魔女王と勇者様はツインソウルッ! ~私は婚約破棄された16歳の女の子。悪役令嬢に殺されかけた私を救おうとして死んだのは、知らない男の子。1ヶ月後に死んだ私は、魔女王フリーダになっていた。【短編】
「もう、君とは別れる! 婚約は破棄させてもらおう!」
デリック王子は私──サラ・レイアットに向かって声を上げた。
リアーディアン魔法学校の進級パーティーの最中だった。
「な、なぜですか?」
私は驚いて聞いた。デリック王子は私の婚約者だ。きらびやかなパーティーに、不穏な空気が立ち込める。
「サラ! お前の学校での悪い行いは、耳に入ってきている! 他の女生徒を後ろから蹴り飛ばす! 背中を殴る! 水をぶっかける! 生徒の財布から金を盗む……。そんな女だとは思わなかった。私の将来の妻として、ふさわしくない」
「ご、誤解です! デリック!」
「残念ながら、サラ。もう君は婚約者ではないんだよ。親しげな『デリック』という呼び方はよしてもらおうか。デリック様と呼べ」
デリックは16歳。このエクセン王国の王子で、リアーディアン魔法学校の1年生だ。私も16歳で、デリックのクラスメート。今度、2年生に進級する。私、サラ・レイアットは、そのデリック王子と婚約をしていた。お互いの両親が決めたことだった。
「待って、待ってください」
私は、デリックの手を両手で握った。何としても、誤解を解かなければ。私は人に意地悪をするのが嫌いなのだ。いや、怖くてできない。人を蹴飛ばしたり、殴ったり、水をかけたりするなんて、できるわけがない。
「私は、人に意地悪をしたりすることはありません。それは誤解ですから……。どうか、婚約破棄を取り消してください」
私の両親は貧しかった。しかし私の両親は、デリック王子の両親、エクセン王とエクセン王妃が交通事故にあう瞬間を救ったのだ。まるで環境、立場の違う両家だが、親交ができた。
そこから娘の私と、エクセン王、王妃の息子デリックは、クラスメートから恋人関係に発展し、婚約するまでになった。
おととし、私の父は病死。去年、母も事故で死んでしまった。私はデリックとの恋愛のおかげで、気持ちを保つことができた……。
(しかし──ああ、なんてこと!)
デリックは今日、この進級パーティー会場で、婚約破棄を言い出したのだ。
きっと私の死んだ父母は、天国でがっかりするでしょう。私とエリックの婚約を我がことのように喜んでくれていたのに。
「君とはもう終わりだ。バカバカしい。さあ、サラ、向こうへ行け!」
デリックは私の肩を押した。私は尻持ちをついた。
「うっ……」
デリックは「やり過ぎたか」という表情をして、周囲の人々を見まわした。そして舌打ちをした。
「あーら、何をさわいでいらっしゃるの? デリック」
美しい女生徒が歩いてきた。輝くような美しいドレスを着ている。ブロンドの長い髪の毛をなびかせている。長い足でスタイル抜群──。私と大違い。
貴族のラシェル家の娘……!
(ジェシカ・ラシェル!)
ジェシカは、私とデリックのクラスメートでもある。そして前年度の「エクセン王国学生魔法トーナメント準優勝者」でもある。今や魔法専門誌や新聞などでも特集させる、有名美少女魔法使いなのだ。
「ジェシカ!」
デリックはジェシカを抱き寄せた。
まあ!
私はショックで、尻もちをついたまま、二人の熱い光景を見ていた。
「こ、これはどういうことでございましょう。デリック──王子」
私はたどたどしく言った。
「ジェシカを抱き寄せるとは……」
「見てわらかんのか、にぶい女だな!」
デリックは舌打ちした。
「僕とジェシカは付き合っているんだよ。もう二ヶ月前からね」
「私と付き合っていながら? 婚約者という私がありながら? デリック王子、あなたは、う、浮気を……」
「……浮気? まあ世間では、そう言うかな?」
デリックは周囲をうかがいながら言った。周囲のクラスメートは、ハハ……と引きつった笑いを浮かべている。
「あーら、何よ、サラ! デリックは私が好きだから、自分の気持ちに、素直にしたがっただけじゃないの」
ジェシカは、私をゴミでも見るような目でにらみつけた。私は知っている。私の悪い噂を流していたのは、このジェシカという女生徒だということを!
