われたらびっくりするよなぁ。安心しろよ、誰かの子供としてじゃなく、お前のままで転生するからよ。それに不安なら、俺が一からちゃんと説明してやるからよ!」


 橙里の心情を知らずに佐武郎じいさんは話している。悩んだ末に橙里は口を開いた。


「…なら最初にちゃんと教えてください。佐武郎じいさん、あなたは一体何者なんですか?」


 険しい顔をした橙里をみて、佐武郎じいさんは不思議そうにした。


「何者って言われてもなぁ…。俺は俺だよ。」


 橙里は長い息を吐いてざわついている心を静めた。橙里はまっすぐと佐武郎の眼を見る。


「…俺はこの死後の世界について何を知らないといっても過言じゃありません。それでも、現世に干渉することが難しいということは想像するに難くありません。それに加えて、あなたは俺を異世界に転生させることを提案してきた。世界の境を超えるようなことをできる者が一般死人であるはずがありません。だから教えてください。あなたは一体、何者で何が目的で俺を異世界に転生させようとしているんですか?」


 橙里はすでに止まっているはずの心臓の音がうるさく聞こえた気がした。手汗が止まらず、視界が揺れている。ほんの数秒の沈黙が何分にも感じた。


 佐武郎じいさんは橙里の質問の意味を理解して、苦笑いをした。


「なんていうか、本当に賢くなったというか…疑り深くなったというか…。ていうか、『一般死人』ってなんだよ。さらっとうまいこと言ってんじゃねぇよ。」


「茶化さないて下さい。」


 そう言う橙里の言葉に少しずつだが苛立ちがにじみ始めてきている。


「わかったわかった。話すからそう怒るなって。んっんん、まず俺は飛騨佐武郎で間違いはない、そして死んだ後に神になった。」


 その答えを聞いた橙里は突拍子のない返事にすぐには理解ができなかった。頭を抱えた末に、自分が死後の世界にいること、亡くなった佐武郎じいさんとこうして話をしていることといった自分の置かれている内容がすでに突拍子がない内容だったために無理やり理解することにした。


「……ちなみにですけど、神様の証明するものってあったりします?」


「ああ、あるぞ。神様になったときに全神界連合の神人認定協議会から貰った神人認定証がここに…。」


「分かりました…、分かりましたから…。もう大丈夫です。理解の範疇に収まらないことが分かったので、もう大丈夫です。」


 橙里にはその認定証が本物かどうかなんてものは分からないのだ。そのため理解することはあきらめた。代わりに信じることにした。かつて、お世話になった尊敬できる人物が今も変わらずにいることを。


(よく考えたら、疑う理由なんて(はな)からなかったんだよな。だってこの人は誰よりも家族思いなんだから。そんな人が歩波《自分の孫》に『良い報告ができる』って言ってたんだから。これ以上に信じる理由なんてものは無いだろ。)


 いつ野間にか橙里の背中をさすっていた佐武郎じいさんをみながら橙里はそう思った。


「お前、本当に大丈夫か?」


 佐武郎じいさんが心配そうに橙里をのぞき込む。


「はい、すみませんでした。疑ってしまったり、心配をかけてしまって。」


 橙里がそう言うと、佐武郎じいさんはそれを笑い飛ばした。


「別に気にしちゃいねえよ。これぐらい疑り深くなけりゃ、すぐに異世界でやられちゃうからさ。」


 佐武郎じいさんは明るく笑うと再び腰を下ろした。


「さて、お前に異世界に行ってもらう目的だったな。この神界に続く扉が設置されている創生時代の遺跡があってな、その遺跡に侵入できそうなヤツが近づいてきてるもんだから、ソイツを倒してほしい。それが条件の一つだ。」


「では、もう一つの理由があると?」


 橙里が尋ねると、佐武郎じいさんは気まずそうに眼をそらした。


「え~っとだな、その遺跡の管理をしてほしいんだ。整備とか掃除とかそれら全般を含めての管理を。遺跡をお前の異世界での拠点にしてくれて構わない。旅に出てもいいけど、一年に一回は帰ってきて管理を忘れずにしてほしい。できそうか?」


「いいですよ。それぐらいお安い御用です。」


 橙里は二つ返事で了承した。一年に一回の管理をするだけで異世界での家拠点がタダで手に入るのだ。それに何より、佐武郎じいさんへの恩返しにもなる為、この条件を呑まない理由はなかった。


 ホッとしている様子の佐武郎じいさんに、橙里は一番聞きたかったことを胸を膨らませながら質問した。


「それで、佐武郎じいさん。転生特典なんてもの貰えたりは…、」


 そう質問すると佐武郎じいさんは得意げに答えた。


「もちろんあるとも!」


 橙里は満開の桜のような笑顔を浮かべて喜ぶ。


「よっしゃ!!」


 その姿を見て気をよくした佐武郎じいさんはこう続けた。


「喜ぶにはまだ早いぞ、橙里。今回は出血大サービスで用意してあるんだからな!!」


「よっ!太っ腹!!」


 橙里におだてられて天狗になった佐武郎じいさんはさらに続けた。


「さっきも言った通り、お前はお前のまま、橙里として転生するからな!魔法や能力値だけでなく、種族も選べる最高プランを用意しておいたぞ!」


「流石、佐武郎じいさん!よっ!益荒男!よっ!色男!」


 二人ともテンションが天井突破したが、諸々の設定を終えるころには落ち着きを見せ、細々とした注意事項や異世界についての説明を受けた。


 そして…


「佐武郎じいさん、色々と準備を手伝ってくれてありがとう。」


 橙里は異世界に繋がる扉の前に立った。少し離れたところから、佐武郎じいさんが見守っている。


「気にするな、俺も久しぶりにふざけられて楽しかったんだ。


 それと、異世界の治安は日本の半分もないと思えよ。気をつけるんだぞ。」


「分かってるって。もうそれ5回目だよ。」


 佐武郎じいさんも心配性に笑みをこぼしながら、橙里はドアノブに手をかける。


「橙里!」


 後ろから佐武郎じいさんが橙里を呼んだため振り返る。


「旅の話を聞かせたくなったらいつでもここに来いよ!楽しみにしているからな!」


 その言葉に胸がいっぱいになった橙里は深呼吸をしてから、扉を力強く開いた。


「行ってきます!」


 こうして、橙里は異世界への第一歩を踏み出したのだった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 長らくお待たせしました。ようやくの異世界です。


 長かった~~!

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