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35 ア、アレクシス様・・・!!

 乳母に呼び止められたアレクシスは、フレディからプレゼントがあると言われ、ティールームに案内された。

 部屋の中には、乳母以外にも侍女や侍従が多くいて、アレクシスが警戒することはなかった。

「フレディ殿下はアレクシス殿下に憧れていらっしゃるのですよ」

 そう言われると、照れくさがったが、嬉しかった。

 フレディは気持ちの優しい弟だった。

 次期国王として教育を受けるアレクシスは習い事が多く、自由に使える時間はそれほどないけれど、今度お茶のお礼をしに会いにいこうと、そう思った。

「そして、乳母の出した毒の入った花紅茶を、疑いもせずに飲んだんだ」

 アレクシスの言葉に、ユリアはゾッとした。

「私が今生きていられるのは、リオネル様の加護があったからだ。普通なら多分死んでたよ」

 アレクシスは深刻になりすぎないように、あえて軽く言った。

 しかし、ユリアにそれが軽く伝わるわけがない。

「生きてて・・・よかったぁ・・・・・」

 涙ぐみながら、ユリアはそれ以外言えなかった。

 いろいろあった。

 ユリアを避けるアレクシスに傷付いた。

 理由が分からなくて、婚約者なんてもうどうでもいいから、青春しようと気持ちを切り替えて、学業に励んだ。

 おかげで親しい友達ができたけれど、大好きだった人のことが分からなくなって、寂しくて泣いたこともある。

 それでも今、ユリアの前にアレクシスがいる。

 本物のアレクシスだ。

 アレクシスはユリアの手に自分の手を重ねた。

 その温もりが、お互いの心を慰める。

「毒から身体を守ろうとして、私は獅子になった。その時の記憶は少し曖昧なのだけれど、ものすごい怒りと痛みが身体中に渦巻いて、自分でもどうしようもなかったのを覚えている・・・・・。気が付いたら、部屋にいた者たちが皆、怪我をして倒れていたんだ」

 その光景はいつも自分を責め、苛んだ。

「乳母は私に毒を飲ませた後に、おそらくだけど、同じ毒を飲んで死んだんだ。即死だったよ」

 自分に殺意を向けていたの人の死に、まるで自分が殺したかのような気持ちになった。

「ただ・・・・」

「ただ?」

「あれは本当に乳母の意志で行ったことだったのかって、今でも疑問なんだ」

 本当はこんなことしたくないのに、とそう思っていたのではないか。

 だからあんなに悲しい顔をしていたのではないか。

「私は・・・毒を飲まされたこともだが、コントロールできない力で人を傷付けてしまったことが何よりも恐ろしかった」

 ユリアは13歳の幼いアレクシスを思う。

 人見知りで、繊細で、いつもユリアを気遣ってくれたアレクシス。

 気の弱い自分が王に相応しいのだろうかと悩んでいたことを、ユリアは知っている。

「しばらくは獅子から戻れなくて、それで、父上がウィリアムを呼んだんだ」

 当時のウィリアムは二十歳。

 その頼りない見た目は、本当に栄誉ある魔塔の魔法使いかと周りから疑われるほどだった。

「最初はただ、魔法陣をしかけてくるだけだったんだけど、彼はとても優しくてね」

 ユリアは頷いた。

 貴族社会は疑い深くないと生きていけないところがある。

 言葉の上辺だけを信じていたら痛い目を見る。

 その言葉の奥に、その表情の向こう側に、一体何があるのかを探りながら生きているのだ。

 けれど、ウィリアムからは、そうやって生きていることが虚しくなるほどの純粋さを感じた。

(24歳なのに4歳のテディと同レベルだったような気もするけど・・・)

「彼のおかげで、少しずつ痛みが癒されていったんだと思う。ある日、人間に戻れたんだけど・・・・」

「4歳だったわけね」

 テディの誕生である。

 アレクシスは頷き、頬をかいた。

「ウィリアムの魔法陣が未完成であったのと、おそらく私自身が、元に戻ることに拒否感があったんじゃないかと思うんだ。それでなのか、テディの時には、以前のことが何も思い出せなかった」

 アレクシスにとって、それほどに心を傷付ける出来事だっということなのだろう。

「ウィリアムは父上に報告し、私は父上から、テオドールと名付けられた。母上のお腹の中で亡くなった子どもに名付けようと考えていた名前らしい」

 子どもが女の子であった時の名前も考えていたらしいことから、エドワードが我が子の誕生をどれほど楽しみに思っていたのか、伺い知れる。

「私はあまりに父の特徴を受け継いでいるからね、色で勘繰られることがないように、テディでいるときはウィリアムに髪と瞳の色を変えてもらっていたんだ」

「本当はね」

 ユリアは告白するように言った。

「テディはディーン殿下に似てるなって思っていたの」

 アレクシスは意外そうに驚いた。

「だからね、恥ずかしかったから認めたくはなかったんだけど、もしかすると・・・って、最近は思ってたの」

 認めたくなかったけど、と繰り返すユリア。

「ユリア、君がテディを癒してくれたから、その・・・愛情を感じられたから、だから私は・・・」

 アレクシスは椅子から立ち上がり、今、ユリアの目の前にいる。

「元に戻る勇気をもてたんだ」

 アレクシスはユリアをそっと抱きしめる。

 優しく抱きしめられたユリアは、その温かい体温に、恐る恐る両手を伸ばし、きつく抱き返した。

「癒されたのは私も一緒よ。テディは・・・いつも力いっぱい私を護ろうとしてくれた」

 ありがとう、と思いを伝える。

 心が満たされ、この充足感はお互い以外では得られないだろうと思えた。

(・・・・・ん?)

 ユリアの目に、一瞬ないはずのものがうつる。

(いやいや、そんなそんな)

 抱き合ったまま、ユリアはまさかと思い、もう一度確認してみる。

(んん!?)

「アレクシス様、元に戻れて喜んでいるところなんですが・・・・・」

「え?」

「尻尾が揺れていますー!!!」

 ちなみに耳も出ていた。


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