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密入国の結果

     第3話 密入国の結果


 巨壁山脈東麓地方南部の山中に作られた国境監視所。3月のある日の夜明け前。魔力探知機(マナ・シーカー)を監視していた兵が、異変に気付いた。

「隊長、魔力探知機に反応。場所は海岸線。人間大で数は1。」

「海岸線を1人でだと。見せて見ろ。」

監視所の当直を務めていた小隊長が、兵の肩越しに魔力探知機を覗き込んだ。

「確かに、1人だな。拡大しろ。」

「はい。」

魔力探知機の映像が、件の人間大の影の所だけ拡大される。

「人間大、か?少し小さいが、人間に見えなくもないか。それにしても、たった1人、それも生身で国境越えとは大胆だな。あの辺りは亜竜(ワイバーン)の縄張りだったはず。」

「どうやら、亜竜も動き出したようです。侵入者を追っています。」

「ふむ。生身の人間が亜竜に追われて無事に済むとは思わんが、いずれにしろ回収は必要だ。ケリャビンの砦に連絡しろ。海岸線に密入国者だ。生身で、数は1人。」

「は。」

別の当直の兵が、魔力(マナ)通信機を手に取った。


 ケリャビンの砦から、貨車(コキ)を牽引した魔導車が、海岸線に向けて出発した。貨車には、陸戦型魔導従士(マジカルスレイブ)スコピエスⅱが2機、積まれている。

「単独で密入国して、直後に魔獣の洗礼とは。相手は余程の実力者か、ただの馬鹿か。どっちにせよ死体の回収などと、気分の悪い任務だ。」

魔導車を運転していた小隊長が言った。それから暫く進むと、魔導車の機関室に積まれている通信機が鳴った。

「国境監視所からか。何だ?…何!逃げ切っただと。相手は亜竜だぞ。…分かった。」

小隊長は通信を切ると、貨車の魔法騎士(マジックナイト)用待機室にいる部下に伝えた。

「予定が変わった。相手は死体ではなく、生きた密入国者だ。油断するなよ。」

「了解。」

魔導車はスピードを緩めず、国境監視所から伝えられた、密入国者が潜んでいる茂みへ向かった。


 亜竜から逃げ切ったベッペは、夜明けが近いこともあって、茂みに潜んで隠れることにした。

「魔力も体力も、そろそろ限界です。休憩にしましょう。それにしても臭かった。」

そうして茂みで潜んでいると、遠くからキュラキュラと無限軌道(クローラー)の音が聞こえてきた。

「何か来るようです。でもこの音、何でしょう?聞き覚えがありません。」

音はだんだん近づいてきている。暫くして、音の正体がベッペの目にも見えた。

「あれは…思い出しました!魔導車です。それに、牽引されている貨車のコンテナ。あれがあるということは…。」

魔導車は、ベッペが潜んでいる茂みのすぐ近くで止まった。すぐに貨車のコンテナが展開して、中から巨大な物が出てくる。

「間違いありません。魔導従士!僕の相棒ではなく量産型ですが、今生では初めて見る生の魔導従士です。」

魔導従士の姿を見て興奮したベッペは、思わず茂みから飛び出していた。

「あれは、子ども?それに耳と尻尾。獣人か。初めて見るな。」

魔導車を運転していた小隊長は、思わず感想を漏らした。その間にも、魔導車と2機のスコピエスⅱで目標の3方を囲む陣形が形成されていく。

「亜竜から逃げ切った手練れだ。見た目が小さいからと侮るなよ。」

小隊長は、通信機を介して、部下に檄を飛ばした。

 魔導従士を前に浮かれ気分だった、ベッペも、包囲網が形成された時、ふと我に返った。魔導車の上部砲塔と魔導従士の肩部砲(ショルダー・カノン)、合わせて5門の法門が、ベッペに向けられている。この状況は非常にまずい。ベッペが警戒を高めると、魔導車の外部拡声器から声がした。

「密入国者に告ぐ。抵抗は無意味だ。大人しく投降しろ。」

さすがにベッペも、体力も魔力も消費した状態で、ここから逃げ出せると思うほど愚かではない。すぐに両手を上げで敵意がないことを示すと、できるだけ大きな声で、

「抵抗しません。だから撃たないで。」

と、投降の意思表示をした。それを確認して、魔導車から武装した男が下りてくる。

「ふん。大人しくしていろよ。」

男は、見事な手際で、ベッペに後ろ手に手錠を掛けると、ベッペの尻を蹴った。

「キャン。」

「ぼうっとしてないで歩け。」

ベッペは、男に押されるまま歩き、貨車に付属している魔法騎士の待機室に押し込まれた。そこで、目隠しをされ、椅子に座らされると、足も縄で縛られた。

「暫く大人しくしていろ。」

ただ、ベッペは獣人である。目隠しされていても、優れた聴覚や嗅覚で、周りの情報を集めた。包囲網を形成していた魔導従士は、すぐにコンテナの中に片付けられた様である。それから、コンテナを閉じる音がして、待機室に2人の魔法騎士が入って来た。魔法騎士は、ベッペの両側を挟むように座る。これで、逃げようとしてもすぐに制圧されるだろう。

