53 秋の感謝祭11
感謝祭2日目、今日は1日かけて、剣術大会が行われる。
前半は場所を区切って、同時進行で試合が行われていく。一回でも負けるとそこで終わりの勝ち抜き戦だ。
ひたすら勝ち抜いた者だけに、次回への進出が許される。
前大会で上位10位以内に入ったものにはシード権があり、後半戦からの参加になるが、それ以外はくじで相手が決まる。
皆、安全性を考慮して甲冑を纏っての試合だ。そして試合後は敗者のみが兜を脱ぐ。
勝利して兜を脱ぐことができるのは、最後まで勝利した者のみである。
大会の主催者は生徒会だが、審判や警護のために王立騎士団がサポートに加わり、大会で活躍した者には騎士団への入団試験の免除もあるらしい。
ユリアは緊張感のある会場に足を踏み入れた、瞬間、肌で感じるような熱気に圧倒される。
闘技場では、複数の甲冑に身を包んだ若者が、気迫ある声と共に試合を始めていた。
剣と剣がぶつかり合う音が響き、観客もその熱戦に肌を紅潮させている。
あっという間に勝負は着き、審判の旗が上がった。
敗者は兜を脱ぎ、姿を晒すと、二人の健闘を讃える声援が送られる。
ある意味、この顔を晒す瞬間が一番盛り上がった。
序盤は複数の試合が同時進行されるため、あちこちで歓声が上がっていた。
途中で、一際大きなな歓声が上がったのに興味を引かれて視線を送ると、そこには敗者として兜を脱いだフレディの姿があった。
「フレディ様も参加されていたのね」
ユリアの隣で観戦していたシエルが意外そうに言った。
王族としてのフレディの評判は決してよくなかった。しかし、夏季休暇を終えてのフレディは、前を向いて己を取り戻そうと努力しているとアレクシスから聞いていた。
ユリアはフレディ本人と話したことはあまりない。しかし、戦いが終わって潔く兜を脱いだフレディの目は、以前よりもずっと澄んでいる気がしていた。
兜で正体が分からないようにしているのは、身分で勝敗が左右されることがないように配慮していることもある。
勝者も、戦った後に相手が王族だと知り、戸惑っているようだ。
レオン王子は病弱で、大会に出たことはない。
アレクシスに至っては去年まで泥人形だったため、主催者側に徹していた。
王子として大会に参加したのは、近年では1年生のフレディが初めてなのだ。
兜を被っての忖度のない戦いへ参加したことで、もしかすると人気が出るかもしれない。
(そういえばアレクシス様は大会に参加するのかしら・・・?)
姿を取り戻して以来、剣の稽古はしているとは言っていたが、大会に参加するかどうか、ユリアは知らなかった。
これまで出ていなかったから、当然でないだろうと思い込んでいたが、今年は出られない事情はない。
主催者でも、参加は可能だ。
ユリアが最後にアレクシスの剣を振る姿を見たのは、もう5年以上も前の話だ。
基本的に争いを嫌う線の細いアレクシスだ。好んで大会に出ることはないか、とユリアは一人納得していた。
「あれ、あの剣士!強いなあ」
近くにいた生徒の熱っぽい、憧れるような声を聞いて、ユリアは別の闘技上に視線を送る。
黒の甲冑を身に纏っている剣士だ。
確かに、あっという間に勝敗がついている。
シードではない剣士なのに、強さが抜きん出ている気がした。
力強い剣捌きで相手を追い詰め、あっという間に勝敗が決まる。
敗者が兜を脱ぐと、大きな歓声が上がった。
会場の多くの人々が、一人の剣士に魅了されていた。
すると、また別の場所で大きな歓声が上がる。
白銀の甲冑を身に纏っている剣士は、剣も甲冑も、まるで重さを感じていないかのような軽やかな剣技で相手の剣をいなし、気が付いた時には勝利している。
どこか目立つ二人の剣士はその後も順調に勝ち進んでいた。
観客はどうせならこの二人の対戦が見たい、と興奮している。
そうこうしている内に、午前中の前半戦が終わり、午後からの後半戦では試合を勝ち進んだ10名と、シード権をもつ者10名との対戦になる。