「それとも──私と魔法で勝負する?」
ジェシカは手を前に突き出した。
「ほう、ジェシカの魔法を見るのは久しぶりだな」
デリックはジェシカをはやし立てた。
「私の魔法を見たいって? いいでしょう、私の魔法を見てちょうだい、デリック!」
ジェシカは天を指差した。すると、宙に光の刃が現れた。
(あっ、真空攻撃魔法!)
刃を魔法で作り出し、敵の体を貫く魔法だわ! 危険な魔法よ!
「そーれ! サラ! 私の魔法を受けてごらんなさいな!」
ジェシカは笑いながら、私に向かってそれを放つ! き、危険すぎる!
グサアッ
(え……?)
私の前に立ちはだかっていたのは……隣のクラスの、話したこともない少年だった。
レッド・ラディアス。
私の前に立って、私を守ってくれた。彼の心臓には、ジェシカの真空魔法の刃が深々と刺さっている。
「え、ええ? な、なんてこと?」
ジェシカはあわてたように、声を上げた。
「わ、私は手前で止めるつもりだったのよ! だ、誰か、治癒魔法使いを呼んできて! わ、私のせいじゃないわよ! ひいいっ」
「な、何だこれは。どうなっているんだ?」
デリックも顔が真っ青だ。
「大丈夫かい……君……危なかった……ね」
レッドは青白い顔で、それでいて笑って、私に聞いた。
私はフルフルと首を横に振る。あなたが大丈夫なの……?
数時間後、レッドは……死んだ。今まで何のかかわりもなかった少年が。
で……その1ヶ月後、私、サラ・レイアットは、森の道で、魔物に殺されて死んだの。
はーあ、あっけない。
お祭りの帰り、夜の森の道で魔物──狼男に出会って、ガブリと噛み殺された。
◇ ◇ ◇
……ん?
私は目を覚ました。私は手を見た。
何だか不思議な夢を見ていたな。夢には、人間の学校のような場所が出てきた。
私はサラという女学生だった。私の婚約者を奪った女生徒に、真空魔法を突きつけられた。
私に向かい、真空魔法が放たれる。しかし、今までかかわりのなかった生徒に助けられた。
その生徒は死に……その1ヶ月後、私は魔物に殺されて死んだ……。
そんな夢だ。
(そうだったな。サラは私の前世だったな。前世の夢を見ていたらしい)
フフッ。魔族の魔法婆に占ってもらったのだ。私の前世はサラ・レイアットという人間の女学生だったと。
だが、今、私はそんなことを気にしている暇はないのだ。
私は、勇者を待っている。勇者・レッド・ラディアスを殺す。
私の名は、魔女王フリーダ・ディノラ! 魔王様の配下四天王の一人だ。
そしてここは私の城! 勇者は私の部下を倒し、今まさに、私のいる玉座に攻めて来る!
レッド・ラディアス……さっき夢に出てきた名前のような気もするが。
いや、そんなことはどうでも良い!
──ここにもうすぐ、宿敵、勇者レッドがやってくるのだ!
◇ ◇ ◇
あの男は、大魔王配下である私、四天王の一人、魔女王フリーダ・ディノラの城に乗り込んできた。
(来よったか……。憎き勇者どもよ!)
彼は勇者。レッド・ラディアス。私が崇拝する、この世を支配なさる大魔王ダークゲルドスを唯一倒せる人間だ。
彼が率いているパーティー・メンバーは、以下のこざかしい三人。
極大魔法を発動できる女大魔導士ジェシカ。剣・槍・弓など、ほとんどの武器を扱える英雄戦士ブルドー、そして人類最高の白魔法を操る大聖女ララベル。
(愚か者どもめ! 来た!)
