7 とき博士の結婚式の日
とき博士の結婚式の日
おめでとうございます。とき博士。
とても静かな夜の時間。
れいは、とても不思議な夢を見た。
それは、とき博士が結婚をする日の夢だった。
夢の中で、れいがいつものように朝起きて、「とき博士」とお寝坊さんのとき博士を呼んでみても、とき博士の声は聞こえてこなかった。
それはいつものことなのだけど、いつもと違って、いくら時間が過ぎても、とき博士はれいのいる一階に降りてこなかった。
あれ? 変だなって思って、れいがとき博士の部屋まで行くと、その部屋の中は空っぽになっていた。それから小さな観測所の中を全部探してみても、どこにもとき博士はいなかった。
いつのまにかに、とき博士は観測所の中から、世界の中から消えてしまったのだ。
れいはぺたんと力なくその場に座り込んでしまった。
れいはひとりぼっちになってしまった。
それがとても悲しくて、れいは泣いてしまった。
とき博士がいなくなってしまったことと、自分がひとりぼっちになってしまったこと。
それが悲しくて、寂しくて、仕方がなかったのだ。
でも、そんなれいに「泣かないで。れいちゃん」といつもの優しいとき博士の声が聞こえた。
びっくりしたれいは泣いている顔をあげるととき博士の声が聞こえたほうに顔を向けた。
するとそこには眩しい光に包まれている、ずっと探していたとき博士がいた。
とき博士はなぜかウェディングドレスを着ていた。
とても美しくて、綺麗な、真っ白なお姫様のドレスみたいなウェディングドレスだった。
そんないつも綺麗だけど、いつもよりもとっても、とっても綺麗なとき博士はとってもとっても幸せそうな小さな女の子みたいな顔をして笑っていた。
それはそうだ。
だってとき博士はこれから大好きな人と結婚をするのだから。とれいは思った。
今日はとき博士が大好きな人と結婚をする日なのだ。
(世界が一番、光り輝いている日だった)
「とき博士。おめでとうございます」
れいは言った。
「ありがとう。れいちゃん」
とき博士は言った。
れいは真っ白なウェディングドレス姿のとき博士に向かって、そっと手を伸ばした。
でも、その手はとき博士にまでは、届かなかった。
眩しい光の中に、とき博士は消えていく。
そして、「さようなら。れいちゃん。ばいばい」という言葉を言って、小さく手を振りながら、れいの前から光に包まれるようにして、いなくなってしまった。
手を伸ばしても届かない。
どうしても。
そんなことはもちろん、わかっているはずなのに。
どうしてだろう?
どうして。
……私は、いつまでも、手を伸ばすことをやめないんだろう?
そんなことを、泣きながられいは思った。
私は誰からも、なにも受け取っていない。
だから、なにも持っていない私は、れいちゃん。あなたになにも手渡すことができないの。
……、本当にごめんなさい。
と、とても悲しそうな声で、とき博士は言った。
でも、そんなことはないって、れいは思った。
とき博士はとてもたくさんのことをれいに与えてくれた。(たくさんの贈りものをれいに手渡してくれたんだ。まるでお誕生日に贈りものをしてくれるみたいに。本当にたくさんの贈りものを私にくれたんだ)
たくさんの愛を。
たくさんの幸せを。
たくさんの夢を。
だかられいは今日も月を見る。月を観測する。そしていつか、本当に月に行ってみたいって、朝、自分のベットの中で目覚めたときに、そう今日も思うのだった。(きっと月には、大好きなとき博士がどこかにこっそりと隠れているはずだから。とき博士に会いにきた私を驚かせるために)
私はずっとあなたと一緒にいたいんです。
月と世界の観測所 終わり