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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女王と勇者様はツインソウルッ! ~私は婚約破棄された16歳の女の子。悪役令嬢に殺されかけた私を救おうとして死んだのは、知らない男の子。1ヶ月後に死んだ私は、魔女王フリーダになっていた。【短編】

作者: タケ

「もう、君とは別れる! 婚約は破棄(はき)させてもらおう!」


 デリック王子は私──サラ・レイアットに向かって声を上げた。

 リアーディアン魔法学校の進級パーティーの最中だった。


「な、なぜですか?」


 私は驚いて聞いた。デリック王子は私の婚約者だ。きらびやかなパーティーに、不穏(ふおん)な空気が立ち込める。


「サラ! お前の学校での悪い行いは、耳に入ってきている! 他の女生徒を後ろから蹴り飛ばす! 背中を(なぐ)る! 水をぶっかける! 生徒の財布から金を盗む……。そんな女だとは思わなかった。私の将来の妻として、ふさわしくない」

「ご、誤解です! デリック!」

「残念ながら、サラ。もう君は婚約者ではないんだよ。親しげな『デリック』という呼び方はよしてもらおうか。デリック様と呼べ」


 デリックは16歳。このエクセン王国の王子で、リアーディアン魔法学校の1年生だ。私も16歳で、デリックのクラスメート。今度、2年生に進級する。私、サラ・レイアットは、そのデリック王子と婚約をしていた。お互いの両親が決めたことだった。


「待って、待ってください」


 私は、デリックの手を両手で握った。何としても、誤解を解かなければ。私は人に意地悪をするのが嫌いなのだ。いや、怖くてできない。人を蹴飛ばしたり、殴ったり、水をかけたりするなんて、できるわけがない。


「私は、人に意地悪をしたりすることはありません。それは誤解ですから……。どうか、婚約破棄(こんやくはき)を取り消してください」


 私の両親は貧しかった。しかし私の両親は、デリック王子の両親、エクセン王とエクセン王妃が交通事故にあう瞬間を救ったのだ。まるで環境、立場の違う両家だが、親交ができた。

 そこから娘の私と、エクセン王、王妃の息子デリックは、クラスメートから恋人関係に発展し、婚約するまでになった。


 おととし、私の父は病死。去年、母も事故で死んでしまった。私はデリックとの恋愛のおかげで、気持ちを保つことができた……。


(しかし──ああ、なんてこと!)


 デリックは今日、この進級パーティー会場で、婚約破棄(こんやくはき)を言い出したのだ。


 きっと私の死んだ父母は、天国でがっかりするでしょう。私とエリックの婚約を我がことのように喜んでくれていたのに。


「君とはもう終わりだ。バカバカしい。さあ、サラ、向こうへ行け!」


 デリックは私の肩を押した。私は尻持ちをついた。


「うっ……」

 

 デリックは「やり過ぎたか」という表情をして、周囲の人々を見まわした。そして舌打ちをした。


「あーら、何をさわいでいらっしゃるの? デリック」


 美しい女生徒が歩いてきた。輝くような美しいドレスを着ている。ブロンドの長い髪の毛をなびかせている。長い足でスタイル抜群(ばつぐん)──。私と大違い。


 貴族のラシェル家の娘……!


(ジェシカ・ラシェル!)


 ジェシカは、私とデリックのクラスメートでもある。そして前年度の「エクセン王国学生魔法トーナメント準優勝者」でもある。今や魔法専門誌や新聞などでも特集させる、有名美少女魔法使いなのだ。


「ジェシカ!」


 デリックはジェシカを抱き寄せた。


 まあ!

 

 私はショックで、尻もちをついたまま、二人の熱い光景を見ていた。


「こ、これはどういうことでございましょう。デリック──王子」


 私はたどたどしく言った。


「ジェシカを抱き寄せるとは……」

「見てわらかんのか、にぶい女だな!」


 デリックは舌打ちした。


「僕とジェシカは付き合っているんだよ。もう二ヶ月前からね」

「私と付き合っていながら? 婚約者という私がありながら? デリック王子、あなたは、う、浮気を……」

「……浮気? まあ世間では、そう言うかな?」


 デリックは周囲をうかがいながら言った。周囲のクラスメートは、ハハ……と引きつった笑いを浮かべている。


「あーら、何よ、サラ! デリックは私が好きだから、自分の気持ちに、素直にしたがっただけじゃないの」


 ジェシカは、私をゴミでも見るような目でにらみつけた。私は知っている。私の悪い噂を流していたのは、このジェシカという女生徒だということを!