「しっかり見張っておけ。」

「了解。」

魔導車を運転していた男が、待機室から出て行った。会話の中身からして、彼が隊長なのだろう。程なく、魔導車はUターンして、キュラキュラと無限軌道の音を立てながら、走り出した。

 変形型魔導従士サヴォルデスが普及して、魔導車とスコピエスⅱの組み合わせも、1世代前の装備となりつつある。ただ、今回のように捕虜を護送するには魔導車は便利だ。それから、陸戦能力においてスコピエスⅱの方がサヴォルデスを上回るので、魔導車、スコピエスⅱとも、各方面軍に少ないながらも残されている。

 魔導車で護送されている途中、ベッペは、隣の魔法騎士に話しかけてみた。

「あの、これから僕はどうなるのでしょう?」

すると、予想外にも、返答があった。

「知らん。」

「へ?」

「知らんと言った。密入国者の扱いは管轄外だ。」

返事があったことも予想外なら、答えも予想外。

「どこかで拘束されるとか、そこで尋問を受けるとか、しないんですか?」

「俺たちの役目は、管轄のある連中にお前を引き渡して終わりだ。その先は知らん。」

本当にこの魔法騎士は何も知らされていないようだ。ただ、この会話での収穫は、これから誰かに引き渡されることが分かったことか。

 どこかに到着したのか、魔導車が停車した。すると、ベッペは足の縄を解かれ、両側から挟まれて、

「歩け。」

と、強引に外に出された。魔力転換炉の吸排気音が2重に聞こえるから、別の魔導車もいるのだろう。

「乗れ。」

ベッペは、もう1台の魔導車に繋がれていると思われる、幌車(ワゴン)に、押し込まれた。それから座席に座らされ、また足に縄をかけられる。ベッペは、さすが東の国の騎士、動きに隙がありません、と思った。耳を澄ますと、外から話し声が聞こえてきた。

「密入国者は確かに受け取りました。ご協力感謝します。」

女性の声だ。

「礼はいいから、さっさと消えてくれ。」

これはさっきの隊長だ。

「では。」

女性は言うと、ベッペが乗せられた幌車に乗り込んできた。それから、ベッペの隣、幌車の出入り口に近い方に座る。飛び降りて逃げようとしてもすぐ制圧できる位置取りだろう。かなり洗練された動きだ。それから、呼吸音も最小限、臭いも薄い。ベッペは、なんとなく記憶に残りにくい女性ですね、などと考えていた。

 女性が幌車に乗ると、すぐに幌車を牽引する魔導車が、キュラキュラと音を立てて走り出した。ベッペは、先ほどの魔法騎士にしたのと同様の質問を、隣に腰掛ける女性にした。

「あの、これから僕はどうなるのでしょう?」

しかし、全くの無反応。無限軌道のキュラキュという音だけが、無情に響く。沈黙に包まれたまま、幌車は小1時間ばかり進んだ。

「乗り換えます。下りて下さい。」

魔導車が止まると、すぐに女性が言って、ベッペの足の縄を解いた。それからベッペを立ち上がらせると、お尻を押して、歩かせた。押されるまま進んでいくと、タラップがあった。タラップを上ると、先ほどの幌車とは比べものにならない、広い空間だった。乗り換えると言われた以上、ここも何かの乗り物の中なのだろう。その中にある座席らしき物にベッペは座らされた。すぐに、縄で座席に縛り付けられる。やっぱり隙がない。目隠しもずっとされたままだ。

 程なく、乗り物が動き出した。座席に押しつけられるような感覚があった後、奇妙な浮遊感。空を飛んでいるのだ。

「これは…飛空船?」

思わず声に出してしまったが、無視された。魔力転換炉の吸排気音だけが聞こえてくる。飛空船の乗組員は、全員先ほどの女性同様、気配が薄かった。なんとなく気味が悪い。

 そうして座席に縛り付けられたまま、飛空船で飛ぶこと2時間あまり。体に感じる浮遊感が増した。飛空船が降下に入ったのだ。ここが目的地だろうか。

 地面に帰還すると、先ほどの存在感の薄い女性が、ベッペを座席に拘束していた縄を解き、

「立って下さい。少し歩きます。」

と言って、立ち上がったベッペのお尻を押した。乗る時にも使ったタラップを下りると、女性にお尻を押されながら、歩く方向を誘導された。いつの間にか、腰縄が巻かれている。やっぱり隙がない。そのまま右に左に、クネクネと曲がった道を歩かされ、暫くすると、

