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プロローグ

好き、とは。




 グーグル先生で適当にググってみると、『心が引かれる、気にいる』という意味で多く検索結果がヒットする。細かく議論しなければ、言葉としての意味はおおよそ正しいだろう。


 


 そして、この言葉の意味合いは人それぞれ、千差万別。状況、相手によっても様々な意味を持ってくるだろう。つまり意味としては同じなのだが、伝わり方が共通ではないということだ。




 まず、多くの人が考えること。それは『Like』なのか、『Love』なのか。


 告白をする際に、『俺(私)はあの人にとってどっちの好きなのだろう?』と思ってモヤモヤするのは全国の男女共通の事項であるはずだ。


 


 また、先ほどは同年代の異性を中心に考えてきたが、好きという対象によっても伝わり方は変わってくるだろう。お気に入りのアイドルや声優に対して叫んでいるのか、犬や猫といった動物に対するものなのか。あるいは自分の好きなことに対しての事なのか。


 人と定義しないだけで、これだけ意味の変わってくる言葉も珍しいだろう。日本語は本当に奥が深い言語だなのだと、改めて感心する。日本に来る外国人が理解に苦しむのというのも納得だ。




 さて、ここまで好きという言葉の意味を考えてきたのだが、この話をしたのには理由がある。 


 薄々気づいている人もいるかもしれないが、こんなくだらない話を長々とした理由。




 それは、俺に好きな人がいるからだ。もちろん『Like』ではなく、『Love』の方で。


 更に情報を付け加えると、俺はぴちぴちの高校2年生である。もちろん、男子高校生。通う高校はどこにでもある、男女共学の進学校。




 恋に落ちたのは1年生の頃。あれはなんてことのない日だった。多分秋ごろだったと思う。


 たまたま前を歩いていた、好きになった女子生徒が、ハンカチを落としたのだ。


 後ろを歩いていた俺は落としたことに気付き、ハンカチを拾い上げて声をかける。すると、




『拾ってくれてありがと!』


 


 明るく、花が咲いたような笑顔が印象的だった。俺はしばらく彼女から視線を外すことができなかった。


 彼女からしてみれば何気ない日常の一コマだったのだろう。しかし、俺は違った。その一回の笑顔で、俺は一瞬で恋に落ちたのだった。まさに一目惚れ。




『一目惚れなんてあるはずがない。そんなのは、頭がお花畑の奴だけが起こること』




 これは昔、俺が友人に放った一言だ。……恥ずかしいにもほどがある。この言葉を撤回できるなら、全力でなかったことにしたいくらいだ。


 過去の俺の言葉を借りるなら、俺は頭がお花畑のおめでたいやつだってことです。


 ちなみに一目惚れでよくある比喩表現として『体に電流が走ったかのような』というものがあるが、本当に身体中を電流が駆け抜けたかのようだった。あまりにびりびりしすぎて、その場でしばらく動けないほどに。




 以上、好きになった理由の説明は終わり。話したのもその時が初めて。恋した理由としては、単純にもほどがあると思うかもしれないけど、そういうもんなんだよ恋の始まりってやつは。


 それに男子高校生は可愛い子にちょっと優しくされると、笑顔を向けられるとすぐ好きになっちゃう、勘違いしちゃう生き物なんだ(諸説ある)。ボディタッチもあるとなおよし。




 そして、その女の子と仲良くなりたい、付き合いたいと思うことも、至極当然の流れ。年頃の男子高校生なら誰だってそう思うだろう。かくいう俺も年頃の男子高校生なのだから。


 彼女の名前は、数少ない友人の一人から教えてもらった。




 一ノ瀬舞いちのせまい。それが彼女の名前だった。




 ちなみに、彼女の名前は学年でも相当有名だったらしく、『なんであんなに有名なのに知らないんだよ……』と友人から呆れられたが仕方ない。


 だってこれまでの人生、色恋沙汰に興味を持ったことなんて一度もなかったからだ。告白だってされたこと一度もなかったし……。




 そんなこんなで、人生においてはじめて好きな人ができた俺だったが……その後は、漫画やラノベのような展開があるわけでもなく、あっさりと1年生が終わってしまった。


 残念だけどクラスも違ったし、俺は好きな子のクラスに向かっていけるような勇気もなかったからだ。


 イケメンならクラスに突撃していったかもしれない。しかし、フツメンの俺がやるとストーカーに間違えられる可能性もあったからな。




 そんな訳で、少しモヤモヤとした気持ちを抱えながら俺は2年へと進級し……なんと、一ノ瀬と同じクラスになった。


 


