52 秋の感謝祭10
「今はそう思っていて結構ですわ。そうそう、わたくしのカリロット姫はいかがでしたか?」
アレクシスの速攻の返答にも、カイナは挫けない。
マークへの怒りとか、憤りとかは微塵も感じられない。
カールもマークも目に入っていないかのようだ。
アレクシスへの強すぎる執着に、ユリアも呆れる。
「とても素晴らしかったよ。掛け合いが素晴らしくて、特に絶望から立ち上がる幕は、本当に見事だった」
コーラスとの掛け合いで徐々にテンポアップし、歌は迫力を増していった。
それはカリロット姫の葛藤を実に巧妙に表現していた。
凄まじい間合いで、コーラスと会話をするように歌い、やがて希望を見出していく姿に涙する者は多かった。
カイナは天才だ。
しかし、コーラスやマークとの掛け合い、調和の取れた器楽演奏がなければ、この感動は生まれなかったはずだ。
「さすが殿下!わたくしもあの幕が一番好きですわ。気が合いますわね」
(圧がすごい・・・すごすぎる・・・)
ユリアはそばにいるのだが、分かっているだろうか。
「ユリア様、婚約者だからといって安心していては、わたくしに出し抜かれますわよ」
突然、勢いよく振り返り、なぜか上から目線でユリアに言ってくる。
「安心なんてしていないわ」
ユリアは負けじと言い返した。
アレクシスの事情が分かった今は、二人の距離を詰めて行きたくて、ユリアだって必死なのだ。
アレクシスをもっと理解したいし、自分のことも理解してもらいたい。
あの辛い時間があったからこそ、今はお互いをより大事にしようとしている気がする。
「それに、誤解しているようだけど、あなたより私の方がアレクシスを思っているわ」
(彼女の勢いに押されたりなんかしないんだから)
ユリアとカイナは睨み合い、不敵に笑う。
「あなたの場合はもう少し、周りの好意に敏感になった方がいいんじゃない?」
カールはおそらく、カイナを好ましく思っている。
「好意ですって?」
カイナはため息をついて、手に持っていた何かをぶら下げる。
「アンジェリク」
ぶっきらぼうにその名を読んだ。
「はい、あなたのイヤリングでしょ。舞台に落ちていたわ」
マークに殴られたあのとき、カイナは舞台に落ちていたイヤリングを拾おう賭していたのだ。
「わざとでしょ?」
カイナの言葉に、アンジェリクは耳を赤くする。
「何ですって?」
「照れなくてもいいわ。わたくしも罪な女ね。二人きりになりたいからって、こんなわざとらしいことを。話しかけたいなら、堂々と声をかけなさい。今度からちゃんと向き合うわ」
「な、なに言っているのよ、私は・・・」
「わたくしのことが好きなんでしょ?知っているわよ」
アンジェリクはわなわなと震えながらも、否定しなかった。
(え、ええ!?)
残っていた部員たちも目を見開いている。
「な、な、な、な・・・」
「悪いけれどわたくし、好きになるのは男性なの。ごめんあそばせ」
カイナは妖艶に微笑んでみせた。
気の毒にアンジェリカは、沸騰するのではないかというほどに顔を赤く染め、「違うんだから〜」と叫びながら走り去っていった。
思わぬ事態に、ユリアはあんぐりと口を開けた。
「ところで殿下、あの光は精霊の加護ですの?」
次々と話が変わり、躊躇なく尋ねるカイナに、周りは振り回されっぱなしだ。
「そうだよ、大精霊リオネル様の加護だ」
「やっぱり、殿下は精霊に祝福されている存在だからそんなにも美しいのですね。わたくしを救い、犯人を見つけ、場を取り締まる姿!かっこよかったですわ」
(これ、エンドレスに続きそう・・・)
「アレクシス様、音楽部の皆さんはこれから午後の準備があるみたいだから、そろそろ行きましょう」
ユリアの提案に、アレクシスとウィリアムはホッとしたように頷いたのである。