あいつらは私の城のかわいい魔物たちを一掃し──。
ついに! 私──魔女王フリーダのいる「魔女王の間」に侵入してきた。
「勇者よ、殺されに来たのか?」
私は玉座に座りながら言った。
ジェシカが魔法により、光の魔法陣を床に描く。その魔法陣から、火の魔法「ファイアエクスプロージョン」が発動した。とてつもない威力の火炎魔法だ。
私は声を上げ、氷の刃を手から放つ。しかしその刃を、ブルドーが「豪王の盾」で弾く。
(レッドにジェシカか……。)
さっき、夢の中で聞いたような名前だが、気のせいだろう。ジェシカなんて名前の人間は人間界では無数にいるだろうからな。レッドは……まあ、そんなことはどうでも良い!
「はああっ!」
ジェシカの魔法を見た私は、ジェシカに跳び蹴りを食らわせる。ジェシカを20メートルは吹っ飛ばした。しかしすぐに、ララベルが回復魔法を発動。
「ジェシカ、大丈夫か? 俺が守ってやる」
レッドはジェシカに言った。立ち上がった。私は、歯噛みした。
勇者はチャンスだ、という風に笑った。私を倒せば、この地区──ドールカイン王国に平和が訪れるとでも思っているのだろう。
「そうはいかない!」
私は叫んだが、レッドは準備した。雷の勇者魔法「サンダスダイン」を!
すさまじい音がした。
大きな雷が、私に直撃した。私はそれに耐えながら──! 氷の強力な魔法「アイスバーン」を放つ。勇者はそれをまともに受けたようだ。
「くそっ、ララベル、俺を回復してくれ!」
勇者レッドは叫んだ。しかし、ララベルは倒れている。フフッ……ララベルだけではない。ジェシカもブルドーも倒れているぞ。「アイスバーン」は単体だけではなく、広範囲に効果がある。
三人とも、私、魔女王フリーダの大魔法を喰らってしまったというわけだ!
「フフフッ……!」
私が笑っていると、勇者はフラフラになりながら、聖剣グラーツレオンを背中の鞘から引き抜いた。一方、私は思いのほか、勇者の雷魔法で大ダメージを受けていた。
(決着をつけねば……なるまい!)
私は、玉座の後ろにヨロヨロと下がった。「魔女王の間」の後ろはベランダになっているが、今の激しい戦闘によって手すりが破壊されている。
天井はない。頭上は暗黒の夜空が広がっている。
ベランダでは外の風が、びゅうびゅう吹いていた。
「覚悟! 魔女王フリーダ!」
勇者はそのベランダで、聖剣の刃先を、私の首元に近づけた。
ここはすでに崖のようなものだ。手すりのないベランダのはるか下は、魔界の瘴気がうごめいている。私は突き落とされれば、死ぬだろう。
私も勇者レッドも、満身創痍だ。
勇者は私の青白い顔、ウエーブのかかった髪の毛、口に生えた牙を確認したように見えた。
「……お前が魔女王か。……近くで見ると、きれいな顔をしているんだな」
勇者は言った。バカバカしい。魔女王は美しくないといけない。当然だ。
しかし勇者よ。この城で私の部下をなぎ倒してきた傍若無人な行いを、私は許しはしないぞ。
「フリーダ!」
勇者は叫んだ。
「お前が魔物に、ドールカインの街や村の人間を殺せと、命じたのだろう」
そして悔しそうに続けて言った。
「ドールカインの人口は半分になってしまったんだ。生かしておけない」
……ふん、私は部下に指示などしていない。自由にやれとは言ったが。
「言い残すことはないか、魔女王フリーダよ」
勇者レッドは言った。
「ふん、何もない」
私は言った。しかし、先程の「サンダスダイン」のダメージが、全身に回ってきた。くそ……。
「お、お前、私に勝てると思っているのか? うう……」
ズキッ
突如、私の頭に激痛が襲った。勇者の魔法「サンダスダイン」の電撃効果が、私の体をむしばんでいるのだ。
うう……私は失神しそうになった。
勇者がニヤリと笑う。彼が聖剣を構えたその時──。
おや……異様な魔力が頭上に感じる。私が上を見上げると……。
何と、私の頭上に直径5メートルはある火の球が浮かんでいるではないか。こ、これはまさか!