 名前は上記のとおり把握してたから、クラス替えの表でその名前を見つけた時は柄にもなく喜んでしまった(隣にいた友人からは白い目を向けられたが)。


 その日の夜は興奮のあまり、全く眠れなかったのを覚えている。自分の部屋で一人ガッツポーズを繰り返すほど喜んだ。神様は俺にチャンスをくれたのだと。




 しかし、日が経つにつれて俺の気持ちは目に見えて沈んでいった。いや、ようやく現実が見えてきたというべきか。




 改めて一ノ瀬をみると、やっぱりレベルが違うなと思ったからだ。彼女は誰から見ても可愛く、人当たりも抜群。スタイルだっていい。いわゆる高嶺の花ってやつ。


 一方の俺は誰から見ても平凡な域を出ないTHE凡人。もちろん、クラスで目立つ方のタイプでもない。


 話しかけようにも彼女の周りには常に人が絶えず、凡人の俺に付け入るスキはまるでなかった。


 分かっていたはずだったのだが、少し期待していた部分もあったのだろう。だからこそ、現実を知った時のダメージは計り知れなかった。


 誰から見ても不釣り合いは明らか。付き合うなんてもっての外だった。


 


 だからこそ俺は……その気持ちを押し殺すことにした。


 そりゃそうだろう。初めから負け戦に挑むほど俺もバカではない。勝てる見込みがあるからこそ、戦いに挑むのだ。竹やりで戦車に挑もうと考えるやつが一人もいないのと同じ事である。




 だから俺は戦わない。何とも情けない話だが、無駄に黒歴史を増やすよりはよっぽどましだ。彼女の隣には俺よりも似合うやつがいる。例えばサッカー部のエースとか、俳優顔負けのイケメンとか……。


 とにかく、教室の隅で目立たずに本を読んでいるだけの俺じゃ、戦えるわけがなかったのだ。


 そんなわけで自分の気持ちに蓋をした俺だったが、実際の所、心の中では『ワンチャンないだろうか』とか思っていたわけで……そこはやっぱり誰よりも夢見る男子高校生だった。




 さて、ここまでつらつらと話してきたが恐らく全員が疑問に思ったはずだ。なぜ俺が今こんな話をしているのかと。


 ここまで聞いていれば、俺の初恋は完膚なきまでに叩き潰され、苦い思い出として俺の脳裏に刻み込まれているはずだ。いやこんな黒歴史同然に近い恋を、そもそも話題にすら出していないだろう。


 


 俺が彼女いちのせの事を話す、その理由……いや元凶とでもいうべきか。その答えは、まさに今隣から聞こえてくる声にあった。




「ねぇねぇ、最近見つけたこのラノベなんだけど、亮にも見せてあげようと思って、ちょっと読んでほしいんだけど」


「ありがとう。ちなみに、なんてタイトル?」


「『転生したらゴブリンに○される村人だった件について』。タイトル負けしない良作だから、一度読んでみてほしいのよ!」


「……一ノ瀬。どうしてその作品を俺に?」


「だって好きでしょ? こういうの」




 俺の好きな人は、俺の隣で、目を輝かせつつ、頭の悪いラノベのタイトルを躊躇なく口にしているところだった。女の子の口から『〇す』なんて言葉、でちゃいけません。


 一ノ瀬の言葉を聞いてげんなりとする俺。頭が痛くなってきたぜ。


 何だよその、同人誌みたいなタイトルは。そして、なぜ俺があたかも好きみたいに話しを進めているのか。風評被害もいいところである。




 ちなみに話している場所はもちろん教室ではなく、とある空き教室。まぁ、教室でこんな話ができるわけがないからな。クラスの誰かがこんな話を耳にした日には、クラスだけではなく学年中で大騒ぎになるだろう。




