鶏肉の香草焼き
「……ふう、こんなもんかな」
シズクを家に送り届けた俺は、家の周りの森で薬草を探していた。
誰もいない森の中で暮らすようになってから数年。こうやって昼食の材料や薬を作るための薬草を取るのが日課になっていた。
額の汗をぬぐってため息を吐くと、一仕事が終えた達成感に包まれたような気分だ。野草が入ったバスケットはずっしりと重い。少し取りすぎな気もするけど、この辺りは植物がよく育つ。どれだけ採っても数日で生えてくるから問題はない。
この森は果物や野草が豊富で、ところどころに湧水の泉がある。少し奥の方にはウサギやイノシシなんかの獣もいて、三人と一匹で暮らすには十分だった。
『……レイン』
ふと、頭の中で響く声に顔を上げると、ジェシーが俺の瞳を覗き込んでいた。純白の羽毛に包まれた大きな体に、空を覆い隠すほどに立派な翼。鋭く端正な顔つき。空のように透き通った碧い瞳。伝説の生き物である飛竜の子供だ。嵐の日に出会ってから十年。今では島で一番速いドラゴンになった。
ジェシーの姿に見とれてると、ジェシーは大空を見上げて身震いした。
『獲物だよ』
端的なジェシーの言葉に空を見上げると、木々の合間から、うっすらと鳥が羽ばたいているのが目に入る。
「……よし、今日は鳥肉の香草焼きだな」
いつもはシズクに言われて街まで買いに行くけど、自分で獲ったほうが何倍も美味い。それは獲りたてだからか、自分で獲ったからか。多分両方だ。
「行くぞ、ジェシー。高く飛べ!」
背中に手を掛け、一気に飛び乗った。がっしりとした背中から感じる確かな浮遊感。ジェシーが羽ばたくのと同時。木の葉を散らして舞い上がると、頭上いっぱいに青い空が広がった。
鳥の群れと同じ高さまで飛んでも、鳥は構わず飛んでいる。気付いてないのか、それとも仲間だと思ってるのかもしれない。鳥っていうのは、自由だから。
小さい頃、鳥になりたいと思っていた。鳥になれば、どこへだって飛んでいける。大空を羽ばたく自由な姿にあこがれてたんだ。でも、今ではそんなことは思わない。ジェシーと一緒なら、頭上を飛ぶ渡り鳥のようにどこへだって飛んでいけるから。
一際力強く羽ばたく鳥の背中に迫っていく。はるか遠くで羽ばたいていた渡り鳥が、今では弓が届く距離にいる。まだ、気づいている様子はない。当然だ。人間が空を飛べるはずがない。この空は鳥たちの領域だ。
思い切り弓を引き絞り、無警戒な背中に狙いを定めて放った。