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6 マグリッドの憂鬱

 マグリッド=シュマルフ侯爵は王宮を訪れ、ことの経緯をフォンターク王国の王、エドワード=カイゼンに報告した。

 帰省途中の馬車を狙って襲撃が行われたこと。

 その際にテディと名乗る正体不明の幼児が光を放ち、ユリアを救ったこと。

 おそらくは精霊の加護を受けたものにも関わらず、出自が分からないこと。

 そして、今朝、捕らえていた尋問中の襲撃者たちが服毒死していたため、事件の全貌が掴めないままであること。

「陛下、わたしは自分の娘を誘拐した黒幕を必ず突き止めます。」

 マグリッドのそれは、まるで犯人に心当たりがあるかのような含みがあるようだった。

「それから、失礼ながら確認させていただきたいのですが、アレクシス殿下はもう帰省されておいでで?」

「アレクシスは今魔塔に行かせていてな、宮殿には居らぬ。落ち着き次第、ユリア嬢の見舞いにでも行かせよう。」

 その言葉の奥に何かを隠しているのか、マグリッドに押し測ることはできない。

「テディと言ったか、そのものの出自については、今はっきりとは言えぬ・・・が、シュマルフ侯爵家に害を成す者ではないということだけ伝えておこう。後で屋敷の方に縁者を送るから、その者から話を聞くがよい。」

 陛下はテディの正体を知っているのだ。

 しかしなぜ今明らかにすることができない?

 マグリッドは不審に思いはしたが、従った。

 カイゼン王家はただの権力者ではない。精霊伝説の勇者の血を引く、大精霊より加護を受けし者だ。

(まさかテディは・・・・)

 マグリッドは美しい宮殿を振り返り、不安感に襲われた。

 アレクシス殿下は第一王子であり、王太子候補だ。しかし、正式に立太子されるのはセシリア王立学園を卒業した後。これを覆すには、今しかないのかもしれない。

 カイゼン王家の血をひく王位継承権をもつ子どもたちは、5人。キャロライン王妃の子どもである第一王子のアレクシスと第四王子のディーン。今は亡き側室であったマリーベルの子どもである双子の第二王子のレオン、第一王女のサーシャ、そして第三王子フレディ。

 特に、第三王子のフレディは、若干15歳ながらも野心家で、気位が高いという。

 母であるマリーベルが病で亡くなったのはもう5年前になる。幼いフレディに余計なことを吹き込む者がいないとも限らない。

(もしこの誘拐が、王家のお世継ぎ騒動の一端だとすれば、これで終わりではないかもしれないな。)

 美しい宮殿に住む、美しい王家の面々を思い浮かべながら、マグリッドはそこに巻き込まれずにはいられないであろうユリアに思いを馳せた。

 意識が戻ったその日の内に、怪我をした侍女を見舞ったというユリア。侯爵家の令嬢にしては、あまりに優しすぎるかもしれない。

 セシリア王立学園では学業も優秀で、常に貴族の令嬢として毅然とした態度を取り続けていると聞いている。学園は小社会だ。次期王妃として、力を示そうと奮闘しているのだろう。しかし一方で、アレクシスとの関係は和やかではないとも聞く。

 幼い頃からアレクシスに夢中だったユリアが、現状に平然としているわけがないことを、マグリッドはよく分かっていた。

 それでも、王家との婚約を白紙に戻すことなどできない。この婚約は、四大侯爵家としての責務でもあるからだ。

「これ以上何も起こらなければよいのだが・・・・・」

 マグリッドはただ娘の幸せを思う。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「おねえちゃん」

「あらテディ、今私もあなたに会いに行こうと思っていたのよ。」

 ユリアが声のした方を見ると、扉のからひょっこりと顔を覗かせたテディがいた。

「あのね、朝ね、お庭のお散歩したの。そしたらね、可愛いお花が咲いていたんだ。」

「うんうん」

「それでね、おねえちゃんにあげたいなって言ったら、庭師のおじちゃんがね、いいよって言ったの」

 背中に隠していた小さな花束を、恥ずかしそうにユリアに差し出すテディに、ユリアは脳天を撃ち抜かれた。

 辿々しい喋り方も、語尾の「ね」のオンパレードも、ユリアを溶かす材料だ。

「ありがとうテディ!」

 ここぞとばかりに抱きしめて、お礼をいう。

 子どもってなんでこんなに柔らかいのだろう、可愛い。

「えへへ、お花うれしい?」

「うん、嬉しい」

 思えば、アレクシスから花を受け取ったあれは、もう5年以上も前になる。

 アレクシスも恥ずかしそうに、顔を赤らめながら、

「ユリアに似合うと思って」

と、ユリアにプレゼントしてくれた。聞けばアレクシスが自ら選び、手折ってくれた花々だったらしい。

 永遠にとっておきたかったが、花の命は短い。ドライフラワーには向かない花だったので、新鮮なうちに花びらの何枚かを押し花にして未だに残している。

 テディが持ってきた花は、短い花を寄せ集めただけのものではあったが、花をもらってこんなに嬉しいのは、あの時以来だった。

「一番目に入る所に飾るわ。」

 ユリアが言うやいなや、短い茎の花でも入る小さな花瓶がメルの手によって用意される。

 茎の処理がなされ、可愛く飾られた花は、傷ついたユリアの心を癒した。

「何かお礼をしなきゃね、テディ、欲しいものはある?」

「ほしいもの?うーん」

「してほしいことでもいいわよ」

「あのね、ぼく・・・」

 テディはもじもじと言いたそうなそぶりを見せるが、続きが言えない。

「ん?何かなー?」

 もじもじしているテディも可愛くて、たまらない。

「あのね、夜ね、お部屋が暗いとこわいの。だからね」

(まさか・・・)

「おねえちゃんと一緒のお部屋で寝ちゃダメ?」

 上目遣いにおねだりをするテディの可愛さは最高である。

「いいわよー。寝る前に絵本を読んであげるわ。」

 その後、メルの手配により、ユリアの寝室に子ども用のベッドが運びこまれるまで、一刻もかからなかったという。

 






 


 

  

 



 

 

  

 




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