「その先は下り階段です。」

と後ろから声がかかった。ベッペは、階段の近くに、溜まった水の臭いを感じた。

 階段を下りると、狭い地下通路のようだった。足音が反響して五月蠅い。地下通路を歩いて5メートルほど進んだところで、右に曲がらされた。今度は小さな部屋のようだ。その部屋の中で、ベッペはようやく目隠しを外された。部屋には、机と、椅子が2脚。他には何もない。

「この部屋でお待ちください。」

女性はベッペの目隠しを外すと、サッと部屋から出てしまった。明らかに一般人の身のこなしではない。それから、ガチャリと、部屋の外側から鍵が掛けられた。

「うーん。この部屋の雰囲気。嫌な予感しかしません。」

 窓のない小部屋に閉じ込められている間に、ベッペは、これまで分かったことを復習していた。

「この国に来てから、前世の記憶で朧気だった部分が、少しずつはっきりしてきています。魔導車に貨車、魔導従士運搬用コンテナ、全部僕の騎士団で考えられた物です。飛空船の改良もやった記憶があります。それにしてもここはどこでしょう?溜まった水の臭いは、お城のお堀でしょうか。だとしたら、お城の地下牢なのでしょう。うーん、地下牢に拘束されたという事は、この後尋問を受けるのでしょうね。さて、どう説明したものか?」

小さな椅子のうち部屋の入り口に向いた方に腰掛け、独り言を言った。一人旅を長く続けていると、どうしても独り言が増える。


 ベッペが、椅子に座って考えをまとめていると、ガチャリと鍵が開いて、小部屋に覆面で顔を隠した人物が2人入って来た。1人は、素早い身のこなしで、ベッペの後ろに回り、縄で小柄なベッペの体を椅子に拘束する。もう一人は、ベッペと向かい合うように、もう1つの椅子に腰掛けた。ベッペは、椅子に拘束された状態で、