大魔導士ジェシカの極大魔法、「ファイア・クリスタリ」だ!
「お、おお! ジェシカ、立ち直ってくれたか」
勇者レッドは言った。
「さあ、俺は避難するから、極大魔法を魔女王に向けて放ってくれ」
「ええ」
ジェシカはつぶやくように言った。すると突然、私と勇者の周囲に、魔法陣があらわれた。ええ? ど、どういうことだ?
私を魔法陣で囲むのは分かるが、勇者まで魔法陣で囲んでしまうとは?
魔法陣に触れると、強力な電撃が体を駆け巡ってしまうだろう。
よく見ると、ブルドーもララベルも立ち上がって、私と勇者の方を見ている。
「お、おい、ジェシカ。何の冗談だ」
勇者はジェシカに言った。私は、失神しそうになるのをこらえて、彼らの会話に耳をそばだてた。
「冗談? フフフッ、冗談でも何でもないわよ。勇者レッド。あなたは魔女王フリーダと一緒に、この『ファイア・クリスタリ』を受けてもらう。後は知らないわ」
「え……どういうことだ」
「レッド、聞こえなかったの? あなたは極大魔法『ファイア・クリスタリ』の餌食になるのよ」
「バカ言うな! おい、ブルドー、ララベル! ジェシカをやめさせろ!」
しかし、ブルドーもララベルも腕組みをして、じっと勇者を見ている。
……私はぼんやりしながら、この状況の意味を悟った。
な、仲間割れ、か?
「レッド。賞賛されるのは、あなただけだった」
ジェシカは静かに言った。
「な、何?」
「王や女王、民衆に賞賛されるのは、いつもあなただけ。勇者レッド、私たちはいつもそれが納得できなかった」
すると黙っていたララベルも、口を開いた。
「ジェシカの言う通りですよ」
……だんだん仲間割れが本格化してきた。
「私たちは努力しているのに、目立たぬ影法師のような存在です」
今度はブルドーだ。
「てめぇだけがどうして、民衆に騒がれ、愛されているんだ? 魔法新聞で報道されるのもてめぇだけ。俺たちはお前が、邪魔で仕方なかったんだよ! てめぇなんかいらねぇんだ、レッド!」
「おいおいおい、こんな大変な勝負の時に、何を言っているんだ!」
「だからこそよ!」
ジェシカは声を上げた。
「今だからやるのよ! 魔女王フリーダを倒したのは、ジェシカ、ララベル、ブルドーだけということにするわ。そしてこれから魔物討伐で活躍するのは、私たち三人! レッド、あんたなんかいらない! 世界のどこかに、あなたより優れた新しい勇者がいるでしょうね。私たちはその人を仲間にするわ」
ジェシカは無慈悲に杖を振り下ろした。極大魔法が、私と勇者の頭上に降り注ぐ。
すさまじい音がした。
私は……何も分からなくなった。
◇ ◇ ◇
私──魔女王フリーダは、女大魔導士ジェシカの極大魔法で死んだ。
死後の世界というものがあるならば、私は地獄に落ちるはずだな。フフッ……。魔王の手下、魔女王なのだから。悪党中の悪党なのだから。
どんな霊界の悪魔が、私に地獄を与えてくるのかな……?
(えっ?)
私は……ハッと目を覚ました。い、生きてる?
(いや、違う? ここは、一体どこ?)
何と、ベッドの上で寝ていたようだ。ここは家? 奇妙な真っ白い天井だ。壁も真っ白。本棚は、不思議な文字の本で一杯だ。見たこともない部屋だ。
窓の外は、ただ真っ白い美しい光の世界が広がっている。ただし、向こうの方に山が見える。
(私の体はどうなっている? そうだ、鏡! 幽霊にでもなってしまったのか?)
