32 テディとアレクシス1
大精霊リオネルへの賛辞がアレクシスに向けられたのち、貴族たちは次第に落ち着きを取り戻し、それぞれに迎えにきた馬車に乗って家路に向かって行った。
アレクシスはそれを最後まで見届けることはなく、ユリアと別れた後すぐに、エドワードの元へ向かった。
久しぶりに対面する父親に、少し緊張する。
エドワードが部屋の扉をノックすると、中にいた執事がその扉を開いた。
失礼します、と言いながら中に入ると、そこには体を起こしたエドワードと、そのベッドに伏したフレディの二人がいた。
「アレクシス・・・・・?」
エドワードは一人で現れた息子に戸惑った。
「本物のアレクシスです、父上。お久しぶりです」
「ほ、本当に、本物なのか・・・・・?」
その優しげな話し方に、すぐに本物だと気付いた。
しかしそれでも、確かめずにはいられなかった。
侍女に毒を飲まされた息子。
今度こそ、完全に元に戻れたのだろうか。
アレクシスはエドワードの肩をそっと抱きしめた。
「ただいま帰りました、父上」
エドワードは「よく帰った」と言いながら、もう小さくはないアレクシスのその肩を抱きしめ返した。
爆風をまともに受け、全身打撲のような状態のその体は、少し動かしただけで痛みが走る。
エドワードは顔を歪め、苦笑した。
「大丈夫ですか?」
「ああ、じっとしていれば大丈夫だ」
「ぼくが治します」
「治す・・・?」
「加護の力です。こういう時にこそ、使う力なのだと思います。」
「・・・・そうか」
アレクシスは発光し、エドワードはその熱を感じた。
驚いたことに、疲労まで回復したかのように元気になっていた。
「これは・・・すごいな」
獅子にも姿を変える息子だ。
あれ以上驚くことはきっとない。
アレクシスはどこかあどけない顔をして眠るフレディの顔を覗き込む。
「可愛いだろう、さっき泣き疲れて眠ったところだ」
愛おしそうに、エドワードはその頭を撫でる。
「泣き疲れて?」
「今回の爆発事件にな、この子が関わっているらしい」
エドワードはそっとベッドを降り、代わりにフレディを元いた場所に寝かせた。
頬に涙の跡が残っている。
「あちらで話そう」
エドワードとアレクシスは部屋を変え、ソファに腰掛ける。
すぐに執事がお茶を入れてもってきた。
エドワードが目配せをすると、礼をして、部屋を出ていった。
「さて、どこから話そうか」
エドワードはそう言うと、今回の事件に関与したと思われるキール=ザフィールという男について話し始めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ーーーーあーん、パクっ。
テディがユリアの口元にパンケーキを運ぶ。
ーーーー美味しいねー。
ユリアはベッドの上でテディと見つめ合い、美味しさを伝え合った。
(あれ・・・?テディ、何だか大きくなって・・・・・?)
ーーーー本当に美味しいよ、ユリア。
ユリアの横にいた銀髪のアレクシスは、テディと同じように口元にパンケーキを運ぼうとする。
ーーーーユリアも、はい、あーん。
その姿は、どこか艶めいていた。
(やだ・・・待って・・・なんかこれ、最高に恥ずかしいんですけどー!!!)
絶叫したかと思うと、目が冷めた。
窓の外で、鳥が鳴いている。
夢だった。
ユリアは寝起きから赤面に陥り、「ななななんだ、夢か!」と独りごちる。
「おはようございます、お嬢様。寝起きから挙動不審ですよ」
侍女のメルが呆れたように言い、カーテンを開けた。
「お、おはよう、メル。ちょっとすごい夢を見ちゃって、あは、あは、あはははははははは」
「怖いです、お嬢様」
シャウジャミアンとの友好パーティーの日から3日目、早くアレクシスに会って話を聞きたいところだが、王宮もまだ混乱しているみたいで、その処理に追われているようだった。
夏季休暇も残すところわずかだ。
王都にいる間にアレクシスに会えるかも怪しい。
夏季休暇に入ってすぐに誘拐されて、テディに助けられて、ウィリアムという変わった魔法使いに会って、王妃様のお茶会に呼ばれて、アレクシスが泥人形だと知ったら、すぐに本物のアレクシスに会えて、そしてテディはいなくなった。
(無茶苦茶すぎるわ・・・・・)
わずか1か月の出来事だとは思えない程に濃い。濃すぎる。
特に家族全員が可愛がっていたテディがいなくなったのは辛い。
なんだかんだ、屋敷中のものがテディに癒されていたのだ。
突然アイドルがいなくなったものだから、みんなどこかしょんぼりとして見える。
(ちゃんと話がしたい)
テディの正体とか、本物のアレクシスの事情とか。
パーティーの後に教えてくれると言っていたのに・・・と拗ねたくなるが、あんな事件があれば仕方ない、と分かってもいた。
その日の午後だった。
アレクシスからユリアに会って話がしたい、と連絡があったのは。




