49 秋の感謝祭7
アレクシスの言葉に、部員たちは黙り込んだ。
多くの部員たちは、隣と顔を見合わせ、戸惑っている。
「カイナは・・・頭を殴られていました。意識がなかったんだ。殿下がいなければ、死んでいたかもしれない」
カールは拳を握りしめた。
「みんな、知っていることや気がついたことがあったら言ってほしい。頼む」
部員たちに向かって、カールは深く頭を下げた。
カールの姿に部員たちは息を飲み、そして、部員の一人が口を開いた。
「幕が降りたあと、器楽担当のみんなは反省会のために演奏室に移動したんです。だから、みんな一緒にいたし、カイナのこともさっき知りました」
舞台下にいた演奏者のみんなが、事実だとばかりに頷いた。
「器楽担当が引き上げたあと、声楽担当は午後のために舞台を開幕の設定に戻そうと小道具の移動をしていました。それで、準備が終わった後に、昼食もあるし、汚したらいけないからと衣装を着替えることになりました。女性と男性に分かれて、それぞれ衣装室に着替えに行ったんです」
「そしたら、アンジェリクの悲鳴が聞こえて・・・」
部員たちの視線が、一斉にアンジェリクに向かう。
髪をアップしていて、ピンク色のドレスを纏ったままの可愛らしい女性だ。
「私も衣装室に行こうとしたの。でも途中でイヤリングを落としたことに気がついて、慌てて取りに戻ったのよ。そしたら、カイナが倒れていて、びっくりして叫んでしまったの」
確かに、多くの部員たちは軽装に着替えているが、何人かは、衣装のままだ。
「あなたが駆けつけた時には、カイナ嬢はもう倒れていたと?」
「ええ」
アレクシスの問いに、アンジェリクは深く頷いた。
「・・・本当は、お前が殴ったんじゃないのか」
カールが厳しい口調で言った。
「以前、カイナにカリロット姫の役を降りろと迫っただろ」
「そんなことしていないわ。部長は私を悪者にしたいの?」
アンジェリクは両手で顔を覆い、泣きだした。
「決めつけるのはやめないか、カール」
アンジェリクを守るように前に出たのは、「カリロット姫」の舞台で、カイナの相手役を務めていたマークだ。
「カイナに直接やめろと言ったのは別の人間だとしても、彼女たちにそうさせたのはアンジェリク、お前だろう」
カールは引かなかった。
「お前が最後までカリロット姫のパートを練習していたことも知ってる。午後の部だけでも、カリロットを歌いたかったんじゃないのか」
アンジェリクはゆっくりと両手を顔から離した。
「歌いたかったわよ・・・」
その声は低く震えていた。
「この3年間、必死で歌ってきたわ。ずっと、感謝祭で主役を演じたかった。でも叶わなかった・・・・。一体、私とカイナの何が違うっていうのよ!!」
本音を吐き出した彼女の姿を、みんなが呆然としたように見ている。
「全然違うよ」
カールは真っ直ぐにアンジェリクを見つめた。
「君とカイナじゃ、全く違う」
アンジェリクは怒りを滲ませた瞳でカールを睨みつける。
「君がもし、午後の部でカリロットを演じたなら、午前中の舞台を見て、午後も、と思ってきた観客たちは、がっかりして途中で席を立つかもしれない」
カールは淡々と述べた。
「それくらい実力が違うんだよ。そしてそれが本当に自分で分からなかったのだとしたら、君に音楽をやる才能はないね」
カールの厳しすぎるほどの評価に、アンジェリクは俯いた。
「それで、君がカイナを殴ったのかな」
冷静なアレクシスが本題を尋ねる。
「できることなら私が殴りたかったわ。だけど、本当に私じゃない」
アンジェリクは目を充血させながら、今度はひどく冷静な声で答えた。
部員たちはどうしていいか分からないようで、戸惑ったような表情を浮かべる。
「アンジェリク嬢、君は、カイナが倒れているのを見て、いつ悲鳴をあげたのかな。気がついてすぐ?それともしばらくして?」
「うつ伏せに倒れているのを見つけて、すぐに駆け寄って呼吸を確かめたわ。意識はなかったけど、呼吸はしてたから、死にはしないだろうと思った。けれど、頭の怪我がひどくて・・・出血が止まらなくて、彼女の体の下に血が溜まっていったから、怖くなって叫んだのよ」
「その時に何か見なかったか」
「・・・・いいえ」
「私たちは、アンジェリクの悲鳴を聞いて駆けつけました。そして、先生がお医者様を呼びに行くから、その間、みんなに触るなって言って・・・・・。それでみんなで、お医者様を待っていたんですけど部長が、殿下を呼んでくるって言って」
「それで私たちがここに来たんだね」
アレクシスは周りを見渡した。
「わかった。他に証言がある者は?」
音楽部員たちは一様に黙り込んだ。
カールがアンジェリクを責めたことで、気まずい空気が広がっている。
「カイナ嬢に聞くしかないみたいだね、もし犯人がいたとして、それを彼女が見ていないとしたら、ウィリアム、どうにかできるかい?」
アレクシスが視線を送った方向には、国一番の魔法使いがいる。
「はい、たぶん」
ウィリアムはあっさりと返事をした。