私は、その部屋の中に備えつけられていた、大鏡に自分の全身を映した。
真っ白いスカートを穿き、白いシャツを着ている。そして……私の顔は、青白く……はなかった。女性。20代の人間の女性の顔だ。魔女王のような不気味な美しさではない。
人間的な女性の顔だ。足も胴体もある。
少なくとも幽霊には見えんが……。
(何なんだ? ここは)
私は外に出てみる。
外には真っ白い世界が広がっているが、ぽつりと金色の机が1つ、椅子が2つ置いてあった。そこには黒い髪の毛の若い男性が座っている! その男も、真っ白い服を着ている。
「お、お前、誰だ?」
私が話しかけると、男は振り向いた。
「あっ!」
私は思わず声を上げた。こいつは! 私の憎き相手! そう……。レッド……レッド・ラディアスじゃないか。勇者! 何でこんなところに?
「お前……誰だよ?」
一方のレッドの方は、私を見て、眉をひそめながら言った。私は答えた。
「……私はフリーダだ。魔女王だったフリーダだよ。顔が変わってしまった。というか、顔色が変わったというか」
「はあ? お前が魔女王? 冗談はよせよ」
レッドは私をにらみつけた。しかし、彼はしばし考えるようにしてから、まじまじと私を見た。
「……い、いや! そういや面影がある。フリーダの城で見た、魔女王フリーダにそっくりだ。いや、本人なのか? 俺の直感がそういってる。間違いねえな、こりゃ?」
勇者は目を丸くしている。
「お前、フリーダか? 何だ、化粧でも落としたのか。そんな顔してたのか、お前」
「そんな顔とは、何だ? 失礼な」
私はぷうと頬をふくらませて言った。い、いかんいかん。こいつは敵だぞ。何、なごやかムードになっているんだ。
「ここはどうなっているんだ。ここはどこなんだ?」
あたしがブツブツ言うと、レッドは言った。
「ここは生と死の狭間の世界らしいな。死んで、魂の状態に戻った……ってわけか」
「やっぱり死んだのか。私は地獄行きじゃないのか?」
「さあな。そもそも地獄なんてないんじゃねえのか。知らんけど。まあ座れよ」
「うるさい。お前……勇者なんかに指図される覚えはない」
「お前なー、俺はもうお前と争う気はねーぞ。こんな平和な世界で」
私は、渋々座って、勇者レッドを見た。レッドはのん気に紅茶をすすっている。ここは、本当に霊の世界なのか?
「だからさ、フリーダ。お前も俺も、死んだんだよ」
「とにかく、私たちは魂みたいなものになっているってわけか? ふん、あんた、仲間に裏切られただろう? 確か。良い気味だ」
私はからかうように、レッドに言った。
レッドは舌打ちした。
「そうだ。あのジェシカのやつ……。俺を裏切って、極大魔法を放ってきやがったんだ。ブルドーとララベルも、俺を裏切った」
「私まで巻き込まれた」
「あー、そりゃご迷惑かけましたね。つーか、どうしてお前のような魔族と、ペラペラ会話しなきゃなんねーんだよ」
私はピンときた。思い出したのだ。すべて。
「今、思い出したことを話すぞ。私はもともと人間だった。サラ・レイアットという少女だった。魔女王フリーダの前の人生は、普通の人間の女子だったんだ」
レッドは黙っている。私は話を続けた。
「で、その次の生では、魔女王フリーダになっていた。レッドは……あたしがサラの時もレッドという名前だったな。ジェシカの真空魔法に刺される瞬間、私をかばって死んだはずだ」
「ちっ、思い出しちまったぜ」
レッドは苦笑いをしながら言った。
「そうだったな。俺が前世のレッドの時は、俺がジェシカの真空魔法で心臓を刺されちまったんだよな。名前が前世と同じだってのは、どういうことかわかんねーけど」
「というか、幸せな気持ちだな。ちょっと恋を久しぶりにしたくなってきた」
私はレッドの顔を見た。ここは、どうせ夢みたいな場所だろう。何をやったっていい。そんな気持ちで、レッドの唇に、自分の唇を少しずつ近づける。
「……」
「……」
唇と唇が、触れる? 触れない。触れる? いや、触れてない……。
「お、おいっ! バカじゃねーの!」
レッドは顔をそむけた。顔が真っ赤だ。
「魔女王フリーダと、キスなんかする勇者なんかいるかよ」
「冗談だよ、冗談」
また、なごやかなムードになってきてしまった。
が、その時!
