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46 秋の感謝祭4

 ユリアは幸せな気持ちでを感謝祭までの日々を過ごしていた。

 今までにないほどに浮かれていた。

 綺麗で、優しくて、繊細で、ちょっと自信がなかったアレクシス。

 事件のショックで、獅子から人間に戻れなくて、獅子になることをユリアに知られたくないからと、ずっとユリアを寂しくさせていた。

 理由が分かってからも、どこかで、辛かった自分の思いを分かって欲しいというわだかまりがあったのかもしれない。

 それが綺麗さっぱりなくなって、まるで片思いが実ったような気持ちだった。

(私って単純だったのね・・・)

 言葉にしてもらえることが、こんなに嬉しいことだなんて知らなかった。

 贈られた花飾りを見ては、ニヤニヤと頬を緩めてしまう。

 侯爵令嬢たるもの、この顔は人に見られてはならない、と気を引き締めるものの、すぐに弛んでしまう。

 アレクシスがあんなにはっきりとダンスのパートナーに誘ってくるとは思っていなかったのだ。

(あー、嬉しすぎるー)

 ユリアは鏡に向かって表情を制御しようと戦っていた。

 今日はついに秋の感謝祭の1日目だ。

 芸術部の描いてくれた歌劇用の巨大看板は昨日のうちに設置した。

 歌劇「カリロット姫」は、主人公のカリロットが、幼馴染みで恋人の伯爵を妹に奪われ、居場所を失ってしまい、過酷な状況の中で自分の生き方を見つめ直し、新たな恋人とともに伯爵と妹を見返そうと奮闘する物語だ。その悲劇的な場面は実に抒情的であり、観客の涙を誘う。また、自分の道を歩もうと、自らを奮い立たせるような音楽は、心を打つものがあった。

 カイナ=グランカは歌声も演技力も本当に優れている。

 ユリアはカイナが好きじゃない。けれど、嫌いにはなれなかった。

 そして、歌劇は絶対に本番を見たいと思っていた。

 あれだけの調和、音楽部のみんなは、どれほど練習したんだろうと思う。

 そしてその音楽に負けない歌唱力。

 絶対成功してほしいと強く思う。

 看板に異常がないかが気になって様子を見に行くと、そこにはクラウスがいた。

「おはよう、早いわね、クラウス」

 ユリアが声をかけると、クラウスは苦笑した。

「ユリア様こそ」

「気になっちゃって」

「俺も」

 クラウスは「みんな、本当に頑張ってたからなあ」と続ける。

 ユリアはクラウスと看板の留め具などももう一度チェックして、大丈夫そうだな、と安心する。

 二人はホールの扉を開けて、そっと顔を覗かせて中の様子を伺った。

「シュマルフ侯爵令嬢様」

 ぬっと顔を出して、ユリアの前に立ちはだかったのは、カイナだった。

「ひっ」

 顔の近さに、ユリアは思わず後退りして、クラウスにぶつかる。

「あら、二人、お似合いですわね」

 カイナは嬉しそうに笑う。

 ユリアは咳払いをして、体勢を立て直す。

「カイナ=グランカ様、調子はいかがですか?」

「調子?完、璧、ですわ」

 自信に満ち溢れた様子で、カイナは答えた。

 その様子に、ユリアは圧倒される。

 果たしてこんなふうに受け答えできる何かが、自分にあるだろうかと思う。

「そう・・・今日の歌劇、文化的行事部一同、楽しみにしております。音楽部の皆さんにもお伝えください」

「分かりましたわ。アレクシス殿下とはお二人で観てくださるの?」

「ええ、午前の部を観る約束をしております」

「ふふ、そう。楽しみですわ」

 カイナ=グランカはまるで、この舞台でアレクシスの心が変わるとでも思っているのか、不敵な笑みを浮かべていた。

 彼女は、アレクシスに婚約者がいることを、悲観していないのだ。

 まるで挑戦者の様だと、ユリアは思った。

 普通なら男爵家の令嬢という身分で、王子に自分をアピールすることなんてなかなかできない。

 しかし、カイナは自分を磨き上げて、才能を見せて、個人の魅力でアレクシスを魅了しようとしている。

(なんてあっぱれな人なの)

 王妃は無理でも愛人ならいける、とでも思っていそうだ。

 いや、愛があれば立場なんてどうでもいいと思っているのかもしれない。

 決してそんなことは許さないし、認めないけれど、自分にはない魅力をもつカイナに、ユリアは一目置いてしまうのだった。

 ユリアとクラウスはホールを出て、芸術部の展示の様子を見に行こうと歩き出した。

 アレクシスとの待ち合わせにはまだ時間がある。

「さっきの歌姫、すごい人だったな」

 クラウスはやや遠い目をしながら、話す。

「ええ、いろいろな意味でね」

「彼女、殿下のことで一部の貴族令嬢からは相当責められてるって聞いたけど」

「え・・・・・?」

「まあ、それがあった上であの態度なんだから、大丈夫だと思うけど」

 そもそも、婚約者のいる人に好意を寄せること自体が非常識だ。

 まして自分より高位の貴族に、しかも王子に付き纏うなんて、非難されても仕方がない。

 家を通して正式に抗議してもいいくらいだ。

「ユリア様は、怒ってもいいし、責めていいんじゃない?」 

「うーん、なんかねー、許せないんだけど・・・、侯爵家の私としてだと、闘わずして勝ってしまうじゃない」

「というと?」

「私個人として、闘いたい気持ちにさせるのよね、彼女」

 クラウスは唖然とする。そして、耐えきれないように吹き出した。

「いやぁ、彼女、すごいわ」

「そうね、同感だわ」

(でも、負けたくはない)

 そう、ユリアは闘って、勝ちたいのだ。

 今日アレクシスとダンスを踊るのは、ユリアなのだから。


 

 

 

 


 

 

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