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50 秋の感謝祭8

 見たことのない一人の侍従の存在に、学生たちがざわめく。

 侍従の衣装を纏ったウィリアムが、まさか魔塔一の魔法使いだとは誰も思わないだろう。

「ここに犯人がいるのであれば、見つけられますよ」

 ウィリアムはあっけらかんと言った。

 アレクシスはゆっくりと部員たちを見渡し、淡々と告げる。

「聞いたか?自分から名乗り出るか、ウィリアムに特定されるか、どちらかだ」

 後頭部を怪我して、うつ伏せに倒れていたカイナ。

 落下物があったか、誰かに殴られたかの二択だ。

 しかし、舞台の上にあるのは天井と魔法で光り続けるランプだけだ。

 状況だけを見れば、誰かに殴られた可能性が高い。

「名乗り出る者はいないか」

 アレクシスはそう言うと、しばらくの間部員の反応を伺った。しかし、部員たちは顔を見合わせるだけで、声を上げる者はいない。

「ウィリアム」

 アレクシスに名を呼ばれたウィリアムは頷き、恐ろしいほどの速さで魔法陣を描き始めた。

 次々と空中に浮かび上がる輝く魔法陣に、部員たちは騒然とする。

 ユリアはそれを美しい芸術品のように見上げた。

 次々に増えていく無数の魔法陣が会場を埋めていく。

 そしてウィリアムが高く上げた両手を部員たちに向けて下ろすと、全ての魔法陣が舞台の床に着地し、部員たち一人一人の下に移動する。

 部員たちは驚愕の声を上げ、足元を見るが、まるで影のように離れない魔法陣からは逃れることはできない。

 魔法陣の光は柱のように高さを上げ、部員たちを包み込んだ。

 体の中に何かが浸透していくような感覚に襲われる。

「ま、待ってくれ!」

 誰かが声を上げる。

「俺だ。俺が、カイナを殴ったんだ」

 アレクシスとウィリアムは視線を交わし、ウィリアムは自身の膨大な魔力を操作し、魔法陣を収縮させていき、一つ残らず小さくなって消えた。

 声がした方を見ると、一人の男が思い詰めた表情でアレクシスを見つめていた。

「嘘だろ、マーク」

「本当にお前なのか?」

 部員たちは悲壮な表情で、何かの間違いではないかとマークに訴える。

「だってお前、ずっとカイナと練習し続けていたじゃないか」

 マーク=ブヴォワールは、主人公カリロット姫の相手役を務めた男性歌手だ。

「何度も、何度も練習したよ。天才の横に立つ覚悟を決めて、カイナの足を引っ張らないっように必死だった」

 マークは独白する。

「カーテンコールの拍手が鳴り止まなくて・・・観客席を眺めたよ。幸せだった。頑張ってよかったと思ったよ。だけど、きっとこれが最後になると思った。学園を卒業した後も舞台の上で活躍できるような才能は俺にはない」

 マークの瞳はどこか虚だ。

 部員たちは何も言わなかった。

「カール、カイナとアンジェリクは違うと言ったな。カイナに代われる歌い手なんて、この音楽部には誰もいない。だけど俺は違う。俺の代わりはたくさんいる。急に自分が何者でもないような気がして・・・・不意にカイナに聞いてみたくなった」

ーーーーもし、俺がここで消えていなくなったら、午後の公演での俺の代役は誰がいいと思う?

 カイナは一体誰を選ぶのだろうと思った。

「カイナは言ったよ。誰でもいいし、どうでもいいと・・・・。それよりもこの衣装を着た自分を殿下に見せたいから話しかけるなと」

 過去の屈辱が、もう一度波のように訪れる。

 拳を握りしめ、マークは続けた。

「カイナは殿下のところに行こうとしていた。でも、あの時急にしゃがみ込んだんだ。俺はそのまま片付けようと持っていた燭台で殴りつけた」

 マークはうつむき、 

「すぐに後悔したけど、カイナは起き上がらなくって・・・殺してしまったんだと思った」

 そして、医師も部員も呼ぶことなく、その場から立ち去ってしまったのだ。

 マークの告白に、部員たちは何も言えず立ちつくしている。

「俺を処罰してください。けれど、他の部員たちは一切関係していません」

 アレクシスを見て、マークは潔く告げた。

 その処罰の重さを想像しながら。

「わたくしは生きているわ!」


 

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