「そろそろ、次の人生の旅立ちのお時間ですが」
私とレッドの後ろから、一人の紳士が現われた。
口ひげを生やし、スーツを着た男だった。
「少しばかり計画を立てましょう。次の人生のね……。そしてあなたがたの次の人生──来世では、世界に対する大切なお役目があります。次の人生はとても重要なのです。世界にとってもね」
私とレッドは顔を見合わせた。
そもそも、この口ひげの男性は……誰?
◇ ◇ ◇
ここは天の世界。魔女王フリーダだった私は、どうやら死んだらしい。
そこで宿敵、勇者レッドと出会った。
「次の人生の旅立ちの時が来ました。ご準備を」
口ひげの紳士は言った。
「あなたは?」
レッドは眉をひそめて紳士を見た。
「神の使いのリーベルと申します。まあ、そんなことより……。あなた方は来世では、100年後の世界に生まれるということが決定いたしました」
「もうそんなことが決まっているの?」
私は驚いて聞いた。
「神の力で、100年経った世界に、今すぐ転生できますよ。フリーダさん、レッドさんも同じ年齢でお生まれになっていただきます」
「ジェシカとデリックは?」
レッドが聞くと、リーベル氏はうなずいた。
「魔女王フリーダさんと、勇者レッドさんが死んだあと、ジェシカさんたちも、魔物に殺されて亡くなりました。今、魂の存在となっております」
「マジか……」
「フリーダさんとレッドさんは、重要なお役目を持って、100年後の世界にお生まれになっていただきます」
「なんだ、その重要なお役目って」
「世界を救っていただきたい」
リーベル氏の言葉に、私とレッドを顔を見合わせた。
「お二人で力を合わせれば、世界を救えます。お二人はツインソウルですからね。意味は少し違ってしまうが、ツインレイという言い方もあります。が、ここではツインソウルと言いましょう。その言い方が私は好きです」
「ツインソウルとは何なんだ?」
私がリーベルに聞くと、彼は真面目な顔で言った。
「フリーダさんとレッドさんは、魂がもともと一つだったのです。今は魂が分かれてしまっているだけ。『双子の魂』というわけですな。まあ、来世ではそんなこと、忘れていますがね。神のお力によって……」
私とレッドはお互いを見た。ちょっと恥ずかしい。
リーベルは続ける。
「さて、そろそろ……」
机の上には、パッと二枚の紙とペンが現われた。私とレッド用の書類らしい。
おや? この世界の北の方を見ると、向こうに虹色に輝く扉が見える。
「あの扉を通れば転生し、赤子として100年後の地上に生まれます」
リーベルは説明した。もう一度、人生をやり直すのか。
ジェシカやデリックはどうなるんだろうか?
「では、来世に行かれる決心がなされたら、サインをしていただけますか。ぜひともチャレンジを」
私たちは静かに書類にサインをした。……というより、いつの間にか書かされていた、といった方がいい。これも神の力なのか。……強引だな。
リーベルは虹色の扉の前に立った。そして扉の中は光り輝いている。
「さて、と。どうなさいますか?」
「来世ではどうなるか分からんけど、俺は自分を勇者だと思ってるんだ」
レッドは胸を張って言った。
「世界を救うってことは、100年後も、魔物だらけの、危険な世界になっているんだろう? 俺は正義のために戦いたいぜ。おい、フリーダ。また、お前と敵同士になるのかな」
「え? ……いや、知らんけど」
私は軽く言った。でも、本当は泣きたいような気持ちだった。レッドと……また敵同士か。それはちょっと嫌だ。
何でこんな気持ちになるんだ?
レッドはリーベルに聞いた。
「来世では名前はどうなるんだ?」
「来世のことは、詳しくお話できません」
「しょうがねーなー」
レッドはため息をついた。
私とレッドは虹色の扉の前に立った。私たちは、来世に行くと決めた。というか、そのような気持ちになるように仕向けられているのかもしれない。
まったく、どうにでもなれっつーの。
どんな新しい人生が待ち構えているというんだろう? また、私は魔女王なのか? それとも……。
えーい、何とかなるだろう、多分!