「それとも──私と魔法で勝負する?」


 ジェシカは手を前に突き出した。

 

「ほう、ジェシカの魔法を見るのは久しぶりだな」


 デリックはジェシカをはやし立てた。


「私の魔法を見たいって? いいでしょう、私の魔法を見てちょうだい、デリック!」


 ジェシカは天を指差した。すると、宙に光の(やいば)が現れた。


(あっ、真空攻撃魔法!)


 (やいば)を魔法で作り出し、敵の体を(つらぬ)く魔法だわ! 危険な魔法よ!


「そーれ! サラ! 私の魔法を受けてごらんなさいな!」


 ジェシカは笑いながら、私に向かってそれを放つ! き、危険すぎる!


 グサアッ


(え……?)


 私の前に立ちはだかっていたのは……隣のクラスの、話したこともない少年だった。


 レッド・ラディアス。


 私の前に立って、私を守ってくれた。彼の心臓には、ジェシカの真空魔法の(やいば)が深々と刺さっている。


「え、ええ? な、なんてこと?」

 

 ジェシカはあわてたように、声を上げた。


「わ、私は手前で止めるつもりだったのよ! だ、誰か、治癒(ちゆ)魔法使いを呼んできて! わ、私のせいじゃないわよ! ひいいっ」

「な、何だこれは。どうなっているんだ?」


 デリックも顔が真っ青だ。


「大丈夫かい……君……危なかった……ね」


 レッドは青白い顔で、それでいて笑って、私に聞いた。


 私はフルフルと首を横に振る。あなたが大丈夫なの……? 


 数時間後、レッドは……死んだ。今まで何のかかわりもなかった少年が。




 で……その1ヶ月後、私、サラ・レイアットは、森の道で、魔物に殺されて死んだの。


 はーあ、あっけない。


 お祭りの帰り、夜の森の道で魔物──狼男に出会って、ガブリと()み殺された。


 ◇ ◇ ◇


 ……ん?


 私は目を覚ました。私は手を見た。


 何だか不思議な夢を見ていたな。夢には、人間の学校のような場所が出てきた。


 私はサラという女学生だった。私の婚約者を奪った女生徒に、真空魔法を突きつけられた。

 私に向かい、真空魔法が放たれる。しかし、今までかかわりのなかった生徒に助けられた。


 その生徒は死に……その1ヶ月後、私は魔物に殺されて死んだ……。


 そんな夢だ。


(そうだったな。サラは私の前世だったな。前世の夢を見ていたらしい)


 フフッ。魔族の魔法婆に占ってもらったのだ。私の前世はサラ・レイアットという人間の女学生だったと。


 だが、今、私はそんなことを気にしている暇はないのだ。


 私は、勇者を待っている。勇者・レッド・ラディアスを殺す。


 私の名は、魔女王(まじょおう)フリーダ・ディノラ! 魔王様の配下四天王の一人だ。

 そしてここは私の城! 勇者は私の部下を倒し、今まさに、私のいる玉座(ぎょくざ)に攻めて来る!


 レッド・ラディアス……さっき夢に出てきた名前のような気もするが。


 いや、そんなことはどうでも良い!

 ──ここにもうすぐ、宿敵、勇者レッドがやってくるのだ!


 ◇ ◇ ◇


 あの男は、大魔王配下である私、四天王の一人、魔女王(まじょおう)フリーダ・ディノラの城に乗り込んできた。


(来よったか……。(にく)き勇者どもよ!)


 彼は勇者。レッド・ラディアス。私が崇拝(すうはい)する、この世を支配なさる大魔王ダークゲルドスを唯一倒せる人間だ。

 彼が(ひき)いているパーティー・メンバーは、以下のこざかしい三人。


 極大魔法を発動できる女大魔導士ジェシカ。剣・槍・弓など、ほとんどの武器を扱える英雄戦士ブルドー、そして人類最高の白魔法を操る大聖女ララベル。


(おろ)か者どもめ! 来た!)