「これから尋問でしょうか?」

と、向かいの覆面に聞いた。

「話が早くて助かります。では始めましょう。まずお名前は?」

男の声だ。ベッペは、こういう時は本名を答えた方がいいだろうと思い、

「ジョセフィーナです。」

と答えた。

「出身は?」

「イルリック独立都市連合の農場です。」

「イルリック国の獣人ですか。年齢は?」

「5歳。」

「おや。獣人は人間より成長が早いはずですが、…まあいいでしょう。1番大事な質問をします。入国の目的は?」

ベッペは、一瞬、考えを整理し、答えた。

「この国で、魔法騎士になるために来ました。」

「何?」

予想外の回答だったためか、目の前の覆面の丁寧な口調が崩れた。ベッペは構わず続ける。

「僕は前世の記憶があって、この国で騎士団長をやっていたのです。専用機、言わば相棒もありました。それにもう1度乗りたいのです。」

「騎士団長だと。このオストニアに騎士団があったのは、何百年も前の話だ。」

「オストニア?そうだ、この国の名はオストニアです。思い出しました。ありがとうございます。」

「そうすると、ここがオストニアと知らずに密入国したのですか?」

覆面の口調が戻った。

「はい。山脈の東の国としか分かりませんでした。」

「なんと。まあいいでしょう。先ほど騎士団長と言いましたね。その騎士団の名は?」

「それが、まだ思い出せません。」

「専用機の名は?」

「それも、思い出せません。」

「あなたの前世での名前は?」

「それも、思い出せません。」

「ふむ。困りましたね。私は席を外しますから、その間に記憶を喚起しておいて下さい。」

正面の覆面男は、そう言って、部屋を出て行った。もう1人は、ベッペを後ろから監視したままだ。物音一つ立てない。気味が悪い。

 尋問官の覆面男が出て行ってすぐ、隣の部屋から話し声が聞こえた。ベッペは、その声に全神経を集中する。

「対象は、前世の記憶があって、オストニアの騎士団長だったと供述しています。」

「前世の記憶か。珍しいがない話ではない。嘘を言っている兆候は?」

「特に見受けられません。」

「お前がそう判断するなら、そうなのだろう。しかし騎士団などと時代遅れな。我が国では、令外の騎士団、銀嶺騎士団が解体されてから、騎士団など存在しないのだぞ。」

その時、ベッペの頭の中の霞が突然晴れた。

「銀嶺騎士団。銀嶺騎士団!僕の騎士団です。」

その間も、隣の部屋での会話は続いていた。

「もう少し情報を引き出せ。処分はそれからでいいだろう。」

「了解。」

 尋問官の覆面男が戻ってきた。

「どうでしょう?何か思い出しましたか?」

「はい。僕の騎士団は、銀嶺騎士団です。それで…。」

「何と。今、銀嶺騎士団と言いましたか。」

「はい。それと、僕の専用機、僕の相棒の名前はダモクレスです。」

「むう。少し急用を思い出しました。私は席を外しますが、逃げないで下さい。」

覆面男は、入って来てすぐに出て行ってしまった。

 尋問官がいなくなって、また隣の部屋から会話が聞こえた。ベッペは人間より優れた獣人の耳でそれを拾う。

「対象は、銀嶺騎士団の団長で、ダモクレスに乗っていたと言っています。」

「何だと。嘘の気配は?」

「ありません。」

「もし本当だとすると、該当するのは、騎士の中の騎士(ナイト・オブ・ナイツ)、それも初代のエルヌスか、2代目のトーマトゥスの2人だけだ。」

隣の部屋から会話が聞こえるほど、ベッペの中の前世の記憶がはっきりしてくる。

「エルヌス。エルヌス・アウレリウス!僕の前世はそう名乗っていました。」

その間にも、隣の部屋の会話は続く。

「これは、大きな拾いものをしたかもしれん。続きの尋問は私がしよう。」

 部屋に、さっきより大柄な覆面が入って来た。多分男だろう。先ほど出て行った覆面男も付き従っている。大柄な覆面は、ベッペの正面に腰掛けた。

「尋問を交替する。」

やはり男の声だ。

「はい。今の時間で思い出したことがあります。僕の前世は、エルヌス・アウレリウスと名乗っていました。」

それを聞いて、正面の男は、チラリと、自分の斜め後ろに控えている覆面男を見た。覆面男は、小さく首を横に振った。何かの合図だろうが、意味は分からない。

「やはり。前世の記憶があると言っていたが、生まれ変わってすぐに全て思い出せるような、便利なものでもないようだな。」

「はい。始めは朧気ながら自分が生まれ変わる前のことを、断片的に思い出す程度でした。」

「確認だが、ダモクレスや騎士の中の騎士エルヌス・アウレリウスのことを他のところで話したことは?」

「ありません。今思い出したばかりです。それにしても騎士の中の騎士ですか。」

「騎士の中の騎士エルヌス・アウレリウスと言えば、西方でも名が知られているのではないのか?」

「いえ、少なくとも僕のいた農場では、教えられませんでした。」

「分かった。今日の尋問は以上だ。お前の処遇については、追って話をしよう。」

大柄な男が言うと、ベッペの後ろにいた覆面が縄を解き、3人まとめて部屋を出て行ってしまった。ガチャリと外側から鍵が掛けられる。

「最後に出て来た人がリーダーでしょうか?だとしたら、悪くない手応えです。」

小さな部屋にひとり残されたベッペはつぶやいたのだった。


 巨壁山脈東麓地方中部、王城ウラジオ城にある小さな執務室。そこで、男が書類仕事をしていた。そこに影が入ってくる。

「相談があります、室長。今朝確保された密入国者の件です。」

室長と呼ばれた男は、不機嫌そうに振り返り言った。

「シアン0ともあろう者が、密入国者の処分ごときで私の手を煩わせるのか?」

「申し訳ありません。ただ、その密入国者というのが、前世の記憶を持っていて、前世ではエルヌス・アウレリウスと名乗っていたと、供述しています。」

「何⁉エルヌス・アウレリウスだと。」

「この耳で確かに確認しました。」

室長は少々思案すると、

「その者の処分は私の一存では決められん。報告ご苦労。任務に戻れ。」

「了解。」

シアン0と呼ばれた影は、音もなく執務室から姿を消した。その後室長は別の部下を呼び、

「参謀本部長にアポを取れ。」

と命じたのだった。

 場所は王城2階の参謀本部長室に移る。

「何かあったか?室長。」

「は。本日1名の密入国者が確保されたのですが、その者が前世の記憶を持っていて、エルヌス・アウレリウスと名乗っていたと供述しています。」

「何?確かか?」

「は。シアン0が確認しました。」

本部長は、一瞬思案すると

「ふむ。初代騎士の中の騎士エルヌス・アウレリウスの生まれ変わりか。それが本当なら、使える手駒になるかもしれん。」

と言った。

「報告ご苦労。私はこれから元帥と打ち合わせだから、お前も仕事に戻れ。」

「は。失礼します。」

そう言って、情報調査室長は、参謀本部長室を後にした。すると、本部長室を出てすぐに、1人の女性と遭遇した。

「貴女は⁉」

 同じ階にある元帥執務室。

「報告は以上です。」

「確かに、貴様の言う通りだな。その話が本当ならば、だが。」

「本物かどうかを見極めて、偽物だった場合処分することは簡単です。」

「それはそうだな。後は、密入国者をどのような理屈をつけて、正規の入国者にするかだが。」

「その点につきましては、考えがあります。イルリック国では、獣人を動物扱いしています。本国に戻れば迫害の恐れがある者、つまり難民として、我が国で受け入れたことにすれば良いのではないでしょうか。」

