43 秋の感謝祭1
秋の感謝祭は2日間かけて行われる。
文化的行事部に所属するユリアも、その準備に追われ、忙しい日々を過ごしていた。
まず、芸術部内で揉めないように一緒に展示会場の割り振りを決定した。芸術を愛する人たちは、その設置へのこだわりも強いため、ものすごい精神力を要した。
また、音楽部の歌劇は感謝祭1日目に午前、午後の二公演を行うことになり、その広報や時間の周知徹底は、文化的行事部に任された。
「芸術部の方に歌劇の広報用巨大看板を描いてもらっているから、その設置は手伝いましょう。あと今日は当日の時間を周知してもらうために、小看板を10箇所に設置します。数が多いので、二人組で設置していきましょう」
ユリアが看板を持つと、みんな遠慮して我が我がと持っていってしまう。
残っているのは3人、看板は二つ、という状況になったとき、
「遅くなりましたー」
慌てたように入ってきたのは、クラウス=ローゼンだった。
「ちょうどよかったわクラウス」
ユリアはクラウスと二人で小看板を設置することになった。
最後の看板を持ち上げようとすると、横からサッと奪われる。
「俺が持ちますよ」
当たり前のように言うクラウスに、ユリアはありがとうと礼を言った。
立場上、気を遣われるのは仕方ないが、自分にも看板を持つ力くらいあるんだけどな、とも思う。
ユリアは看板を固定するためのロープを持ち、クラウスを横目で見た。
クラウス=ローゼン。同じ、文化的行事部の仲間だ。
伯爵令息の彼は、剣術が得意らしく、体格のいいなかなかの美形だ。性格はさっぱりとしているが、周りに気配りができる人で、ユリアにもよく声をかけてくれる。
正直、貴族令嬢の人気は、アレクシス以上だったかもしれない。
なんというか、女性の扱いがうまいのだ。
恋愛に慣れている感じがして、ユリアはほんの少し苦手だった。
ユリアが「大好き」と言っただけで耳を出してしまうアレクシスとは違う。
「二人きりだから聞いてしまいますけど」
クラウスは唐突に尋ねた。
「夏季休暇に何があったんですか?」
学園中の生徒が聞きたくて、聞けなかったことを。
ユリアは躓きそうになり、なんとか堪えた。
「え?」
「いや、殿下とユリア様、正直微妙な関係に見えたから、最初は大丈夫かなって心配してたところもあったんです。だけど、その内、これはチャンスなのでは?と思って、俺なりにアプローチしてたんですけど・・・」
「え・・・・・?」
これは一体何の話かと、ユリアは訳が分からなくなった。
「もちろん身分差があるのは最初から分かっています。でも、これまであんな態度とっていた殿下と、休み明けあんなにイチャイチャされるとは思ってもいなかったんで、正直、今、落ち込んでます」
「ク、クラウス、何言って・・・」
「え、何?もしかして俺のアプローチまるで気がついてませんでした?」
「・・・・・・・・はい」
ユリアは申し訳なくなり、俯く。
「まあ、王太子殿下の婚約者様なんで、最初から思いが実るなんて思ってなかったですけど」
クラウスは強がるように言う。
「でも、まさか気付かれてもいなかったとは思わなかったです」
「ご、ごめんなさい」
「謝らないでください。あ、ちなみに部のみんなは、ユリア様以外はみんな気付いてますよ」
「え?」
「シエルは一番最初に気付いて俺に言ってきましたけど、他のみんなもなんとなく気遣ってくれてるの分かるんで」
ユリアは衝撃的な事実に、どう対処してよいのか分からなかった。
「あーあ、失恋か。あ、ユリア様、王妃なんて嫌だ、と思ったらいつでも言ってください。伯爵家でよければいつでも引き受けるんで」
失恋、と言いながらも、どこか突き抜けた明るさのあるクラウスに、ユリアは少し救われる。
「そんな日は来ないと思います」
「でしょうねー。一途だもんなー」
決して、本気ではないのだろうと、ユリアはなんとなく感じていた。
冗談のように言うクラウス。
確かに本気が混じっていたのかもしれない。
でも、ここまではっきりと好意を示されたことなんて、なかったのだ。
だからきっと本当に、実るはずの思いではないことも、実らせてはいけないことも分かった上で、今、終わらせようとしているのではないかと思った。
「私はアレクシス殿下をお慕いしているので、ごめんなさい」
ユリアは、はっきりと言った。
クラウスはどこか、ほっとした様にも見える。
「いい、王妃様になってくださいね」
「それはさすがにまだ早いわ」
ユリアは笑った。
それにクラウスも苦笑する。
思いに応えることは決してできないけれど、人に思われるというのは嬉しいものだ、とユリアは思った。同時に、それを断ることは、ひどく苦しいことだとも。
それでも、
(はっきりと断ってほしいと、私は思うのよ、アレクシス様)