 あいつらは私の城のかわいい魔物たちを一掃(いっそう)し──。


 ついに! 私──魔女王まじょおうフリーダのいる「魔女王(まじょおう)()」に侵入してきた。


「勇者よ、殺されに来たのか?」


 私は玉座(ぎょくざ)に座りながら言った。


 ジェシカが魔法により、光の魔法陣を床に描く。その魔法陣から、火の魔法「ファイアエクスプロージョン」が発動した。とてつもない威力(いりょく)の火炎魔法だ。

 私は声を上げ、氷の(やいば)を手から放つ。しかしその(やいば)を、ブルドーが「豪王(ごうおう)の盾」で(はじ)く。


(レッドにジェシカか……。)


 さっき、夢の中で聞いたような名前だが、気のせいだろう。ジェシカなんて名前の人間は人間界では無数にいるだろうからな。レッドは……まあ、そんなことはどうでも良い!


「はああっ!」


 ジェシカの魔法を見た私は、ジェシカに跳び蹴りを食らわせる。ジェシカを20メートルは吹っ飛ばした。しかしすぐに、ララベルが回復魔法を発動。


「ジェシカ、大丈夫か? 俺が守ってやる」


 レッドはジェシカに言った。立ち上がった。私は、歯噛(はが)みした。


 勇者はチャンスだ、という風に笑った。私を倒せば、この地区──ドールカイン王国に平和が訪れるとでも思っているのだろう。


「そうはいかない!」


 私は叫んだが、レッドは準備した。雷の勇者魔法「サンダスダイン」を!


 すさまじい音がした。


 大きな雷が、私に直撃した。私はそれに耐えながら──! 氷の強力な魔法「アイスバーン」を放つ。勇者はそれをまともに受けたようだ。


「くそっ、ララベル、俺を回復してくれ!」


 勇者レッドは叫んだ。しかし、ララベルは倒れている。フフッ……ララベルだけではない。ジェシカもブルドーも倒れているぞ。「アイスバーン」は単体だけではなく、広範囲に効果がある。

 三人とも、私、魔女王(まじょおう)フリーダの大魔法を喰らってしまったというわけだ!

 

「フフフッ……!」


 私が笑っていると、勇者はフラフラになりながら、聖剣グラーツレオンを背中の(さや)から引き抜いた。一方、私は思いのほか、勇者の雷魔法で大ダメージを受けていた。


(決着をつけねば……なるまい!)


 私は、玉座(ぎょくざ)の後ろにヨロヨロと下がった。「魔女王(まじょおう)()」の後ろはベランダになっているが、今の激しい戦闘によって手すりが破壊されている。


 天井はない。頭上は暗黒の夜空が広がっている。


 ベランダでは外の風が、びゅうびゅう吹いていた。


「覚悟! 魔女王(まじょおう)フリーダ!」


 勇者はそのベランダで、聖剣の刃先(はさき)を、私の首元に近づけた。


 ここはすでに(がけ)のようなものだ。手すりのないベランダのはるか下は、魔界の瘴気(しょうき)がうごめいている。私は突き落とされれば、死ぬだろう。


 私も勇者レッドも、満身創痍(まんしんそうい)だ。


 勇者は私の青白い顔、ウエーブのかかった髪の毛、口に生えた牙を確認したように見えた。


「……お前が魔女王(まじょおう)か。……近くで見ると、きれいな顔をしているんだな」


 勇者は言った。バカバカしい。魔女王(まじょおう)は美しくないといけない。当然だ。


 しかし勇者よ。この城で私の部下をなぎ倒してきた傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な行いを、私は許しはしないぞ。


「フリーダ!」


 勇者は叫んだ。


「お前が魔物に、ドールカインの街や村の人間を殺せと、命じたのだろう」


 そして悔しそうに続けて言った。


「ドールカインの人口は半分になってしまったんだ。生かしておけない」


 ……ふん、私は部下に指示などしていない。自由にやれとは言ったが。


「言い残すことはないか、魔女王(まじょおう)フリーダよ」


 勇者レッドは言った。


「ふん、何もない」


 私は言った。しかし、先程の「サンダスダイン」のダメージが、全身に回ってきた。くそ……。


「お、お前、私に勝てると思っているのか? うう……」


 ズキッ


 突如、私の頭に激痛が襲った。勇者の魔法「サンダスダイン」の電撃効果が、私の体をむしばんでいるのだ。

 うう……私は失神しそうになった。

 勇者がニヤリと笑う。彼が聖剣を構えたその時──。


 おや……異様な魔力が頭上に感じる。私が上を見上げると……。


 何と、私の頭上に直径5メートルはある火の球が浮かんでいるではないか。こ、これはまさか!


