サウル・アルラントはカッコつけたくない
100本の塔が顕現した時、全ての塔が倒壊し獣が解き放たれる。
と昔の偉い研究者が言ったらしい。
世界には滅亡した異界に繋がる塔があり、そこでは様々な怪異と呼ばれる文明や生物が存在している。
塔は上に上がるにつれて歴史が進み、得られる遺物も貴重なものになっていく。
冒険者達は、異界で見つかる遺物を持ち帰ることで生計を立てている。
最上階にいるボスは倒すと二度と現れないため、100塔のボスを倒すと世界が救われると言い伝えられている。
そのため遺物を持ち帰り、ボスも倒す冒険者は皆からの憧れの対象でもある。
俺、サウル・アルラントも冒険者であり仲間のアラン・ファースとアリヤ・アルラントと一緒にレベル2の鳥獣の塔を攻略していた。
「あんまり大したことなかったね、サウ兄!」
白衣を着たサイエンティストの妹がこちらを見て話しかけてくる。
「今回俺の出番がなかったからな。大体の敵はアリヤとアランが倒したし。二人は怪我とかしてないか?」
二人が敵を見つけると即座に倒すため、俺は何もせずに塔の攻略が終わってしまった。
二人についていき鳥獣を倒したいところだが、二人は俺と違い天才であり凡才の俺はついていくことができないのだ。
「俺は問題ないな!歯ごたえが無くて元気が有り余ってるくらいだ!」
幼馴染であるアランは袴をなびかせながら剣を振り答える。
俺たちは冒険者になって3か月しかたっていないが妹と幼馴染は腕を上げた。
俺は平均的な3か月目の冒険者だ。
どうにか追いつきたいと考えるが、俺の長所は異能のみでその異能も特段強いわけではない。
「それは良かった。この程度で傷を負っていたら全ての塔を制覇するなんてできないからな」
また言ってしまった。
幼いころにいじめられていた妹を元気づけるために言った「俺は全ての塔に制覇する最強の男になってアリヤを守る」という言葉を撤回できずにいる。
本当は戦いは好きじゃないし、冒険者にもなりたくなかった。
しかし、妹の前でかっこつけて言った言葉撤回できるほど俺のメンタルは強くない。
妹の前ではいつだってカッコイイ兄でいたいのだ。
「そうだよね。この程度でつまづいていたらサウ兄の足を引っ張ちゃうもんね。」
「おう!こんなんじゃ物足りね。次はレベル3の塔に行こうぜ!」
「レベル3かぁ。今は難しいと思うが、鍛錬と準備をすれば問題なく攻略できるとだろう。」
「え~もしかして、私たちのこと心配してる?大丈夫だよ、レベル2の塔だって無傷で攻略できたんだから。ね?」
「そうだぞ!遠慮するな!」
二人の期待が重い。
何もしていない俺が高い評価を受けているのには秘密がある。
そう俺には俺の異能にあるのだ。
異能とはこの世界の10人に1人が持って生まれる特殊能力のことだ。
俺は「運の押し付け」によって幸運と不運を自身とは別の対象に触れることで渡すことが出来る。
運を渡すといっても人の運なんてたかが知れていて、不運を敵に渡しても小石につまずく程度だ。
3か月の冒険でもこの運の押し付けで倒せた怪異はいない。
ただ、運の押し付けによって隙が生まれたところを二人が倒しただけだ。
しかし、二人はそう思っていないようで、俺がピンチの時に手助けしてくれたと思っているらしい。
そのせいで、二人からの期待は大きくなる一方で、俺の実力は二人とどんどん離れてしまっている。
どうやって追いつこうか考えても頑張る以外の答えはでない。
そんなことを考えながら塔を降りていると悲鳴が聞こえてきた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。だ、だれか......助けてくれ!!!」
悲鳴の方向に走っていくと2mはある熊のような怪異と猛禽類の怪異が冒険者を取り囲むようにが飛んでいた。
パーティーの頭脳であるアリヤは冒険者を救出すべく支持を出す。
「アランは熊を私は鳥を仕留めるからサウ兄は冒険者の救助をお願い!!」
分かった!とアランが飛び出し、アリヤが続く。
俺も救出に向かうが、アランが着くよりも早く熊の爪が冒険者を切り裂こうとしていた。
俺はありったけの幸運を込めて指から空気砲を打てる遺物であるエアガンを放つ。
空気砲は幸運にも熊の眼に当たるも傷をつけることはできなかった。
しかし、熊はサウロの攻撃を猛禽類の怪異がしたと思いったのか、冒険者ではなく猛禽類の怪異を攻撃し始めた。
「ナイスだサウル!」
ズバ。
アランの一撃で熊の頭が地面に落ちる。
「エアジェット!」
アリヤはとてつもない威力の空気砲で猛禽類の怪異を蹴散らす。
冒険者は何があったのか分からないような表情でこちらを見る。
アランが大丈夫か?と声をかけたことで、冒険者は助けられてことを自覚したらしい。
「あ、ありがとうございます。最近冒険者になったんですが、レベル1の塔を攻略できたからレベル2の塔を攻略しようと思って塔に入ってこのフロアに来たとたんいきなり襲われて、それで、、」
「まぁ落ち着け。ひとまず塔から出よう。俺たちもちょうど塔から出ようとしていた所だ」
俺は興奮する冒険者を落ち着かせ塔から出るように提案する。
「そ、そうですね。」
冒険者は立ち上がり再度お礼を言ってきた。
「礼は熊と鳥を倒した二人に言いな。」
殺す気で撃った空気砲が眼すら傷つけられなかった俺にではなく、実際に倒した二人にお礼を言った方が良い。
「今回はサウロのが助けただろ。俺たちは後始末をしただけだ!俺は熊の攻撃に間に合わなかったしな」
「そうだよ。あのままほっとけば熊が鳥たちを倒していたし、隙だらけの熊なんか相手にならないんだから」
嘘だ。
アリヤが空気砲を打っていたら熊は倒せていた。ただ、打つと冒険者まで殺してしまうから打たなかっただけだ。
それに本気の攻撃でも傷をつけることが出来なかった怪異を倒せるとは思えない。
「ありがとうございます。」
冒険者は深く頭を下げ三人に向けて再度礼をした。
「礼は受け取るが、気にすることじゃない。俺たちは全ての塔を制覇するつもりだからな。こんな事問題にもならない」
また言っちまったぁぁぁぁ~!
なんでここでカッコつけちゃうんだよ、、、
冒険者は目をキラキラさせて俺を見るし、アリヤとアランは超いい笑顔でこっちを向いてくるし、カッコつけたからにはもう引き返せない。
俺は出口に向かい後ろを振り返らずに言う。
「いくぞお前ら。英雄の凱旋だ!」
これは天才に囲まれ周りからの期待が高まり、後に引けなくなってしまった非才な男の冒険物語である。