「それはそうだが、難民認定の権限は、確か司法大臣だったな。政府を通さねばならんとなると。」

「このような些事、いちいち陛下にご報告する必要はありません。」

元帥は、軍の存在感の低下を気にしているのだ。そのためベッペを、国王を通さずに、軍の手駒にしようとしていた。その考えを先回りしての本部長の発言である。

「それもそうだな。よし。本部長、司法大臣との折衝は任せる。」

「は。」

 参謀本部長は、本部長室に戻ると、

「司法大臣に面会のアポをとれ。」

と、部下を司法省へ走らせたのだった。

 翌日。参謀本部長室に1人の女性が現れた。

「本部長、これはどういうことかしら?」

「貴女は、枢密院議長⁉」

現れたのは、枢密院議長テレジィッサ・シバリウスだった。

「議長、これとは?」

「あなたが司法大臣とアポを取ろうとしたことよ。軍と政府の協力が必要な問題なら、まず陛下に報告して、それから元帥と総理で折衝するのが筋よ。」

「陛下のお手を煩わせるような話ではございません。」

往生際悪く、本部長は言った。

「それを決めるのは陛下ご自身よ。とにかく、言い訳は止して、今回の件を陛下に報告なさい、と元帥に伝えること。よろしくて。」

「分かりました。」

議長の迫力に押され、本部長は折れるしかなかった。

 その日のうちに、元帥と参謀本部長が国王臨席専用会議室に呼び出された。元帥と本部長、そして同席した枢密院議長を睥睨して、国王が重い口を開いた。

「朕に報告せず、何やら動いておったようだな。」

元帥は往生際悪く、

「陛下に報告する必要のない些事と判断いたしまして。」

と言い訳をした。

「それは朕が決めることだ。必要なことは余さず報告せよ。」

「ははぁ。」

元帥と本部長は平伏した。そして、初代騎士の中の騎士エルヌス・アウレリウスの生まれ変わりだと名乗る獣人の少女を確保しているという内容を、国王に報告したのであった。

「それを朕に報せずに、処理する気であったか。些事どころか随分な大事に思えるがな。まあ、其方らへの沙汰は追って下す。まずはその初代騎士の中の騎士の生まれ変わりだ。本当なら、確実に我が力となるが、真偽を確かめねばならん。そうだな、議長。」

「はい。陛下の仰る通りでございます。」

「手駒の中に、ちょうど良い者がいる。それに預けよう。」

国王の瞳が昏く光った。


 巨壁山脈東麓地方南部、工房都市カメンスクにあるアウレリウス本家。その日、使用人部屋でリルは朝5時に目を覚ました。いつも通りの時間だ。ポフンと、寝間着からメイド服姿に変身する。リルが起きたのに気付いて、アテラもベッドから出て来た。

「お姉ちゃん、おはよう。」

「・・・おはよう。」

アテラはまだ眠そうな目をこすりながら、ポフンとリルと同じメイド服に変身した。

 朝起きたら、アテラと2人、まずは散歩に出掛ける。エカテリンブルで暮らしていたころからの習慣だ。ただ、工房都市は立ち入り禁止の場所も多いので、散歩できる場所が限られる。商店街の店も、早くても6時にならないと開かないので、時間が余る。その日は、時間を潰すために、散歩の途中で見つけた野良猫の観察をした。アテラは、猫を観察するリルを観察している。

「みう。」

と猫に竜語で話しかけてみたら、

「フー。」

と威嚇された。

 午前6時になると、商店街の店のうち、キオスクとパン屋が営業を始める。この日の前日は、週に1度、行商人が工房都市のお店に商品を卸しに来る日だった。工房都市は、情報統制のため、商人の出入りも最小限に制限されているのだ。そして、行商人が来た翌日は、キオスクに1週間分の新聞がまとめて並ぶ。新聞は「本日」という、エカテリンブルで読んでいた新聞と同じタイトルだが、地域面の内容が違って「巨壁山脈東麓地方南部版」となっている。

 週に1度のお楽しみの新聞を買ったら、リルとアテラは、その足でパン屋へ向かう。本家の人たちは、固くて長いパンが好みだ。25オース。エカテリンブルの学園前商店街にあるパン屋では、同じパンが20オースで売っていた。ちょっと高いが、朝の時間を使ってパンを焼いていたころに比べると、とても便利になった。

「お、メイドの嬢ちゃんたち。いつもありがとよ。」

10オース銅貨2枚と穴の開いた5オース銅貨1枚を払って、パン屋を出た。

 新聞とパンを買ったら、家に帰って朝食の支度だ。アウレリウス本家の朝食メニューは決まっていて、パンと野菜スープとベーコンエッグだ。食事の材料は、前日に1週間分まとめて買って、魔法の冷蔵庫に入れてある。その日のパンだけは、朝、焼きたてを買うのだ。ちなみにベーコンは豚ではなく角兎(ホーンド・ラビット)のバラ肉の燻製で、卵は実は高価な食材だ。毎日卵を食べられるのは、本家が裕福だからこそだろう。