 大魔導士ジェシカの極大魔法、「ファイア・クリスタリ」だ!


「お、おお! ジェシカ、立ち直ってくれたか」


 勇者レッドは言った。


「さあ、俺は避難するから、極大魔法を魔女王(まじょおう)に向けて放ってくれ」

「ええ」


 ジェシカはつぶやくように言った。すると突然、私と勇者の周囲に、魔法陣があらわれた。ええ? ど、どういうことだ?


 私を魔法陣で囲むのは分かるが、勇者まで魔法陣で囲んでしまうとは?


 魔法陣に触れると、強力な電撃が体を駆け巡ってしまうだろう。

 よく見ると、ブルドーもララベルも立ち上がって、私と勇者の方を見ている。

 

「お、おい、ジェシカ。何の冗談だ」


 勇者はジェシカに言った。私は、失神しそうになるのをこらえて、彼らの会話に耳をそばだてた。


「冗談? フフフッ、冗談でも何でもないわよ。勇者レッド。あなたは魔女王(まじょおう)フリーダと一緒に、この『ファイア・クリスタリ』を受けてもらう。後は知らないわ」

「え……どういうことだ」

「レッド、聞こえなかったの? あなたは極大魔法『ファイア・クリスタリ』の餌食(えじき)になるのよ」

「バカ言うな! おい、ブルドー、ララベル! ジェシカをやめさせろ!」


 しかし、ブルドーもララベルも腕組みをして、じっと勇者を見ている。

 ……私はぼんやりしながら、この状況の意味を(さと)った。


 な、仲間割れ、か?


「レッド。賞賛されるのは、あなただけだった」


 ジェシカは静かに言った。


「な、何?」

「王や女王、民衆に賞賛されるのは、いつもあなただけ。勇者レッド、私たちはいつもそれが納得できなかった」


 すると黙っていたララベルも、口を開いた。


「ジェシカの言う通りですよ」


 ……だんだん仲間割れが本格化してきた。


「私たちは努力しているのに、目立たぬ影法師(かげぼうし)のような存在です」


 今度はブルドーだ。


「てめぇだけがどうして、民衆に騒がれ、愛されているんだ? 魔法新聞で報道されるのもてめぇだけ。俺たちはお前が、邪魔で仕方なかったんだよ! てめぇなんかいらねぇんだ、レッド!」

「おいおいおい、こんな大変な勝負の時に、何を言っているんだ!」

「だからこそよ!」


 ジェシカは声を上げた。


「今だからやるのよ! 魔女王(まじょおう)フリーダを倒したのは、ジェシカ、ララベル、ブルドーだけということにするわ。そしてこれから魔物討伐(とうばつ)で活躍するのは、私たち三人! レッド、あんたなんかいらない! 世界のどこかに、あなたより優れた新しい勇者がいるでしょうね。私たちはその人を仲間にするわ」


 ジェシカは無慈悲(むじひ)に杖を振り下ろした。極大魔法が、私と勇者の頭上に降り(そそ)ぐ。


 すさまじい音がした。


 私は……何も分からなくなった。


 ◇ ◇ ◇


 私──魔女王(まじょおう)フリーダは、女大魔導士ジェシカの極大魔法で死んだ。

 死後の世界というものがあるならば、私は地獄に落ちるはずだな。フフッ……。魔王の手下、魔女王(まじょおう)なのだから。悪党中の悪党なのだから。


 どんな霊界の悪魔が、私に地獄を与えてくるのかな……?


(えっ?)


 私は……ハッと目を覚ました。い、生きてる?


(いや、違う? ここは、一体どこ?)


 何と、ベッドの上で寝ていたようだ。ここは家? 奇妙な真っ白い天井だ。壁も真っ白。本棚は、不思議な文字の本で一杯だ。見たこともない部屋だ。

 窓の外は、ただ真っ白い美しい光の世界が広がっている。ただし、向こうの方に山が見える。


(私の体はどうなっている? そうだ、鏡! 幽霊にでもなってしまったのか?)


