1 あなたに届いたらいいな。
月と世界の観測所
あなたに届いたらいいな。
青色の空の中には、小さな白い月が浮かんでいる。そんな白い月を見て、ときはこの世界から、もういなくなってしまった人たちのことを思う。
いつもは思い出したりはしない。ずっと忘れている。
でも、今みたいに、月を見ると、ときどき思い出してしまう。
そして、泣いてしまう。
そこにはもう戻ることのできない幸せな日常があった。
たくさんの幸せと、愛があった。
(ときは助手のれいにばれないように、隠れてこっそりとその美しい瞳から溢れる透明な涙を、真っ白なハンカチで拭った)
清らかな世界には透明な風が吹いている。
強い風だ。
その風が月を見ているときとれいの髪を大きく揺らしている。
「この観測所でのお仕事が終わったら、とき博士はどうしますか?」
ときは小さな白い月から視線を動かして、れいを見る。
「私には夢があるの。ずっと幼い子供のときから叶えたかった夢があるんだ」
「それはなんですか?」
ときはその綺麗な形をした白い指を空に向ける。その先には小さな白い月があった。
「月に行きたい」
そう言って、ときは(まるで、子供のような無邪気な顔で)にっこりと笑った。