 朝食の支度は、リル1人でやって、アテラは隣にくっついているだけだ。これは何も、朝食の支度に限った事ではなく、家事全般アテラは手伝わない。

 朝食の支度を終えても、本家の住人は起きてこないことが多い。それを待つ間に、リルは新聞を読むのだ。アテラも隣で新聞を覗いている。その日買ってきた数日前の新聞には、約1年後に迫った私立大学解禁の特集が組まれていた。エカテリンブル郊外を新たに開拓して、早生畑大学、打倒(KO)大学、魔導師(メイジ)大学、方正大学、戮強大学が設立認可されていて、王立大学と併せて「エカテリンブル六大学」と呼ばれることになるそうだ。リルは、なんかげいにんみたいななまえのだいがくがある、と思った。

「戮って殺すってことだよね?」

アテラもそっちが気になった様だ。

 リルが新聞に目を通していると、1人、また1人と本家の住人が起きてくる。1番早起きなのは、ゼフィリッサ(ゼフィ)だ。悪魔の知識を持つゼフィは、もう読み書きができるので、リルが読み終わった新聞を読んで他の家族を待っている。現在本家で暮らしている5人の中で、ァレンニッサ(レニ)が1番朝が弱く、時々寝坊しそうになる。そんなときは、リルがレニを起こしに行く。この日はレニも自分で起きてきた。

 一家揃ってから頂きますのあいさつをするのが、アウレリウス本家のルールだ。リルたちメイドは食卓には加わらないので、一家が朝食をとっちる間も、新聞を読んでいる。

 朝食が終わると、その後片付けだ。皿を洗って、食器棚にしまう。リルが片付けをしている間に、一家はそれぞれ身支度を調えている。支度に時間がかかるのは、いつもエヴィティッサ(エヴィータ)だ。まあ、大人の女性だから、身支度に時間がかかるのは仕方ない。

 早々と支度を終えた当代騎士の中の騎士のチェストゥス(チェスト)は、

「陛下からお呼び出しがありましたので、王都まで行ってきます。帰りはいつも通り3日後です。」

と言って、他の家族を待たずに出発してしまった。

 エヴィータの支度が終わるころに、

「お兄様、参りました。」

と、近くに住んでいるテリャリッサ(テラ)・カウスが娘のエーデルワイス(ウィス)を連れてやってくる。出迎えに出たリルは、ちぇすとは、おうとにしゅっちょうでさきにでた、とテラに伝えた。

「お兄様、また出張か。残念。」

「リルちゃんん、今日もよろしくですぅ。」

 ウィスは両親共働きなので、いつも日中は本家で預かっている。ウィスを引き取り、出勤するレニ、エヴィータ、テラを見送ったら、洗濯と掃除の時間である。リルとアテラが家事をしている間、ゼフィ、ウィス、そして学園が春休みのため帰省してきているウェルギリウス(ウェル)の3人は、裏庭で、それぞれ魔法の練習をしている。みな賢い子なので、子守の手間はかからない。

 ウェルは、リルが作った魔法のランニングマシンで、「加速(ヘイスト)」の魔法を使い続けながら、走っている。魔力と体力の同時強化だ。工房都市は、立ち入り禁止区域が多く、家の外を走ってトレーニングするのが難しい。それでリルが、ランニングマシンを作ったのだ。ベルトが回転しながら走る面が後ろに流れていく仕組みで、魔法の全自動洗濯機に組み込まれている回転の紋章(エンブレム)を流用した。

 ゼフィは、庭の北側に面する市壁を使って、踏み台昇降をしていた。工房都市の市壁は、魔獣対策というよりも機密保持のため、他の街より高く作られているが、ゼフィは、軽々と、飛び乗ったり飛び降りたりしている。「筋力爆発(マッスル・ボマー)」の魔法で跳躍力を強化して飛び上がり、上昇中に「気団加速(エアロ・スラスト)」の魔法で更に加速して、飛び乗る。下りるときは「気団緩衝(エア・クッション)」の魔法で衝撃を和らげていた。「筋力爆発」は、オルティヌス(オッティ)の魔導書に書かれている新しい魔法で、この魔導書はまだ解読されていないことになっているが、悪魔憑きのゼフィには使えるようだ。

 ウィスは、まだ4歳だが、すでに「炎の矢(ファイア・ボルト)」や「風の刃(ウィンド・ブレード)」など、数種類の普及魔法を成功させている。アウレリウス本家ですら、魔法の教育は5歳からだが、前年の夏に、リルがスプリティッサ(スプリ)・エカテリンブルフスに魔法を教えたときに一緒に勉強して、すでに魔法を覚え始めていた。現在は「魔法灯火(マジカルランタン)」の練習をしている。

 家の掃除と、洗濯が終わるころには、子どもたちの魔法の練習も一段落する。リルは洗濯物を畳む前に、台所で、練習で汗をかいた子どもたちのために、お茶を淹れる。といっても、紅茶は夜眠れなくなると言う理由で、子どものうちは飲ませないのがアウレリウス家の方針なので、薬草茶だ。この日は、ウィスが、

