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その日、初めて家族やバイト先以外の女の子とラインを交換しました

「…………はぁ」

「どした? 顔に似合わないため息なんかついて」

「はっ!!」


 不思議そうな親友の声に俺は記憶の彼方から現世に戻ってくる。

 今は丁度、3時間目が終わったところの休み時間。後、1時間耐え切れば昼休みということで、クラス内にも若干弛緩した空気が流れている。

 そして、肝心の俺はというと、友人の言葉の通り全く授業に身が入っていなかった。理由は言わなくても分かるだろう。

 聞いているだけでよい授業が多かったのが唯一の救いか? いや、板書はめちゃくちゃなんだけどさ……後で輝に見せてもらわないと。


「な、何でもないよ!」

「ため息つくなんて、なんか悩み事か? 悩み事にしてはやけに顔がにやけてる気がするけど」

「に、にやけてないから!」

「いや、絶対ににやけてたよ。その時のだらしない顔、写真に収めたけど見るか?」

「なに勝手に撮ってるんだよ!?」

「いや、気付かないほうが問題だろ」

「うぐっ……」


 こればっかりは輝の言う通りだ。スマホで撮られてることに気が付かないなんて、相当重症である。いや、恋愛ボケとでもいうべきか。

 ちなみに写真を見せてもらったところ、確かににやけてました。それも気持ち悪いくらい。


「それで~、実際のところ何があったんだ?」

「すまん。こればっかりは輝にもいうわけにはいかないんだ」

「えぇ~、つまらんなぁ」

「悪いな。言ったら多分、俺は殺されるんだ」

「そんな重大なことだったのか!?」


 殺されると言っても、物理的ではなく世間的にだけどな。びっくりする輝を他所に、俺は改めて昨日の出来事を思い出す。


(ほんと、夢みたいな時間だったな~)


 言葉の通り、昨日は本当に夢みたいな時間だった。俺には勿体なさすぎるほどに。

 結局、あの後は二人でコラボカフェに行ったのだが、終始一ノ瀬は興奮しっぱなしだった。普段はどちらかといえば落ち着いている印象があっただけに、少しだけ困惑してしまったのは内緒である。

 しかし、楽し気にグッズやメニューを眺める彼女の姿は目の保養になった。やっぱり可愛いというのは正義だ。あの時の空間は、某夢の国より夢の国だったに違いない。


(だけど……)


 俺は視線を教室の入り口付近へ。そこには友人と話す一ノ瀬の姿が。

 友人と楽しそうに談笑する彼女ともちろん、目が合うことはない。そして現在に至るまで、声をかけられるということもなかった。


 まるで昨日の事が嘘だったかというような感覚。……いや、これでよかったのだ。彼女とはあくまで住む世界が違う。昨日の出来事は、神様が気まぐれでくれたご褒美なのだ。

 ご褒美はたまにあるから希少性が高くなる。そんな何回もあるわけがない。そもそも、俺と一ノ瀬は接点があったわけではないのだからこれが普通なのだ。だから大丈夫。おかしいところなんて何にも――――。


(……それでも悲しいぃいいいい)


 心の中だけで涙を流す俺。人間とはつくづく複雑な生き物である。





―――――――――――――――――――――――――――――――――





「じゃあ、また明日!」

「おう。部活頑張れよ~」

「ありがとな!」


 今日も元気に部活動へ向かう友人を見送った俺は、いそいそと帰り支度を始める。

 既にクラスメイトの半分以上は所属している部活動へ向かい、残っている者は僅かという状況だった。

 そして、一ノ瀬の姿もいつの間にか無くなっていた。分かってはいたけど、やっぱり悲しい。

 気分が落ち込んだまま支度をしていたら、いつの間にか俺以外のクラスメイトの姿はなくなっていた。


「やばいやばい、早く帰らないと」


 残っていた教科書を雑に鞄へ詰め込み、俺は昇降口へ。そして、ローファーを取り出すために下駄箱を覗き込み……。 


「ん? なんか入って……なんだこれ?」


 下駄箱から出てきたのは一通の手紙。一瞬、頭の中が真っ白になる。


(ま、まま、ままままさか、らら、ラブレター!?)


 理解が追いついた瞬間に、心拍数がバクバクと上昇し始めるのが分かる。身体の血流が一気に回り始める感覚。誰もいないにも関わらず、無駄にきょろきょろとあたりを見回す。


(い、一体誰が、俺なんかに!?)


 女子と話すことが極端に少ない俺に、心当たりなんてあるわけがない。……いや、もしかすると、隠れて俺に好意を寄せてくれていた人がいるということか!?