 私は、その部屋の中に備えつけられていた、大鏡に自分の全身を映した。


 真っ白いスカートを穿()き、白いシャツを着ている。そして……私の顔は、青白く……はなかった。女性。20代の人間の女性の顔だ。魔女王(まじょおう)のような不気味な美しさではない。

 人間的な女性の顔だ。足も胴体もある。

 

 少なくとも幽霊には見えんが……。


(何なんだ? ここは)


 私は外に出てみる。


 外には真っ白い世界が広がっているが、ぽつりと金色の机が1つ、椅子が2つ置いてあった。そこには黒い髪の毛の若い男性が座っている! その男も、真っ白い服を着ている。


「お、お前、誰だ?」


 私が話しかけると、男は振り向いた。


「あっ!」


 私は思わず声を上げた。こいつは! 私の(にく)き相手! そう……。レッド……レッド・ラディアスじゃないか。勇者! 何でこんなところに?


「お前……誰だよ?」


 一方のレッドの方は、私を見て、眉をひそめながら言った。私は答えた。


「……私はフリーダだ。魔女王(まじょおう)だったフリーダだよ。顔が変わってしまった。というか、顔色が変わったというか」

「はあ? お前が魔女王(まじょおう)? 冗談はよせよ」


 レッドは私をにらみつけた。しかし、彼はしばし考えるようにしてから、まじまじと私を見た。


「……い、いや! そういや面影がある。フリーダの城で見た、魔女王(まじょおう)フリーダにそっくりだ。いや、本人なのか? 俺の直感がそういってる。間違いねえな、こりゃ?」


 勇者は目を丸くしている。


「お前、フリーダか? 何だ、化粧でも落としたのか。そんな顔してたのか、お前」

「そんな顔とは、何だ? 失礼な」


 私はぷうと(ほお)をふくらませて言った。い、いかんいかん。こいつは敵だぞ。何、なごやかムードになっているんだ。


「ここはどうなっているんだ。ここはどこなんだ?」


 あたしがブツブツ言うと、レッドは言った。


「ここは生と死の狭間(はざま)の世界らしいな。死んで、魂の状態に戻った……ってわけか」

「やっぱり死んだのか。私は地獄行きじゃないのか?」

「さあな。そもそも地獄なんてないんじゃねえのか。知らんけど。まあ座れよ」

「うるさい。お前……勇者なんかに指図される覚えはない」

「お前なー、俺はもうお前と争う気はねーぞ。こんな平和な世界で」


 私は、渋々座って、勇者レッドを見た。レッドはのん気に紅茶をすすっている。ここは、本当に霊の世界なのか?


「だからさ、フリーダ。お前も俺も、死んだんだよ」

「とにかく、私たちは魂みたいなものになっているってわけか? ふん、あんた、仲間に裏切られただろう? 確か。良い気味だ」


 私はからかうように、レッドに言った。

 レッドは舌打ちした。


「そうだ。あのジェシカのやつ……。俺を裏切って、極大魔法を放ってきやがったんだ。ブルドーとララベルも、俺を裏切った」

「私まで巻き込まれた」

「あー、そりゃご迷惑かけましたね。つーか、どうしてお前のような魔族と、ペラペラ会話しなきゃなんねーんだよ」


 私はピンときた。思い出したのだ。すべて。


「今、思い出したことを話すぞ。私はもともと人間だった。サラ・レイアットという少女だった。魔女王(まじょおう)フリーダの前の人生は、普通の人間の女子だったんだ」


 レッドは黙っている。私は話を続けた。


「で、その次のせいでは、魔女王(まじょおう)フリーダになっていた。レッドは……あたしがサラの時もレッドという名前だったな。ジェシカの真空魔法に刺される瞬間、私をかばって死んだはずだ」