「リルちゃんん、ミルクがいいですぅ。ママが臭くて美味しいってぇ、言ってたですぅ。」

と、要望してきた。ミルクと言っても牛乳ではなく大山山羊グレート・アイベックスという大型魔獣(家畜化されている)の乳だ。他の2人は渋い顔だったので、ミルクは嫌いなのだろう。リルは、ミルク1杯と薬草茶2杯を、居間で休憩中の子どもたちの所に持って行った。

「ありがとうございます、リル小母様。」

「ありがとうですぅ。」

「…。」

3人は、それぞれ出された飲み物に口を付ける。

「とぉっても山羊臭いですぅ。でもぉ、臭くて飲みにくいですぅ。これを美味しそうに飲むママはちょっと変ですぅ。」

ウィスは、大山山羊のミルクの独特の臭みに、顔をしかめた。それでも、鼻を摘まんで、ミルクを飲み干す。

「鼻を摘まんでも臭いですぅ。」

そうやって、子どもたちが休憩している間に、洗濯物を畳むのだ。ちなみにその日以来、ウィスがミルクをおねだりすることはなくなった。

 午後になると、リルは、ウェルを、剣の稽古のため、裏庭に連れ出す。ゼフィとウィスは縁側で、アテラはリルの横で、ウェルの稽古を見学している。ウェルの得物は、ショートソード二刀流だ。今は、ウェルに多対一の型を教えている。リルは、おもったとおり、おぼっちゃまにはけんのさいのうがある、と思った。

「お姉ちゃんが剣の才能あるって言ってるよ。」

「お兄ちゃんには剣の才能がある。収穫。」

「お兄ちゃんん、すごいですぅ。」

「褒められるのは自信になりますが、リル小母様は何も喋っていないのでは?」

この場で1人だけリルの思考が伝わらないウェルが疑問を口にした。

 ウェルの剣の稽古を終えたら、その前日、買い物のついでに記帳してきた、家計用の通帳(レニ名義)を見ながら、家計簿を付ける。ウェルが帰省している間は、彼が、ゼフィたちの遊び相手になってくれるので、この仕事も捗る。リルの横から通帳を覗いていたアテラが、

「お姉ちゃん、剰余金配当って何?」

と聞いてきた。リルは、かぶ、と思った。

「蕪って、根っこが丸くて白い野菜?」

リルは、そのかぶじゃない、かぶしきがいしゃのかぶ、と思った。

「ふーん。」

アテラは質問した割には興味がなさそうなリアクションをした。

 この月、12月決算の会社が株主総会を開くので、配当金が振り込まれるのだ。アウレリウス本家は、財閥系、非財閥系問わず様々な会社の株を持っているので、配当金が大量に入る。リルの計算では、配当だけで、家計支出を全てまかなってお釣りがくるレベルだ。しかも、アウレリウス家の大人たちは皆高給取りなので、毎月数10万オース単位で、繰越金が増える。レニは、年末になると、余っているお金を、オルティヌス・アウレリウス財団に寄付していた。

 夕方。

「ただいま。ウィス、帰るわよ。」

「ただ今帰りました。」

「ご機嫌よう。」

仕事に行っていた大人たちが帰ってくる。テラは、そのままウィスを引き取って、

「じゃあね、リルちゃん、アテラちゃん。また明日。」

「また明日ですぅ。」

と言い残して、自宅に帰る。

 大人たちが帰ってきたら、リルは夕食の準備に取りかかる。夕食の献立は、冷蔵庫の中身と相談しながら毎日変えていて、この日は、主食のパンの他は、兎もも肉のソテーに、焼いた新ズャガ芋と力カロットを添えた。

 一家が夕食を食べている間、リルは暇なので、レニの書斎から借りてきた本を読んでいる。今読んでいるのは「法螺貝が鳴る頃に」という軍記物のフィクションだ。

 夕食後、一家は今で団らんしているが、リルは夕食の片付けだ。食器を洗い、テーブルや台所を拭いて綺麗にし、乾いた食器を拭いて、食器棚にしまう。この日もレニから、

「リル様、お片付けが終わったら、私の部屋に。」

と、お誘いを受けた。

 レニの書斎に行くと、レニはいつも通りネグリジェ姿で、ウィスキーのロックを傾けていた。机の上には、クレイモアという文字と大剣の絵が描かれたラベルの瓶がある。グラスの中身だろう。

「見て下さい、リル様。これ、ハイランド王国産のウィスキーなんですよ。あまり高い銘柄ではないですけど、私は結構好みでして、その話をお兄様にしたら、昨年の誕生日に、同じ瓶を12本もプレゼントされてしまいまして。」