ユリアとシエルは昼休憩の合間に食事をすませ、午後の試合観戦に備えた。
午後からの試合は、全てが見応えのある対戦だった。
そしてついに、準決勝では午前の部で活躍してた二人が対戦相手となった。
二人の対戦を期待していた観客から、準決勝まで勝ち進んだ二人に、対戦前から声援が送られる。
試合が始まっても、二人は向かい合って構えたまま、動かない。仕掛けるタイミングを測っているのか、観客の方が焦れる。
白銀の剣士が先に仕掛け、黒の剣士はその剣を弾いた。
二人の剣はまさに柔と剛。
技と力がぶつかり合い、わずかな時間で凄まじい剣戟が繰り広げられる。
決着は一瞬だった。
白銀の剣士のわずかな躊躇を見逃さず、黒の剣士が切り込み、勢いよく胴を打った。
白銀の剣士は吹き飛ばされ、倒れる。
審判が手を上げ、見事黒の剣士が勝利した。
そして、黒の剣士は歩み寄り、重い甲冑を身につけた白銀の剣士が立ち上がるのに手を貸した。
立ち上がった白銀の剣士がゆっくりと兜を脱ぐ。
すると、煌めくようなさらりとした銀髪が現れた。
ユリアは衝撃に声を上げそうになり、両手で口元を覆った。
敗者として兜を脱いだ白銀の剣士はアレクシスだったのた。
闘っている時には分からなかったが、アレクシスの剣には、確かにユリアが送った緑が混じった金色のタッセルがぶら下がっている。
会場は衝撃に静まり返った。
しかし、しばらくするとハッとしたように歓声が上がる。
これまで剣術大会に参加したことのなかったアレクシスが学園中にその力を見せつけた瞬間だった。
準決勝敗退とはいえ、午前の試合から見せつけたその力は本物だ。
アレクシスは歓声を浴びながら観客席を見渡し、ユリアを見つける。
目が合ったかと思うと、アレクシスはその美貌でふわりと笑った。
とたん、声援に混じって女性達の黄色い声が上がる。
ユリアは「え?」と戸惑った。
アレクシスは最近まで泥人形で、表情はなく、ユリアに対する態度も伴って、ひどく冷徹に見えていた。
しかし、休暇明けのアレクシスは人が変わったようにユリアに甘くなり、そして今日、一人の剣士として輝くような実力を発揮してみせた。
夏季休暇あけのアレクシスは、何も知らない学園の生徒たちにすら、とても魅力的に見えたに違いない。
第二、第三のカイナの存在を予感し、ユリアは気を強くもたねば、と気合を入れるのだった。
決勝は驚くほどあっけなく幕を閉じた。
今大会の優勝者は、アレクシスをも倒した黒の甲冑を纏った剣士だ。
決勝のみ、敗者も勝者も兜を脱ぐ。
そして勝者として兜を脱いだその男もまた、真っ直ぐにユリアを見つめた。
「クラウス・・・・・!」
会場はクラウス=ローゼンに賞賛の声援を送り続ける。
クラウスが過去、剣術大会に出場したことはない。
最高学年にして初出場、初優勝の快挙だ。
クラウスがこんなに剣術に長けていることを、ユリアは知らなかった。
共に過ごしてきた仲間とはいえ、クラウス本人のことをどれだけ知っているのだろうか、と考えさせられる。
ユリアに好意を告げたクラウス。
その思いに応えることはできないけれど、ユリアにとってクラウスは、シエルと同じように苦しい時に自分を支えてくれた大事な仲間の一人だったのだ。
ユリアがアレクシスの事情をまるで知らなかったように、人には隠していることがあり、知られたくないことがあるのかもしれない。
クラウスは笑顔で声援に応えながら、ゆっくりとその視線をユリアへと向けた。
笑顔はなくなり、真剣な表情でただ、ユリアを見つめた。
ユリアは、その表情をどう受け止めていいのか分からず戸惑う。
クラウスは自然と目を逸らし、その後も優勝者として大会を盛り上げたのだった。
ユリアにとっての学園最後の剣術大会は、アレクシスとクラウスの参加により、これまでにないほど面白く、また複雑な心境になるものとなったのだった。




