44 秋の感謝祭2
ユリアは芸術部の様子を見ようと展示スペースに訪れた。
「あ、ユリア様」
「どう?順調に進んでいる?」
「はい。ただ入り口の世界観がどうこうで、まだたまに言い合いはありますけど、今のところは計画通りです」
展示スペースの扉をくぐった瞬間に別世界に引き込みたいとかで、芸術部の部長はかなりこだわっていた。期日が迫っていることもあって、早く作業を進めたい部員と、こだわりすぎるくらいこだわる部長とで、すぐに言い合いが始まるが、ユリアはそれを見て、
(青春だわ)
と呑気に思っていた。
「うんうん、いいわねー。素敵だわ」
なんだかんだ、雰囲気のある空間になってきた展示スペースを見て、達成感を感じる。この後、音楽部にも顔を出そうと思い、練習をしているはずの音楽ホールへと向かった。
複数の部の準備過程を楽しむことができるのは、文化的行事部ならではの特権だった。
ユリアは幼い頃からピアノを習っていたが、嗜み程度だ。時間を忘れて注ぐほどの情熱はない。人が音楽に心惹かれるのは、作曲家や演奏家の尋常ではない熱量が込められているからではないかと思う。一音の美しさ、それが連なることで表現されるもの。そこへのこだわり、執着。
けれど、音楽や絵画などの芸術がいかに貴族に受け入れられようとも、爵位を継ぐ者や婚約が決まっている者は、芸術家として生きていくことは望まれない。この学園の期間だけが、芸術に没頭できる限られた期間なのだ。
卒業すれば、趣味の範囲にとどめなければならない者は多い。
そして、限られた期間であっても、情熱を注ぎ、活動してきたことの披露の場が、この秋の感謝祭なのだ。
ユリアはホールの扉を開けた途端、体で音を感じた。
繊細に奏でられる音楽。その土台の上に、感情を乗せた歌がホールを包みこように響く。
体全体で絞り出すように歌うその人は、カイナ=グランカだった。
ユリアは震えた。
油断すると涙が溢れそうになるほどの感動を覚える。
(すごい・・・・・)
もちろん、歌姫マルディアには及ばないのかもしれない。けれど、魂で歌うようなその声、その姿に、ユリアは確かに胸を打たれた。
ユリアはしばらく練習を鑑賞していたが、成功間違いなし、と確信して、そっとホールを出る。
トボトボと歩きながら、どこか夢見心地でいた。
ユリアのいう婚約者がいるにもかかわらず、アレクシスにまとわりついていたという彼女、正直腹立たしい人だ。
(でも、応援したい)
彼女はあの座を手に入れるために、きっと想像をを越える努力をしてきたのだろうと思った。
腹立たしい以上に、彼女を応援したくなってきて、ユリアは何だかアレクシスに会いたくてたまらなくなった。
その日、夕食を済ませて部屋に帰ると、ユリアの部屋に手紙が届いていた。
差出人が書かれていなくても、アレクシス専用の封筒だと分かる。
ユリアは急いで封を開け、中身を見た。
ーーーー明日の正午、シエロンの木の下で会いましょう。
と書かれている。 シエロンの木とは、中庭にある白い花をつけることで有名な木だ。
ユリアは用意していたタッセルを渡そうと準備する。
そして、明日花飾りをアレクシスからもらえるかもしれないと思うと、ドキドキした。
お互いに秋の感謝祭の準備が忙しかった上に、アレクシスはこれまでの遅れを取り戻そうとしていたのもあり、なかなか会えなかったのだ。
これまで避けていたのもあり、選択する授業も被ってはいなかった。
(喜んでくれるといいな)
プレゼント様に箱にしまった手作りのタッセルを見ながら、ユリアは明日を心待ちにした。




