悪夢とヒロイン
「〜〜〜、〜〜〜〜!!」
遠くで誰かが叫んでいる。姿が見えず、その声はノイズがかかっていてよく聞こえない。
「誰、そこに誰かいるの?」
見えない何かに怯えながら、私は言った。
「〜〜〜〜〜。〜〜!」
やはり聞き取れない。真っ暗闇の中でその声、いや、ノイズはだんだん近づいてきた。私は恐怖を覚えながらノイズに耳を傾けた。思いもしなかった、聞き覚えのある少女の声だった。
「もうわすれちゃったの?わたしのこと。」
「ッ……!」
あまりの驚きに目が覚めてしまった。
「あれ、シアラ起きたの?意外と早いんだね。」
起き上がった先の光景は、まだ見慣れていない寮の部屋で、元気に髪の毛をとかすルイナの姿だった。
私は冷や汗が止まっていなかった。夢、だ。そうだ今のは夢だ。あんな事が実際に起きる訳が無い。
「どうしたのシアラ、ぼーっとして。もしかして体調悪い?」
心配そうにルイナが顔を覗き込んできた。真剣に考え事をしていた私は驚きのあまり
「い、いや!?なんでもないよ!元気だよ!」
と普段では言わないような事を言ってしまった。
「そ、そう?ならいいのだけれど。はやく準備しないと遅刻するわよ。」
それもそうかと思いながら、立ち上がる。
鏡はルイナが使っているから先に。
「シャワー使うわね。」
「はーい」
どうして突然あんな夢を見たのだろうか。かなり昔の記憶だと思うが、あまり思い出せない。頭にモヤがかかったみたいな。一瞬思い出した気がするんだけどな。
いやいや、あんな事いつまで考えてても変わらない!今は今日しなきゃならないことを整理しなきゃ!
シャワー室を出ると、制服に着替えた。個人的にホークー学園の制服は可愛らしい方だと思っている。いかにも魔法世界の制服って感じだ。
そして鏡の前でヘアセットしていた時
「シアラー!ちょっと、ちょっとこっち来て!」
後ろ側からルイナに呼ばれたので今日も元気だな、と思いながら声のする方へ向かった。
「なにこれ、なんかあるんだけど。」
ルイナは自分の右肩を指さしながら言った。
「あぁ、そっか。ルイナには出たんだね…。」
悲しそうに言った私とは対照的にルイナは新たなおもちゃを手に入れた子供のように目を輝かせた。
「知ってるの?何なのこれは!」
素晴らしい食いつきからの逃れ方を考えたが、思いつかなかった。
「今日の集合は今日では無くて大魔法広場でしょう?そこで先生方が説明してくださるはずよ。とりあえず今は他の人にはなるべく知られないように隠して行きましょうか。」
「分かった、やばっ遅刻するよ、急がなきゃ!」
急に焦りだして走って行ってしまったルイナの後を慌てて追いかける。
「ちょ、ちょっと待って!待ってってば!」
「はやくしないとまた反省文書かされるよー!」
大魔法広場に着くと、既に沢山の生徒が集まって、朝の挨拶を友人達と交わしていた。私達はあたかも元々いたかのようにその中に紛れ込んだ。よし、まだ来ていないみたいだ。
そう思ったのもつかの間、大魔法広場に四人の男性が入ってきた。周りに居た女性が歓声をあげる。わらわらと女性が集まってくる。それだけで私は本人達の姿を見ずとも誰が入ってきたのかを察してしまった。
王子様達だ。
「プラチナ殿下、今日も大変麗しいですわ。」
「オニキス殿下も可愛らしいこと…!」
「二人の後ろで澄ました顔したテリーナ様も美しいわ。」
「流石次期騎士団長候補のリーク様。凛々しいわ!」
たった二日ほどでここまでファンが増えるだなんて流石攻略対象、とでも言うべきだろうか。
私は彼らに見つからないようにファンに隠れながら逃げた。こんなに人が多い場所で親しそうに「おはよう!」だなんて挨拶されたら、とんでもない事になりかねない。だから見つかってはいけないのだ。ご機嫌で手を振っている彼らにだけは…!
「みーつけた!」
後ろからの声にギクリと反応する。
ルイナが声の正体を確かめてから、返事をした。
「あら、ライ様。おはようございます。」
びっくりした、ライ様か、良かった。
「おはよーシアラ嬢、ルイナ嬢。」
「背後から話しかけないでくださいよ、驚きました。」
「あはは、ごめんね。次からは気をつけるから。」
いつもと変わらないようにいたずらっぽく笑った。
「それにしても皆大変だねぇ。」
ライ様は四人の方を眺めながら言った。
「あんな短期間でこんなに沢山の人から好まれるって凄いね。」
「そうですね。そういえば、ライ様はいついらっしゃったのですか?」
不思議そうにルイナが尋ねた。
「ん?あの四人と一緒に入ってきたよ。ドアの後ろから顔出てたんだけどなー。」
その瞬間、私達は何かを察した。
お待たせしてしまい、申し訳ございません。