「ちっ、思い出しちまったぜ」


 レッドは苦笑いをしながら言った。


「そうだったな。俺が前世のレッドの時は、俺がジェシカの真空魔法で心臓を刺されちまったんだよな。名前が前世と同じだってのは、どういうことかわかんねーけど」

「というか、幸せな気持ちだな。ちょっと恋を久しぶりにしたくなってきた」


 私はレッドの顔を見た。ここは、どうせ夢みたいな場所だろう。何をやったっていい。そんな気持ちで、レッドの(くちびる)に、自分の(くちびる)を少しずつ近づける。


「……」

「……」


 (くちびる)(くちびる)が、触れる? 触れない。触れる? いや、触れてない……。


「お、おいっ! バカじゃねーの!」


 レッドは顔をそむけた。顔が真っ赤だ。


魔女王(まじょおう)フリーダと、キスなんかする勇者なんかいるかよ」

「冗談だよ、冗談」


 また、なごやかなムードになってきてしまった。

 が、その時!


「そろそろ、次の人生の旅立ちのお時間ですが」


 私とレッドの後ろから、一人の紳士が現われた。


 口ひげを生やし、スーツを着た男だった。


「少しばかり計画を立てましょう。次の人生のね……。そしてあなたがたの次の人生──来世では、世界に対する大切なお役目があります。次の人生はとても重要なのです。世界にとってもね」


 私とレッドは顔を見合わせた。


 そもそも、この口ひげの男性は……誰?


 ◇ ◇ ◇


 ここは天の世界。魔女王(まじょおう)フリーダだった私は、どうやら死んだらしい。

 そこで宿敵、勇者レッドと出会った。


「次の人生の旅立ちの時が来ました。ご準備を」


 口ひげの紳士は言った。


「あなたは?」


 レッドは眉をひそめて紳士を見た。


「神の使いのリーベルと申します。まあ、そんなことより……。あなた方は来世では、100年後の世界に生まれるということが決定いたしました」

「もうそんなことが決まっているの?」


 私は驚いて聞いた。


「神の力で、100年経った世界に、今すぐ転生できますよ。フリーダさん、レッドさんも同じ年齢でお生まれになっていただきます」

「ジェシカとデリックは?」


 レッドが聞くと、リーベル氏はうなずいた。


魔女王(まじょおう)フリーダさんと、勇者レッドさんが死んだあと、ジェシカさんたちも、魔物に殺されて亡くなりました。今、魂の存在となっております」

「マジか……」

「フリーダさんとレッドさんは、重要なお役目を持って、100年後の世界にお生まれになっていただきます」

「なんだ、その重要なお役目って」

「世界を救っていただきたい」


 リーベル氏の言葉に、私とレッドを顔を見合わせた。


「お二人で力を合わせれば、世界を救えます。お二人はツインソウルですからね。意味は少し違ってしまうが、ツインレイという言い方もあります。が、ここではツインソウルと言いましょう。その言い方が私は好きです」

「ツインソウルとは何なんだ?」


 私がリーベルに聞くと、彼は真面目な顔で言った。


「フリーダさんとレッドさんは、魂がもともと一つだったのです。今は魂が分かれてしまっているだけ。『双子の魂』というわけですな。まあ、来世ではそんなこと、忘れていますがね。神のお力によって……」


 私とレッドはお互いを見た。ちょっと恥ずかしい。

 リーベルは続ける。


「さて、そろそろ……」


 机の上には、パッと二枚の紙とペンが現われた。私とレッド用の書類らしい。


 おや? この世界の北の方を見ると、向こうに虹色に輝く扉が見える。


「あの扉を通れば転生し、赤子として100年後の地上に生まれます」


 リーベルは説明した。もう一度、人生をやり直すのか。


 ジェシカやデリックはどうなるんだろうか?


「では、来世に行かれる決心がなされたら、サインをしていただけますか。ぜひともチャレンジを」


 私たちは静かに書類にサインをした。……というより、いつの間にか書かされていた、といった方がいい。これも神の力なのか。……強引だな。


 リーベルは虹色の扉の前に立った。そして扉の中は光り輝いている。


「さて、と。どうなさいますか?」

「来世ではどうなるか分からんけど、俺は自分を勇者だと思ってるんだ」


 レッドは胸を張って言った。


「世界を救うってことは、100年後も、魔物だらけの、危険な世界になっているんだろう? 俺は正義のために戦いたいぜ。おい、フリーダ。また、お前と敵同士になるのかな」

「え? ……いや、知らんけど」


 私は軽く言った。でも、本当は泣きたいような気持ちだった。レッドと……また敵同士か。それはちょっと嫌だ。

 何でこんな気持ちになるんだ?


