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36 抜け殻のウィリアム

 約4年の歳月をかけて、情熱を注いできた。

 元の姿に戻してあげたい、そう思って、力を尽くしてきた。

 モフモフに癒されながら、失敗を嘆きながら、テディとお馬さんごっこをしながら・・・・・。

 しかし、アレクシスはウィリアムの魔法陣ではなく、自力で人間に戻ったのだ。

 自分の魔法なんかより、加護の力は圧倒的だった。

 やはり精霊の加護はすごい。

 ウィリアムは、庭園の椅子に座って、ぼうっと空を眺める。

(あ、今日の雲、獅子のテディ様みたい・・・・)

 モコモコの雲を眺め、ウィリアムは思った。

 爆発事件の後、その処理に追われて忙しかったが、しばらくしてエドワードから、アレクシスが元に戻ったと聞かされ、礼を言われた。

「いやあ、長年アレクシスのために尽力してくれた。感謝する」

 何か褒美に欲しいものはあるか、と微笑む国王の言葉が、ウィリアムをすり抜けていく。

 目標を見失ってしまったような気がしたし、大切なものを失ったような気もした。

ーーーーリーさまぁ!

 小さくて可愛いテディの姿を思い出す。

 もう会えないのかな、と思うとほろりと涙が出た。

 魔法陣は未完成のままだけど、

(もう完成させる必要もないか・・・・・)

 懐の亜空間には、獅子になった時のストレス解消用に、遊び道具の毛玉が入ったままだ。

(・・・・・寂しい)

 あのもふもふした毛に無性に飛びつきたくなる。

(いや、戻れてよかった、よかったんだよ・・・)

 アレクシスを人間に戻す魔法陣の研究は終了しても、加護の研究はまだできるのだから。

 ウィリアムはそう思い、立ち上がった。その時、

「あっ、いた!ウィリアムさーん」

 突然、聞こえてきた声に、ウィリアムは振り向く。

「あ、シュマルフ公爵令嬢様」

 ユリアが慌てたように駆け寄ってくる。

 ドレスで走るのは大変そうだな、と呑気に思った。

「お久しぶりです。よくここにいるのが分かりましたねー」

 ユリアは少し息を切らしながら言う。

「お久しぶりね、ちょっと来てくれるかしら」

 ユリアは短い挨拶をして、ウィリアムをどこかに連れて行こうとする。

 何やら焦っているようだ。

「どうしたんですか?」

「どうもこうも、出ちゃったのよ」

「?」

「耳と尻尾が!」




 しばらく歩いて庭園のガゼボに行くと、そこには頭を抱えるアレクシスがいた。

「アレクシス様、連れてきたわ」

 ユリアの声にアレクシスが振り向く。

 ウィリアムはその手からはみ出る獣耳に、思わず声を上げた。

「耳!」

「ウィリアムさん、なんだか嬉しそうね」

 ユリアの声にはっとし、思わず顔を引き締めようとするが、上手くはいかなかった。

 顔芸を披露するウィリアムに、ユリアは堪えきれず吹き出した。

「いいわよ、気持ち、分からないでもないわ。可愛いものね」

 テディよりもずっと大きい17歳のアレクシス。

 美しい銀髪の少年に耳と尻尾が生えている。

 しかも今は、不安そうに表情を曇らせ、戸惑っている。

 その姿は、なぜか見てはいけないもののような気がした。

 コホン、と咳払いをして、挨拶をする。

「アレクシス殿下に、筆頭魔法使いウィリアム=ザッハークがご挨拶いたします」

 畏まったウィリアムに、ユリアもアレクシスも違和感しかなかった。

「ウィリアム・・・・・私には獅子の時の記憶も、テディの時の記憶も全て残っているんだ。いつものウィリアムで構わないよ」

 そう言われたウィリアムは、「わかりました」とはにかむように笑った。

 そして、観察を始める。

「ちょっと見せてくださいね」

 ウィリアムが言うとアレクシスは恥ずかしそうに手を離した。

「うーん、これは・・・・・」

 ウィリアムに、ユリアもアレクシスも何か分かるのかと期待を寄せるが、

「耳ですねー」

 見たままのこと言われただけだった。

「テディ様に生えていたのと同じ耳です。元に戻っていたんでよね。どうして生えたんです?」

 抱き合っていたら生えたのだ、とはユリアの口からは言い難い。

 アレクシスはウィリアムにそっと耳打ちした。

「ほー、なるほどー」

 二人の顔が朱に染まる。

「アレクシス殿下、セシリア王立学園に入学した時のことを覚えていらっしゃいますか?」

「え・・・・?」

 ユリアはウィリアムの言葉に敏感に反応した。 

 そして、思い出す。

 そういえばお茶会の時、王妃は確か、第一学年の秋頃からアレクシスは泥人形になったと言ったのだ。

 ということは、入学当初は本物のアレクシスだったということになる。

「ユリア、あの、ちゃんと話そうと思っていたんだからね」

 ユリアの曇った表情に、アレクシスは焦ったように言い訳をした。

「もちろん、覚えている。あの頃はまだ記憶も混乱していたし、突然元に戻って、戸惑ってもいた」

 アレクシスは思い出すように語り始めた。




 

 

 

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