4 偶像。 ぐうぞう。
偶像。 ぐうぞう。
この世界は、あらゆるものが作りもの。
本物なんて、どこにもない。
……、きっと、どこにも。
また委員会から手紙がきていた。最高機密と書かれている、研究の催促の手紙だった。本当にめんどくさいととき博士は思う。(見ているだけで、ため息が出てしまう)
その委員会からの手紙を読まずにとき博士はびりびりと破いてゴミ箱に捨ててしまった。
「いいんですか?」とれいは言った。
「うん。いいんだよ。見なくてもなにが書いてあるかはもうわかっているんだから」ととき博士は言った。
「れいちゃん。今日はちょっと外にお出かけしよう」ととき博士は言った。
観測所には一台のジープがあった。小型の高性能な(とき博士が自分で改造した)電気で動くおもちゃみたいなジープだった。
真っ白なジープ。
とき博士のお気に入りの乗りものだった。
運転するのはとき博士。
れいは車の運転はできない。
「とき博士。人はどうして夢を見るのでしょう?」と見渡す限りの緑色の大地の上を走っているジープの助手席に座っているれいは(ずっと変わらない風景を見ながら)言った。
「いつか、この世界からいなくなってしまうからだよ」と真っ白なジープを運転したままで、とき博士は言った。
ジープは道なき道を進んでいく。
風がとても気持ちよかった。
「とき博士。あんまり無理をするのはお体に悪いですよ」とれいは言った。
「ありがとう。れいちゃん。でも大丈夫。このくらいで死んじゃたりしないから安心して」と明るい笑顔で(ジープの運転が楽しくて仕方ないのだろう)とき博士は言った。
やがて、真っ白なジープは止まった。
目的地に着いたのだ。
そこには一つの小さなお墓があった。
それは『とき博士のお墓』だった。
でも、とき博士はれいのとなりにいる。
でも本当は、とき博士はもうずっと前にれいのとなりからいなくなってしまっていた。
ここにいるとき博士は『とき博士のロボット』だった。
本物のとき博士は冷たい大地の中にいる。