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八色の魔女  作者: 夢現
第1章 春焦がれ
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2.上弦の月に祈る(前)―――フラウ

友人とのお話

 雪混じりの風が、瞬く間に体温を奪っていく。風防眼鏡(ゴーグル)は雪まみれで、最早前など見えやしない。

 鷹族の次期領主であるフラウ・ベルデュークは空を飛ぶのを諦めた。仲の良い友人も見つけたことだし、と自分に言い訳しながら。


「ラウラ!」

「おはよう、フラウ。こんな天気に飛んでたの?」

「いや、たった今飛ぶのを諦めたところだ。寒くてしょうがない」

「血行促進のお薬あるよ? 大銅貨三枚」

「商売上手め」


 財布から大銅貨を掴み出し、三枚放る。ラウラは、花咲くように微笑んだ。


「まいどあり!」


 ラウラは荷車を改造した薬屋の屋台から小瓶を取り出してきて、フラウに放る。動体視力のいいフラウにとっては無造作に投げられた小瓶を捕まえることなど造作もない。

 小瓶の首を掴み、封蝋ごとコルク栓を抜いて一息に煽った。

 ジンジャーの香りがして、喉を少しぴりっとする液体が通り抜けていく。もうしばらくしたら効果が現れるだろうから、それまでラウラに同行することにした。


「フラウの今日の予定は?」

「……領地を見回るぐらいだな。今日は特に狩りをしたりする予定は入ってないし」

「そうなんだ。気を付けてね」


 荷車を引く、大きなそり引き犬二頭をラウラが撫でる。そり引き犬は、見るからに気持ちよさそうにしていた。


(羽を手入れしてもらったら、気持ちいいんだろうな……って何考えているんだおれ!?)


「どうしたの、フラウ。顔が赤いけど……」「いや何でもない!」


 おかしい。空気は刺すように冷たいのに、それが心地よいと感じてしまった。

 なんとなく居心地の悪い空気を湛えたまま、二人連れたって中央広場へ続くメインストリートを歩く。中央広場の人混みを通り抜け、ラウラに割り当てられた場所へと向かっていると、激しく言い争う声が聞こえた。

 そこでは、屋台の店主たちが顔を真っ赤にして怒鳴り合っている。どうやら、隣の店と売る物が被っていたらしい。


「よくあるのか、ああいうの」

「まあね。ああいうことされるのが一番の営業妨害だってこと、気付いてないの」

「……聞こえるぞ」

「この距離で、この騒がしさだよ? 兎族でもなければ聞こえないよ」


 言い争う二人の店主は、それぞれ狼族と豹族であるようだった。


「あの二種、仲悪いよな」

「性質的にどうしても馬が合わないんじゃない? ……あんな風に言い争っても、場所は変えられないのにね」


 ラウラ曰く、中央広場だけでなく他の広場でも、屋台で営業するためには行政府へ申請しなければならないらしい。中央広場は人気の場所だから、申請を取り消すとすぐに新しい者がそこに来るためもう一度場所を取ることは不可能に等しいのだとか。


「だから相手にいちゃもんつけて退かせようとしてるんじゃないのか?」

「まあ、そういうことなんだろうけど……純粋に迷惑……」


 フラウはラウラのあまりに正直過ぎる物言いに苦笑しつつも鷹族に特有の大きな翼を少しだけ広げ、さりげなくラウラの姿を隠した。服を着たりするのには非常に邪魔なこの翼だが、こんな時ばかりはありがたい。

 ラウラはその間にも、てきぱきと屋台を設営していく。

 荷車を停めさせて車輪にストッパーを付け、二頭のそり引き犬から紐を外す。

 カウンターのようになっている側の、反対側に回ってそこの留め金を外して外側に倒し、階段のようになったそこから屋台に変貌しつつある荷車に上って、金の房飾りがついた深緑の布を荷車にくっついた箱の上にかける。よく見たら、カウンターにかけられた布はラウラのケープと同じ色だ。

 ラウラが荷車改め屋台のカウンター上に置いた、魔術式カンテラを灯そうとしているのを見てフラウは慌てて口を開いた。


「ラウラ、その、よかったら昼、一緒に食べないか?」

「うん、いいよ」

「そうか! じゃあ、昼頃にまた来るから待っててくれ」

「わかった。気を付けてね、フラウ」

「ラウラも、繁盛するといいな!」


 手を振り合って、フラウは翼を広げて舞い上がる。眼下ではラウラが魔術式カンテラに光を灯していた。待ち構えていたらしい常連客たちが近付いていくのを見てフラウは少し微笑み、鷹族の領地の方に体の向きを変える。

 アトーンドの上空を飛んでいる最中、中央広場での騒ぎを聞きつけたらしい狼族の警務隊員が走っていくのを見た。


(あれは人選ミスってるな……)


 まだしばらく、騒ぎは続きそうである。

 フラウは気持ちを切り替えて、金茶の羽に力を込めた。

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