 まさかクラスの人気者であり、俺の好きな人でもある、一ノ瀬舞が、こんなオタクだったなんて。




「なに? どうかした?」




 俺からの視線は抗議の意味も込めていたのだが、一ノ瀬には伝わらなかったらしい。何も知らない彼女は不思議そうに小首をかしげている。 


 その姿が本当に可愛くてずるい。顔がいいってほんと徳だよな。だからといって、口に出していいタイトルじゃない。男であっても、口に出すのを憚られるタイトルだぞ。




「まぁ嫌いな男子は少ないと思うけどさ。でも薦めるならもっと普通のやつを紹介してほしいんだけど?」


「亮の悪いところね。中身を見ずに評価するところ。まずはどんな作品でも中身を読んでみてから判断してほしいものね!」


「いや、タイトルで大体中身わかるでしょ? 多分、主人公がそういうことされるんだなって」


「大丈夫よ! 転生したのは現代のおじさんだから。安易に女子高生とかじゃないから安心して。それにただ〇されるだけじゃなくて……ほんと色々あるんだから!」


「もっとハードルが高くなったよ。そんで、滅茶苦茶不安になった」




 俺は、元おじさんがゴブリンに凌辱されているのをみて興奮するほど、アブノーマルな性癖は持っていない。


 誰が好き好んでそんな設定の漫画に手を出すんだ……あっ、目の前にいたわ。というか、そんなタイトルのラノベを執筆する人もする人だよ。




「俺はできることなら、往年のジャンプ漫画とかを紹介してほしいんだけど?」


「あまり世間に知られてない作品を、ピックアップするからこそ面白いのよ! 誰もが知ってるジャンプ漫画じゃ、何の面白味もないじゃない。それこそワ〇ピ好きがオタクを名乗ってるのと同じよ?」




 何故だか少し説得力を感じるから困る。決して間違ってはいないんだけどな……。でも納得できない部分があるのも事実だ。


 実際にいるからな。ワン〇ースとか鬼〇の刃を読んでて『私って実はオタクでー』っていってるやつ。


 どこまでも純粋なオタクの心を弄ばないでほしい。オタクって仲間がいると思うと色々と期待しちゃうんだから。まぁ、簡単に期待するオタクサイドにも、問題があるかもしれないけど。




 さて、ここまで見ている人を置いてきぼりで話してきてしまったので、改めて状況を説明したいと思う。


 俺の隣には先程話題に出した一ノ瀬好きな人がいる。しかも、空き教室で二人っきりという全国の男子高校生絶叫もののシチュエーション。


 人によっては仲良くなれてよかったじゃん、とか言いそうだが……確かにそうなんだけど。しかし、この状況は俺が期待した状況とは程遠かった。




 なぜなら、というか、ここまで聞いてきた人なら分かると思うけど……。




 彼女が可愛い顔に似つかないほど、純度の高いオタクだったからだ。




「にしても、たまにいるのよね。『私(俺)ってオタクで~』って言うやつ。それでこっちが同類だと思って期待しながら『どんなのを見てるの』って聞くと、『鬼滅とかワンピとか。あとナルト!』って言ってさ! 違うのよ!! いや、厳密には違わないかもしれないけど……でも、違うじゃない!? オタクってのはもっとマニアックというか、アングラというか。うまく説明できないけど……とにかく深夜アニメもはしごしてないようなにわかがオタクを語るなって話よ! もちろん、亮もそう思うでしょ!?」


「お、おう、そうだな。だから、トーンをもう少し落としてくれ」


 


 そして始まるマシンガントーク。あまりの早口にドン引きしてしまう。


 よくオタクは自分の領域になると早口になるけど、あまりに典型体的過ぎて流石の俺でも引いてしまった。なんとめんどくさいことか……だから、世間一般のオタクのイメージが良くならないんだよ。


 後、俺がさっき思った事、そのまま口にしてて笑った。




 ちなみに俺と一ノ瀬の間に、甘い空気が流れることなんてあるはずがなかった。というか、あると思ったやつなんて一人もいないだろう。


 もちろん、放課後に二人で手を繋いで、スタバにいって、意味もない会話を何時間もして……そんな安っぽい恋愛シュミレーションゲームのようなイベントもなし。


 好きな人と一緒の空間にいるというおいしい状況なのに、どうすることもできないもどかしさ。寸止めをされている気分だ。




 そもそも、会話だって酷かった。高望みはしない主義だけどさ……それにしたって俺は仮にも好きな人と、『ゴブリンに犯される』とか『転生したのは現代のおじさん』とか、そういう会話は望んでいなかった。


 好きな人との会話はこんなんじゃない。俺はもっと甘ったるい、頭の悪い会話を望んでるの!!


 まぁ、今の会話もいろんな意味で頭が悪いといえば悪いのだけど……。


 


 さて、最後に俺と一ノ瀬がこんな関係になったわけを説明しなければならない。


 本来であれば俺と一ノ瀬はただのクラスメイトという関係で終わるはずだった。それがどうして、こんな訳の分からない状況になったのか。


 その理由を説明するには、少しだけ時間を巻き戻さなければならない。




 そう、それは新しいクラスにも慣れ始めた、4月も終わり頃だったのだが――。




「ところで、この前貸してあげた『前略、隣のOLさんが○ロすぎて爆発寸前です。』はどうだった? 絵も綺麗でエロかったでしょ?」


「……ま、まぁ、絵は綺麗だったよな」


「爆発した?」


「してねぇよ!!」




 この物語は、見た目は完璧、中身はオタクな彼女と、そんな彼女を好きになってしまった俺の話。


 ちなみに爆発しなかったのは本当です。信じてください。

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