(落ち着け、一度深呼吸だ)


 たっぷりと息を吸って、吐き出す。2、3回繰り返したところでようやく落ち着いてきた。

 取り乱していてもしょうがない。ここでしなければならないのはただ一つ。中身を確認することだけだ。


(よ、よし、開けるぞ……)


 俺は震える手で慎重に封を外し、中身を取り出す。手汗が酷いが気にしている場合ではない。

 そして、開いた手紙の内容が――――。


【今日の放課後、視聴覚室にて待つ。絶対に来い】


 色々と期待していたことがきれいさっぱり霧散した。俺の抱いていたわくわく感と緊張感を返してほしい。

 なんだよこの内容。ガッカリするとともに、訳が分からなすぎる内容に思わず首を傾げる。

 決闘でも申し込まれているような、そんな文章。直球にもほどがあるその文章に、益々謎が深くなる。

 というか、絶対って……誰の仕業か知らないけど、こんな強めの言葉を使う意味は果たしてあるのだろうか。


「悪戯……ってわけでもないよな」


 普通の悪戯であれば、もう少し文章の内容が変わってくると思われるし……。

 一瞬、輝の仕業かと思ったが、あいつはそんな事するような奴じゃない。そもそも、彼は今は絶賛部活動中だ。

 じゃあ、他のクラスメイト……その線も薄いだろうな。俺はクラスで目立ってはいないけど、敵を作っているわけでもない。

 悪戯をするにしても、一番面白みのない人間なのだ。


「……別に行く必要はないと思うんだけど、絶対って書いてあるしな~」


 無視して帰ろうかとも思ったが、この後特段用事があるわけでもない。そして、買いたい漫画やラノベの新刊が出ているわけでもない。

 帰ったところでアニメを見るか、ラノベを読むか。それしかやることがないのである。今日はアルバイトも休みだしな。


「まぁ、騙されたと思っていってみますか」


 ラブレターじゃない(多分)と分かっているだけダメージは少ないしな。こっそり教室の外から覗いてみて、誰もいなければ帰ろう。そうしよう。

 結論を出した俺は、今歩いてきた道を引き返し、手紙の内容通り視聴覚室を目指す。


 ちなみに視聴覚室は校舎の外れにある、正直何のためにあるのかよく分からない教室だ。たまに、英語のコミュニケーションなんかの授業で使ったりするけど、未だにちゃんとした使い方は分からずじまいである。


 そして、外れというだけあって放課後は特に人気が少ない。学校によっては部活動で使っているところもあるみたいだけど、うちは使っている部活もなかったはずだ。


 なぜそんな教室を指定したのか? そもそも、結局誰が書いたのか、見当もつかないままだ。交友関係が狭い俺に悪戯をしてくる人とは一体? 


 視聴覚室の前に到着した俺は、外からこっそり中を覗き込んで――。


「あっ! 遅かったわね戸賀崎君」


 ガッツリ目が合ってしまった。というか、一ノ瀬!? なぜ、帰宅部である彼女が放課後の教室に!? しかも、今『遅かったわね』って言った気が……。

 びっくり、というか状況が呑み込めないまま俺は視聴覚室の中へ入る。


「全く、遅いから手紙を見ないで帰っちゃったかと思ったわよ!」

「は、はぁ……」


 ぷりぷりと怒っている一ノ瀬さんとは対照的に、俺は曖昧な表情で曖昧な返事をしてしまう。だって、意味がわからないもの。


「どうしたのよ? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「いや、状況が呑み込めてなくて」

「状況が読み込めてないって戸賀崎君、靴箱に入ってた手紙を見てここに来たんじゃないの?」


 不思議そうに首を傾げる一ノ瀬。というか、やっぱりあの手紙の犯人は一ノ瀬だったのか。彼女の言葉を聞いて、あの手紙の送り主が一ノ瀬であることを再確認する。 


「ま、まぁ、確かに見たけどさ……あの手紙を書いたのが一ノ瀬さんってのが意外だったから」

「私もさんざん悩んだんだけど、やっぱりあれしか方法がないかなって思ったのよ!」

「普通に教室で声をかけてくれればいいんじゃ……?」

「嫌よ! あんなところで声をかければ変な詮索をされるかもだし、もしかしたらオタクだってバレるかもしれないじゃない!」


 それは確かに一理ある。彼女は目立つので、一挙手一投足が常に注目の的なのだ。そんな彼女が今まで接点のなかった影の薄い男子に声をかける。

 よく恋愛漫画などで見る光景であり、噂にしかならない状況だな。人によっては変な誤解をしてもおかしくない。

 俺は俺で、キョドってまともな反応ができなさそうだし。うーん、コミュ障過ぎて泣けてくる。

 だとしても、もっとまともな誘い方があったと思うのは俺だけでしょうか?


「というか、なんで俺を呼びだしたの?」

「何でもなにも、昨日、コラボカフェに行った仲じゃない!」

「仲って……まともに話したのは昨日が初めてなんだけど」

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