リルは、はいらんどさんなら、ほんたいはたかくなくても、うんちんはたかそう、と思った。

「お姉ちゃん、運賃は高そうって。」

「言われてみればそうですね。まあ、お兄様の財力なら、大した額ではないのでしょう。」

リルは、おうけのざいりょくなら、たしかに、と思った。

「リル様もご一緒にいかがですか?」

リルは、ならちょっとだけ、と思った。

「お姉ちゃん、ちょっとだけって。」

「では。」

レニは、グラスをもう1つ用意し、氷を淹れて、ウィスキーを注いだ。リルは、それを受け取ると、1口、というか1なめ。意外にマイルドで、樽の香りが口の中に広がる。リルは、これならいけるかも、と思って、もう1口飲んだ。

「・・・ん。」

「お口に合いましたか。そう言えば、私の亡くなった夫は、お酒全般が苦手でしたね。」

リルは、そういえばれにはみぼうじん、と思った。

「お姉ちゃん、未亡人って何?」

リルは、おっとにさきだたれたつま、と思った。

「そうか。レニも、結婚してて、その夫さんは死んじゃったんだね。」

「そうです。夫も、今のスプリお嬢様の様に、幼いころから私の許嫁になって、魔法の英才教育を受けていました。それで、シルフィの魔法騎士だったのですが、こう言っては何ですが、人柄だけ良く、騎士としても開発者としても凡庸な人でした。」

リルは、わたしからみれば、いまのひとはみんなぼんよう、と思った。

「お姉ちゃん、みんな凡庸だって。」

「リル様に言われてしまうと、私も返す言葉がありません。」

リルは、さう゛ぉるですもほりだしただけだったし、と思った。

「あの鳥に変形するやつ、掘り出しただけだって。」

「仰る通りです。0工でも改良案を考えたのですが、オリジナルを超える性能は、ついぞ出せませんでした。」

リルは、まあへいわなじだいだから、むりしなくてもいい、と思った。

「レニ、無理しなくていいよ。」

「いえ、甘えてばかりはいられません。テラは結果を出しましたし。」

リルは、それ、でゅーくのこと?と思った。

「テラが出した結果って何?」

「長らく動かなかったデューク・オブ・ザ・ヘルを動かした上に、自分好みに改造までしてしまったのです。」

「すごーい。」

リルは、あれ、やっぱりさいごのほうだけ、あてらとれにだけでかいわしてた、と思った。


 翌日。王城ウラジオ城の3階、国王臨席専用会議室に、チェストは呼び出されていた。

「到着早々ご苦労。其方を呼び出したのは、今身柄を確保している1人の密入国者の件だ。」

「密入国者、ですか?」

チェストは、意外な要件に、鸚鵡返しをしてしまった。

「そうだ。その者が、前世の記憶を持っているようで、その前世がエルヌス・アウレリウスだと申しておる。」

「エルヌスと言うと、初代騎士の中の騎士!」

「うむ。」

「それで、陛下は、僕にその真偽を確かめよという訳ですね。」

「否。」

「え?」

「其方より適任の者がいよう。其方が確保している、不死なる竜の小娘だ。報告によれば、あれの姉は、エルヌスの末娘だったのだろう。それと、件の密入国者を引き合わせる。そして真偽を確かめさせよ。」

「リルさんは、確かにエルヌスの娘。分かりました。」

「あまり急がずとも良いから、確実に真偽を見極めよ。」

「御意。」

 場所は変わって、王城1階の玄関ホール。

「閣下、お待たせしました。こちらが件の娘です。」

チェストが待っていると、覆面をした女性が、小柄な獣人の少女を連れてきた。

「この獣人の女の子が、エルヌスの生まれ変わりと言っているのですか。」

「はい。」

獣人の少女は、何が起きているか分からないといった雰囲気で、キョロキョロと周りを見回している。

「分かりました。身柄は確かに預かりました。」

チェストが言うと、覆面の女性は音もなく消えた。チェストは獣人の少女に向き直り、

「君、名前は?」

と尋ねた。

「ベッペ、いえ、ジョセフィーナです。」

「ん?ベッペというと、ジョゼッペという男性名の愛称です。なんで男の愛称なのでしょう?」

「イルリック国では、僕たち獣人は、女の子の方が酷い扱いを受けるので、僕の母が、性別を偽ったからです。」

「そうですか。それでベッペ、でいいですね、君はエルヌス・アウレリウスの生まれ変わりだとか?」

「はい。僕も昨日、思い出したばかりで、前世の記憶もまだ全部思い出した訳ではないんですが。」

「君のその話の真偽を確かめることになりました。僕はチェストゥス・アウレリウス、13代目騎士の中の騎士です。」

「13代目…。そんなに時間が経っているんですか?」

「はい。それで、君は、暫く僕の家で生活してもらって、君の言葉の真偽を確かめます。その間の行動の自由は保障されませんから、その積もりでいて下さい。」

「分かりました。」

「では、行きましょうか。王都の外の駐機場に、うちの魔導車があります。」

「はい。」

 こうして、ベッペはチェストに連れられて、工房都市カメンスクのアウレリウス本家に向かうことになった。

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