私は扉の中に飛び込んだ。レッドも後に続いた。
「フリーダ様、レッド様、お達者で」
リーベルは俺たちにそんな声をかけてくれた。
「神様は、あなた方を見守ってくださっていますからね」
ああ、また私たちの頭の中が、真っ白になっていく。
私は、何者になるのだろう? 100年後の世界では……。
◇ ◇ ◇
……ん?
ガバッ!
私は目覚めた。
(夢……か)
時刻は午前6時30分。そろそろ学校へ行く準備をしなければ。
また憂鬱な毎日が始まる。私は東京の中学3年生。令和5年に生きる、15歳だ。
私の名前は、振田サラ。
(何だか、天国にいたような夢を見ていた気がする)
私は首を傾げた。
(しかも、ちょっとかっこいい男の人と、キス寸前までいってしまったような……)
ボロい部屋だ。築50年の木造家屋。
私は布団をふすまにしまった。
「サラ! 店の掃除をしな!」
叔母さんの声が下から聞こえる。私は急いで一階に降りていって、叔母さんが経営する、飲み屋の掃除を始めた。
「何やってんだい! 手を抜くと承知しないよ」
私はいつも怒られている毎日。
そういえば一昨日は、自分が異世界で、女の魔王みたいなことをやっていたような夢を見たんだっけ。
しかも、それは約100年前くらいの出来事のような気がする?
ん? 今は令和5年だから、約100年前は、大正時代?
ああ、異世界の話だっけ。本気で考えて損した。
だけど、それが本当のことだったように思える。なぜだろう?
……自分が女の魔王。そんなゲームみたいな、バカなことがあるわけがない。
「早く学校に行きな!」
叔母さんが声を上げた。
さあて、そろそろ通学時間だ──学校に行かなくちゃ。
家を出て、学校に行く途中の道で、クラスメートの男子に会った。
「よー、サラ」
またこいつかー。小学校時代からの同級生だ。幼なじみってヤツ。
不良っぽくて、いつもポケットに手を突っ込んで歩いている。
彼の名前は赤田勇士。あだ名はレッドとか言われているらしい。カッコいいのか、カッコ悪いのか、よく分からない。うーん……やっぱダサい。
「昨日よー、変な夢見ちゃってさ」
いきなり赤田は私に言った。
「俺、天国で……ああ、夢の話だぞ? 不思議な女と会って……なんか」
「え? 何、顔を赤らめてんの?」
私は眉をひそめた。赤田は続けた。
「なんかさ、キス寸前までいったような気がするんだが……」
「あ、それって」
私は言った。
「相手は私だから」
「はあ?」
赤田は怪訝な顔をした。それにしては、顔が真っ赤だが。
「なーんてね」
私は逃げ出した。
「そんなこと、あるわけないじゃん」
「てめえええ! サラ!」
赤田は私を追いかける。
私は──本当は、キス寸前の相手は赤田だったかもしれない、と思っていた。
そう、天国で魂の状態になっていた、私たちが……。
「からかいやがってぇえええ! ジュース1本おごれ!」
もしかしたら私は──憂鬱だけど、意外と良い毎日を過ごしているのかもしれない。
私と赤田は学校に走っていった。
【おしまい】
【作者タケ 別作品のお知らせ】
作者タケの聖女+恋愛+婚約破棄モノ【長編連載】です。よかったら読んでみてください!
https://ncode.syosetu.com/n9937hy/
『聖女の役職を奪い取られた私は、婚約破棄され、王国から追放されました。しかし追放先で、超強い勇者候補君と親しくなって、毎日楽しい学校生活! ついでに私に意地悪した悪役令嬢を、魔法で成敗します!』
【作者からのお知らせ】
このお話を読んで、「面白かった!」と思った方は、下の☆☆☆☆☆から、応援をしていただければうれしいです。
「面白かった」と思った方は☆を5つ
「まあ良かった」と思った方は☆を3つ
つけていただければ、とてもありがたいです。
また、ブックマークもいただけると、感謝の気持ちでいっぱいになります。
これからも応援、よろしくお願いいたします!