 レッドはリーベルに聞いた。


「来世では名前はどうなるんだ?」

「来世のことは、詳しくお話できません」

「しょうがねーなー」


 レッドはため息をついた。


 私とレッドは虹色の扉の前に立った。私たちは、来世に行くと決めた。というか、そのような気持ちになるように仕向けられているのかもしれない。


 まったく、どうにでもなれっつーの。


 どんな新しい人生が待ち構えているというんだろう? また、私は魔女王(まじょおう)なのか? それとも……。


 えーい、何とかなるだろう、多分!


 私は扉の中に飛び込んだ。レッドも後に続いた。


「フリーダ様、レッド様、お達者(たっしゃ)で」


 リーベルは俺たちにそんな声をかけてくれた。


「神様は、あなた方を見守ってくださっていますからね」


 ああ、また私たちの頭の中が、真っ白になっていく。


 私は、何者になるのだろう? 100年後の世界では……。


 ◇ ◇ ◇


 ……ん?


 ガバッ!


 私は目覚めた。


(夢……か)


 時刻は午前6時30分。そろそろ学校へ行く準備をしなければ。


 また憂鬱(ゆううつ)な毎日が始まる。私は東京の中学3年生。令和5年に生きる、15歳だ。


 私の名前は、振田(ふりた)サラ。


(何だか、天国にいたような夢を見ていた気がする)


 私は首を(かし)げた。


(しかも、ちょっとかっこいい男の人と、キス寸前までいってしまったような……)


 ボロい部屋だ。(ちく)50年の木造家屋。


 私は布団をふすまにしまった。


「サラ! 店の掃除をしな!」


 叔母さんの声が下から聞こえる。私は急いで一階に降りていって、叔母さんが経営する、飲み屋の掃除を始めた。


「何やってんだい! 手を抜くと承知しないよ」


 私はいつも怒られている毎日。


 そういえば一昨日(おととい)は、自分が異世界で、女の魔王みたいなことをやっていたような夢を見たんだっけ。


 しかも、それは約100年前くらいの出来事のような気がする?


 ん? 今は令和5年だから、約100年前は、大正時代?


 ああ、異世界の話だっけ。本気で考えて(そん)した。


 だけど、それが本当のことだったように思える。なぜだろう?


 ……自分が女の魔王。そんなゲームみたいな、バカなことがあるわけがない。


「早く学校に行きな!」


 叔母さんが声を上げた。

 

 さあて、そろそろ通学時間だ──学校に行かなくちゃ。




 家を出て、学校に行く途中の道で、クラスメートの男子に会った。


「よー、サラ」

 

 またこいつかー。小学校時代からの同級生だ。幼なじみってヤツ。


 不良っぽくて、いつもポケットに手を突っ込んで歩いている。


 彼の名前は赤田(あかた)勇士(ゆうし)。あだ名はレッドとか言われているらしい。カッコいいのか、カッコ悪いのか、よく分からない。うーん……やっぱダサい。


「昨日よー、変な夢見ちゃってさ」


 いきなり赤田(あかた)は私に言った。


「俺、天国で……ああ、夢の話だぞ? 不思議な女と会って……なんか」

「え? 何、顔を赤らめてんの?」


 私は眉をひそめた。赤田(あかた)は続けた。


「なんかさ、キス寸前までいったような気がするんだが……」

「あ、それって」


 私は言った。


「相手は私だから」

「はあ?」


 赤田(あかた)怪訝(けげん)な顔をした。それにしては、顔が真っ赤だが。


「なーんてね」


 私は逃げ出した。


「そんなこと、あるわけないじゃん」

「てめえええ! サラ!」


 赤田(あかた)は私を追いかける。


 私は──本当は、キス寸前の相手は赤田(あかた)だったかもしれない、と思っていた。

 

 そう、天国で魂の状態になっていた、私たちが……。


「からかいやがってぇえええ! ジュース1本おごれ!」


 もしかしたら私は──憂鬱(ゆううつ)だけど、意外と良い毎日を過ごしているのかもしれない。


 私と赤田(あかた)は学校に走っていった。


【おしまい】

【作者タケ 別作品のお知らせ】


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